第23話 船内での戦い

 オーガミッドの船内に入ると俺たちの乗っていた船の空間は消えた。


 船内は白く広い空間になってる。明るい白さのなかに一か所だけ両開きのドアがあった。


「ここが尾びれの部分ですか?」


 俺がリジュピッピに聞くと彼女は返した。


「はい、そうです。参りましょう」


 俺たちはドアまで行こうとして歩き出した。床も天井も白一面で少し眩しさを感じる。


『侵入者が現れました。ただちに排除してください』と突然、船内にアナウンスが流れる。すると、その一帯から、各部位に金属のパーツを取りつけた人型の者が現れた。


 顔の部分には金属の仮面をつけて頭には2本の角を生やしている。手には剣や斧などの武器を持っていた。


「こいつらは、リッピットラト星人?」


 俺が聞くとリジュピッピはそれに答えた。


「いいえ違います。おそらく、彼らはオーガミッドによって作られた者たちだと思われます」

「オーガミッドに……」

「来ますよ、戦いましょう」


 俺は慌てて武器を取り出した。黄色の銃が出てきた。それから首飾りにも触れると、片手で持てるほどの軽い金属製の盾が現れた。


 よし、これならいける。


 カチャカチャと敵の足音が聞こえてこちらに向かってくる。皆それぞれが攻撃を繰り出してその相手を倒していく。


 俺は銃を構えながら様子をうかがった。敵の1体が俺に目掛けて剣を振り下ろしてきた。俺はとっさに銃を撃った。その瞬間、銃から手に電撃が走った。


「いたっ!」


 持っていられずに、その銃を放り投げる。銃口からは稲妻が飛び出して敵に当たった。


 ビリビリと敵は立ち止まって、そのまま煙のように消滅した。


「消えた?」

「あぶない!」


 そう言いながら、リジュピッピは俺のすぐ横に来ていた敵に飛び蹴りをくらわして倒した。

 

