第24話 ひとりだけの通路
また通路が続いている。部屋よりは狭いけど、窓から流れている風景で広く感じた。
「拙者たちだけになってしまったな」
ソルティオルはつぶやいた。
「ああ、みんな大丈夫だろうか」
そう言って俺は来た道を振り返りそのドアに目を向けた。
「さあな、だがそれを信じるしかない。あいつらをな」
「うん」
「さあ、もたもたしてないで先に行こうぜ」
「ああ」
俺たちは次のドアの前に来た。
この先にオーガミッドかそれも別の何者かがまた待っているのか?
「いくぞ」
ソルティオルは俺に一声かけると中に入った。俺もそのあとに続いた。
部屋に入ると、そこは塔の上のようなところで周りには青い空や白い雲が見える。
部屋の真ん中にテーブルと椅子が置いてあり、そこに誰かが座っていてティータイムをしている。
赤いフードつきローブの格好した者がティーカップを口に傾けていた。
「うーん、ここで飲む紅茶もなかなかだ」
「お前はウィザティーン!? なんで?」
俺が言うと彼女はゆっくりとテーブルにティーカップを置いてこちらを確認してきた。
「われは考えたのさ。今のわれなら、貴様らもここにいるオーガミッドも倒せるとな」
俺とソルティオルは顔を見合わせて首を傾げた。
「なぜ、われがここにいるのかが不思議なのか?」
「ああ」
俺が答えるとウィザティーンは紅茶をひと口啜り言った。
「簡単だ。貴様らがこの船に乗り込んだ瞬間に世界中に広告がまかれたんだ。そこには『吾輩の船に盗賊たちが乗り込んだ。彼らを排除すればラクアピネスを褒美としてやろう。オーガミッドより』とな」
「俺たちがこの船に乗り込んだ瞬間に?」
「そうだ、だがそれは厳選されている。そこそこ強いモノでない限りこの船には乗れない仕組みになっている」
「どうして?」
「船に乗る前に選別させられるんだ。この船に乗り込もうとしたとき弾き返されるんだよ、弱きものが入れないようにな。貴様らがこの船に乗り込めたのはそれだけ強いってことさ」
ウィザティーンは再び紅茶をひと口啜る。
「ほかに質問は?」
「さっきオーガミッドを倒すと言っていたな。聞かれているんじゃないのか? 俺たちの会話を」
「あーそのことか。ここはプライベートルームでな、やつに監視されていない」
「なるほど、じゃあ何で俺たちを倒す? それより俺たちと手を組み戦ったほうがオーガミッドを倒しやすいだろう」
「……確かに。だがそれはできない」
「どうして?」
「われもラクアピネスが欲しくなったからだ。こうしてお前たちと戦えばオーガミッドにうたがわれないだろう。だからさ」
そう言ってまた紅茶を啜る。ソルティオルは俺に小声で話してきた。
「まさかウィザティーンがいるとはな」
俺はソルティオルに聞いた。
「どうやってやっつける?」
「とりあえず戦うしかないだろう。一応拙者は耐魔法の指輪をつけているからな」
ウィザティーンはティーカップをテーブルに置いた。
「さてと、そろそろ相手してやるか」
彼女は椅子から立ち上がり軽く伸びをしてから聞いてきた。
「どっちが先だ? それともふたり同時か?」
銀の杖を取り出して身構える。
俺たちも身構えた。ソルティオルはウィザティーンを見ながら俺に言った。
「拙者にいい考えがある」
「いい考え?」
「お主は拙者の後ろに隠れて攻撃の隙をつくんだ」
「攻撃の隙?」
「そうだ。拙者が適当に動いて攻撃を繰り出すから、その隙を」
「でも」
「安心しろ。拙者には耐魔法の指輪がある。お主はないのだろう?」
「うん」
「だったら、あやつの魔法を拙者が防いでやるから。お主は攻撃に集中するんだ」
「……わかった」
俺は武器を取り出した。細い剣が出てきた。防具は前に出した盾があるのでそれを使うことにした。
「じゃあ行くぞ」
ソルティオルの掛け声で俺は彼の後ろに隠れて隙をうかがった。ウィザティーンはそれを見て軽く笑う。
「ははは、ふたりでやるのか。何のつもりか知らんがそれで隠れているつもりか」
ソルティオルは妖刀を構えながら、ウィザティーンに近づき過ぎつ離れ過ぎずの距離をとりながら様子をうかがっている。
適当な位置に移動しながら俺をかばうようにゆっくりと動いている。俺はウィザティーンを見ながらその行動に合わせた。
呆れたといったようにウィザティーンは軽く首を振って俺たちに杖を向けた。
「攻めてこないならこっちから行くぞ」
そう言ってウィザティーンは俺たちのほうへ杖を軽く振った。
その瞬間、ソルティオルは俺に体当たりをしてドアのほうに突き飛ばした。
えっ!?
