第25話 ラクアピネスに会いに来た理由

「ほう、ここまでたどり着いたのか」


 オーガミッドは周囲を見回してから言った。


「小僧、ほかの奴はどうした?」

「みんなは戦っている」

「なるほど、で、お前だけのこのことやってきたわけか」


 俺が黙っているとオーガミッドは肩の力を抜いて聞いてきた。


「それで、小僧は何しにここへ来たのだ?」

「ら、ラクアピネスに会いに」

 

 オーガミッドはラクアピネスを一目見て言った。


「会いに? 帰るんだな小僧。ラクアピネスは誰にも渡さない」


 パチンと指を鳴らすとワープみたいに別の空間が現れた。


「今すぐそこを通って帰るんだ」


 俺は帰れない。


「オーガミッド。お前はウィザティーンたちと取り引きしたんだろ? 俺たちを倒す代わりにラクアピネスを差し出すと」

「ああ、した。だがそれは嘘だ。戦う口実をつけてやったのだ。ラクアピネスは吾輩のものだ」

「うそ? じゃあ今戦っているのは……」

「そうだ、無駄な争いだ。何の意味もない。言うなれば吾輩の手間つぶしだ」

「お前はラクアピネスをどうする気だ」


 オーガミッドは牙を見せてニヤリとすると、ラクアピネスの肩に手を回して抱き寄せた。


「吾輩はこいつと結婚するのだ」

「けっこん?」


 どこの星の奴かわからないが、オーガミッドの星では俺たちの世界と同じ結婚という儀式があるのか。


「そうだ。だから小僧に用はない。帰れ」


 どんな理由があっても、ここで帰るわけにはいかない。


 俺は武器を取り出した。赤い銃が俺の手に収まる。


「そうはさせない」


 そう言ってその銃をオーガミッドに向けた。彼はラクアピネスから手を離し、目を細めてその銃を見つめた。それからワープに手をかざしてそれを消した。


「小僧にひとつ聞きたいことがある。ラクアピネスを手に入れて何をしたいんだ?」


 何をしたいか? それは……。


「俺は彼女と手を繋ぎたいだけだ」


 オーガミッドは目を丸くすると肩を小刻みに動かしながら笑った。


「ククク……手を繋ぎたいだと? 笑わせるな」


 俺は銃を構えながらオーガミッドに狙いを定める。


「ふん、まあいい。帰らないなら帰すまでだ。あの世へな」


 オーガミッドは手のひらを上に向けた。それと同時に俺は銃の引き金を引いた。銃口から炎の玉が勢いよく飛び出してオーガミッドに向かって行く。


 彼は片手で炎の玉を弾き返し、上に向けている手を振り下ろした。


 何かが飛んでくる音が聞こえて上を見た。いくつものナイフが俺に降り注いできている。俺はとっさに盾などを使いそれを弾いていった。


 隙を見ては銃を撃った。だが、ことごとく弾き返される。


 ナイフは生き物のように俺を狙って来る。

 走り回りながらそのナイフを避けているが、ナイフ自体が消えることはない。


 俺は銃を捨てて次の武器を取り出した。金色のサイコロが2個出てきた。


 俺はそのままサイコロを放り投げる。1と6の数字が出る。


「グッ……」

 

 俺の体は自由を奪われて壁に押し当てられた。オーガミッドの手から空気圧のようなものが放たれて、俺の体が押しつぶされるように壁に貼りつけになる。


 ナイフが俺を餌食のように突き刺そうと飛んでくる。


 目の前にナイフが来たとき、そのナイフは消えて壁に押し当てられている体は壁から離れた。


 するとオーガミッドが壁に貼りつけになりナイフが彼に狙い始めた。


 さっきと逆の立場になった。


「チッ」


 オーガミッドの角から稲妻が放たれてナイフは消滅した。壁に貼りつけにされているが、彼の体に黄色いシャボン玉のような物が覆うと空気圧は弾き飛んだ。


 さらにオーガミッドは手を上に向けてなぞった。


 見ると上から槍が何本も降って来た。俺は盾で防いだがその盾が弾き飛び消える。


 それから走って避けた。避けながら武器と防具を取り出す。


 カード1枚と白い翼が出て来た。翼はそのまま俺の背中に装着されて、手にはトランプが握られていた。


 とらんぷ? どういうことだ?