「シュガルコールさん、大丈夫ですか?」

「え、ああ、ありがとう。彼らって、いったい?」

「さあ、わかりませんが、倒せばその物体は消えるようになっているようですね」


 そのあとも試行錯誤しながら敵と戦った。剣や槍などを使って。しばらくすると敵は出てこなくなり静かになった。


「終わったの?」


 ミミヌイが船内を見回しながら言った。リジュピッピがそれ答えた。


「そうみたいですね」


 それを聞いて俺は重い槍を床に落として消した。


「じゃあ、次に進んでみようぜ」


 ソルティオルが刀をさやに納めて言う。

 俺たちはドアに向かった。ドアは自動でスライドし俺たちを通した。


 長い通路がまっすぐ前に続いている。両脇には外の風景が見えるように大きな窓があった。


 進むとまたドアがあり、俺たちはそこを通って中に入った。部屋の中は広い空間になっていて、さっき俺たちが戦っていた部屋とあまり変わらなかった。


 部屋の真ん中に誰かが立っていた。よく見るとそいつには見覚えがあった。


 どこかの民族衣装を着た坊主頭の男。ボローボだ。


「お前は!? ボローボ」


 俺が驚きながら聞くと彼はニヤリと笑いながら言ってきた。


「ふん、久しぶりだなぁ」


 腕組みをして余裕があるように見せている。


「お主の知り合いか?」


 ソルティオルは俺に聞いてきた。


「ああ」


 俺はボローボに聞いた。


「どうしてお前が?」

「あ? そんなもん、この船の中にラクアピネスがいるからに決まっているだろ」

「オーガミッドの仲間だったのか」


「いや、奴とは取り引きしている。ラクアピネスをもらう代わりにここの護衛をすることだ、と」


「それで?」


「それで、さっき呼び出されて、お前らがこの船に乗り込んだ映像を見せてもらった。そして、ここにいるというわけだ」


 ボローボは身構えた。鷲づかみするように両手を広げて姿勢を低くしている。


「かかって来ないんじゃ、こっちから行くぜ」


 その言葉に俺たちは身構えた。するとポワティガが前に出て来て言った。


「ここはぼくに任せて、ほかは先に行って」

「え?」

「ぼくひとりで彼を仕留めるよ」


 ポワティガは棒を軽く回すと身構えた。


「でも……」


 俺が迷っているとミミヌイは言った。


「行きましょ、シュガさん」

「ミミヌイさん」

「だって、ポワティガさんが言っているんですよ、彼女に任せましょう」


 ポワティガはボローボの隙を逃さないように視線を向けている。


「う、うん。わかった」

「ポワティガ、ここは頼んだぞ」


 ソルティオルはポワティガに言った。


「はい」


 それから、俺たちはポワティガを置いて次のドアに向かった。


「おっと、そうはいかねぇ」


 ボローボは俺たちに向けて何かを放とうとした。ポワティガは素早く俺たちの前に来て、ボローボに棒を振り下ろしてその攻撃を防いだ。


「チッ」


 ボローボはにらみながらポワティガを見ている。


「みんな、早く次へ」


 ポワティガは俺たちを急かすように言う。俺たちはドアを開けて次に向かった。


 ドアを抜けると、さっき通った同じような通路に出た。後ろで自動ドアの閉まる音がする。


 俺たちは一度そのドアを見てから前へと歩き出した。


 そして何事もなく次のドアの前に来た。踏み出すと小さく電子音を立てながら、そのドアはスライドして開く。


 部屋の中に入ると、その部屋は青空、曇り、雪の風景にコロコロと姿を変えていった。


 部屋の真ん中に背もたれを向けているひとり用のソファーがあり、そこに誰かが座りながら何かを操作していた。


「なーんだ、大したもんね―じゃん」


 と言いながら、操作キーのような物を放り投げた。部屋の風景は雨で止まった。


 くるりとソファーを回転させて、そいつが姿を見せた。そこには足を組んで白衣を着ている女が座っていた。


「マドワレ、お前が何で?」


 俺が驚きながら聞くと彼女は不敵な笑みを見せる。


「やっと来たかボーヤたち、待ちくたびれたよ」


 そう言いながら、気だるそうにソファーから立ち上がった。


 マドワレは白衣のポケットに両手を突っ込みながら続けた。


「あたいはーここのオーガミッドと取り引きをしているんだ」

「ラクアピネスか?」

「おーおー察しがいいねぇ。そうさ、あんたらを仕留めればラクアピネスはこの手のなかだ」


 マドワレはポケットから錠剤を取り出して床にそれを撒いた。すると様々な武器を持ったマドワレが何人も出てきた。


「この先のドアを通りたかったら、あたいを倒すことだね」


 俺たちは身構えるとミミヌイが前に出て来て言った。


「ここは私に任せて。みんなは先に行って」

「ミミヌイさん」


 ミミヌイは俺たちに背中を見せながらダーツを取り出して身構えた。


「シュガさん先に行って、私は大丈夫だから」


 彼女の言葉は怒気を放っている。彼女に近寄りがたい何かを感じて俺は声だけをかけた。


「うん、わかった。ミミヌイさん気をつけて」


 彼女は黙って頷き返した。俺はほかのみんなに言った。


「みんな、先へ行こう」


 俺たちはドアに向かった。


「逃がさないよ」


 マドワレの分身たちが俺たちの前に立ちはだかる。すると風を切る音がして、ダーツが分身たちに刺さり分身たちは消えた。


 振り向くとミミヌイがさらにダーツを投げてマドワレ本体を狙った。マドワレは宙返りをしてそれをかわす。


「みんな、今のうちに」


 俺たちは走ってその部屋から出た。出ると前と同じようにそこは長い通路になっている。


 俺は振り返りミミヌイが戦っているドアを見つめた。


「シュガルコールさん、参りましょう」


 リジュピッピが俺の肩に手を置いて言った。


「うん」


 次のドアの前に来た。俺たちは慎重にその中に入った。


 部屋は薄暗く壁にはぼんやりとロウソクが灯っている。部屋の中央にまた誰かが背中を向けて立っていた。白いとがり帽子に白いドレスローブを着ている。


 俺たちが部屋に入ったのに気がつくと彼女は振り向いた。


 垂れ耳をした白いウサギの仮面をつけている。


「おなたはラップポロントさん。どうして?」


 俺が聞くと彼女は手のひらを上に向けてため息を吐いて言った。


「ラクアピネスが欲しかったんだよ。広告を出していたけど誰も探して来なかった。だから、あたしが直々に探しに来たと言うわけさ」


「じゃあ、あなたもオーガミッドと取り引きを?」


「そうさ、占いでね。そこの浴衣姿の男を追って行ったら、オーガミッドにたどり着いたのさ。それで、ラクアピネスを得る条件であなたたちをここで倒すように言われているんだ」


 ラップポロントは片方の手のひらに小さなガラス玉を何個か乗せて、それを軽く投げては戻って来たのを受け取っている。


 ジャラ、ジャラとその音だけが部屋に響いた。


「あたしの占いじゃ、あなたがあたしと戦うことになるけどね」


 そう言いながら誰かに人差し指を向けた。その方向にいたのはリジュピッピだった。


 リジュピッピは俺たちのほうを一度向いてから前に出た。彼女は背中を向けながら言った。


「おふたりとも先に行ってください。ここはわたくしがやります」

「……でも」

「シュガルコールさんにつき添えないのは心苦しいですが、仕方ありません」


 俺はラップポロントに聞いた。


「俺たち全員をここで止めるんじゃないのか?」

「それは不可能だ」

「どうして?」

「そう占いに出ている」


「ここで俺たちを止めないとラクアピネスが手に入らないのでは?」

「それでもまだチャンスがあるのさ」

「チャンス?」

「あたしがリジュピッピをここで倒して、先に行ったあなたたちを倒せば可能性はあるだろう」


 ラップポロントはガラス玉を握り俺たちのほうを見据える。リジュピッピは身構えながら言った。


「さあ、おふたりともこの先へ、ここはわたくしにお任せください」

「おい、早く行こうぜ、シュガルコール」


 ソルティオルは俺の肩を軽く叩いて促した。


「う、うん。リジュピッピさん気をつけて」


 そう言い残して、俺はソルティオルと共にこの部屋から出た。


 ラップポロントは占い通り何もしてこなく、すんなりと俺たちを先へ通してくれた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る