俺はそのままドアの外に出てうつ伏せで倒れた。その拍子に手から剣が離れる。
後ろで自動ドアの閉じる音が聞こえた。
そんな!?
俺は急いで戻ろうとしてドアを開けに行った。が、開かない。手でこじ開けようとしても開かない。
なんで?
俺はそのドアを叩いた。
クソッ。一緒にウィザティーンを倒すんじゃなかったのか? ソルティオル。
俺は握りこぶしにチカラを込めるとそのドアから離れて前を向いた。長い通路が次のドアへ繋がっている。
俺は歩き出した。静かだ。俺の足音だけが聞こえてくる。
さっきまでみんないたのに……最初にこの世界に来たときに戻ったみたいだ。
右を見ても左を見ても俺ひとりしかいない。そういえばそのとき服を着ていなかったんだっけ。
物干し竿が俺の頭にぶつかって、気を失っていたところをミミヌイに助けてもらったんだ。本人が落としてしまった物だけど、そのおかげで俺は服を着ることができた。服屋のミミヌイと会って探偵のリジュピッピがいることを知った。
リジュピッピは俺が幸運の女神を探していると言ったら、すぐに見つけてそこへ連れて行ってくれた。ワープを使って。
この世界の探偵だからそういったことも込みで探してくれるのだろう。
右も左もわからない俺にふたりにはよくしてもらった。本当に感謝している。
それから、最初は敵同士だったとはいえ、ソルティオルとポワティガが俺たちと一緒に行動することとなった。
彼らはどうか知らないが俺はふたりをもう仲間だと思っているんだ。
共にここまで来たから。
次のドアが見える。そのドアまでとても長く感じた。静かで明るい通路がとても不気味に感じる。
この先には何があるのだろう。誰が待っているのだろう。オーガミッドとラクアピネスが待っているのか?
俺はラクアピネスを追っている。彼女を手に入れたら俺はどうなるのだろう。俺はラクアピネスを手に入れたいのか?
一度立ち止まり来た道を振り返ってみた。長い通路あり、通って来たドアに繋がっている。
帰れない。帰ろうとしても帰れない。
俺はまた前を向いた。
帰れないなら前に行くしかない。
俺は再び歩き出す。
そして、重い足取りでようやく次のドアの前まで来た。
目の前にただの自動ドアがある。
誰かが側にいれば難なくそのドアを開けて先に進むことができただろう。
とくに深く考えもせずに。
でも、ひとりでいる俺はそのドアを開けるのを怖がっている。
開けたくない。
……いや、ダメだ。開けるんだ。だってここまで来れたのは仲間がいたからじゃないか。
俺は一呼吸し不安な顔を消して、意を決した。
俺はその部屋に足を踏み入れた。空の見える明るい部屋が俺を出迎えた。
飛行船の先端には大きな窓があって、そこからこちらに流れて来る地表や空が見える。
その手前にオーガミッドとラクアピネスが背中を向けながらその景色を眺めていた。
よく見るとその足元には犬や猫もいた。桃色の犬と黄色の猫が寝そべっている。
俺がその部屋の中央まで歩いて行くと、その足音に気づいてオーガミッドとラクアピネスが振り向いた。
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