 ふと見ると俺の腕輪が点滅するように光っている。何気なくそれに触れてみた。するとまた1枚のトランプが出てきた。


 これで2枚……わかった、これはポーカーだ。


 時間がないので俺は次々にトランプを出していった。5枚で止まりそれ以上は出せなかった。


 そして、そのカードの並びを見てみると、2、3、4、6、6という数字でマークはハートやスペードなどといったバラバラな揃い。


 これはワンペアだ。


 揃ったカードは俺の手から消えた。


 突然、横から槍が飛んできた。俺が避けられずにその槍に当たりそうなると体についている翼が勝手に動いてその槍を避けた。


 槍は向きを変えてオーガミッドまで飛んで行き彼の肩をかすめる。


「ふん、なかなかやるではないか。だが」


 オーガミッドは俺に手にひらを向けた。途端に俺の体は動かなくなった。


 金縛りにあったみたいに体が俺の意思を聞いてくれない。次の武器が取り出せない。


 オーガミッドはもう片方の手に剣を出した。その剣は俺に狙いを定める。


「終わりだ」


 剣は空を切り裂きながら飛んできた。


 おわる? ここで? 何だったんだ、俺の戦いは……。


 俺は目を閉じた。すると俺の中の記憶がふいに蘇った。


「あの、シュガさんは何が0だったんですか?」

「俺は運が」

「運ですか。でもよかったです、こうして同じ人間に出会うことができたから」


 ミミヌイの声がした。


「せっかく依頼しに来てくださった方がなにかの拍子に求めるものを見つけられなかったらいけないので、探偵のわたくしが責任をもって最後まで手助けをいたします」


 リジュピッピの声がした。


「拙者は拙者のためにやっているだけだ。お主がどう考えているかわからないが、ラクアピネスを手に入れたら別れることも覚悟の上なのだろう、お主は」

 

 ソルティオルの声がした。


「ある人が目的のモノを手に入れた瞬間、その人はその場から消えたんだ。そしてその人はこの星に二度と姿を見せなかった。まあ、でもそれは天使の行動次第だとぼくは思うけど、要するにぼくたちはいつでも別れる覚悟をしているってわけさ」


 ポワティガの声がした。


 みんな、俺は……。


 カキンッ! と何かの音がして俺は目を開けた。

 そこにはソルティオルがいて妖刀で剣を叩き落していた。


「ソルティオル!」

「お主、大丈夫か?」


 俺は動こうしたが体を動かすことができない。


「体が動かない。それよりウィザティーンを倒したのか?」

「いや、フード女とは休戦している」

「きゅうせん?」

「フード女と話し合ってな、お互いに手を組んでオーガミッドを倒したほうが早いんじゃないのかってことになった」

「じゃあ……」


 室内が揺れた。見るとウィザティーンがオーガミッドを攻撃している。


「お主はここで休んでいろ」


 そう言ってソルティオルはオーガミッドに向かって行った。


 ウィザティーンが魔法を放つ、ソルティオルがその隙をついて妖刀を振りかざし攻撃する。


 オーガミッドはそれらをひらりひらりとかわしていく。


「ウィザティーンよ、どうしたのだ? 侵入者を倒す約束のはずだが」

「気が変わったのさ。あんたをやればラクアピネスを手にできるからな」

「ふん、所詮お前もただのコマにすぎぬ」


 オーガミッドは両手を押し出すようにウィザティーンとソルティオルに向ける。空気圧が走り、ふたりを壁に叩きつける。それから、その手を振り下ろした。


 すると、ふたりはその場から動かなくなり床に這いつくばった。


「こ、これは?」


 ウィザティーンが苦しそうに言う。オーガミッドは不敵な笑みを浮かべながら返した。


「お前らに重力を与えてやった。もう動けないだろう」


 ウィザティーンが小刻みに震えた手で杖を振ろうしたが、重力によりその手は床に叩きつけられた。


 ソルティオルも床に伏せてオーガミッドをにらみつけている。


「さて、これでお前らはもう攻撃してこれないだろう」


 オーガミッドは俺のほうを向くと片手に剣を出してそれをつかんだ。それから近寄って来て俺に剣を突き出す。


「小僧、終わりだ。最後に小僧の名前を聞いてやろう。吾輩に傷を与えたからな」

「シュガルコールだ」

「シュガルコール。その名前覚えておくぞ。じゃあな」


 そう言って俺の胸に向けて剣を突き出した。その瞬間、ドアが開いて何者かが部屋に入って来た。


 剣は弾き飛び壁に突き刺さった。


 オーガミッドがオーガミッドを殴っている。彼は上に吹き飛んだ。そのまま天井にぶつかり床に落ちて来る。しかし、片膝を立てて座るように着地した。


 俺の目の前にはリジュピッピとラップポロントがいた。

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