第22話 迷わない気持ち
「俺は……わからない」
「わからない? お主はラクアピネスを手に入れるのが目的ではなかったのか?」
「うん、そうだけど……」
踏ん切りがつかずに俺は黙った。ソルティオルはそんな俺を見かねて言った。
「お主の言いたいこともわかる。拙者もこの星が気に入っているからな。だが、拙者はどんなことがあっても疾風迅雷の猫を手に入れるぞ」
そのあとミミヌイが続けて言う。
「私も対人円満の犬を見つけてこの星から去るわ。いつかね。私は私でこの星で生活をしていきながら、そういったこともゆっくりと考えているわ。生き方は自由なんだし」
そうだ、ミミヌイはこの星に来た右も左もわからない俺を助けてくれた。
リジュピッピもそうだ、仕事とはいえ俺がラクアピネスを手に入れるためにここまでついて来てくれたんだ。
何のためにここまで来たんだ。ラクアピネスに会って手を繋ぐためだろ。
俺はもう迷わない。ラクアピネスを手に入れる。
「みんな、俺は決めたよ、このままラクアピネスに会いにいくよ。それでオーガミッドをみんなで倒そう」
そう言うとみんなは頷いて返した。
オーガミッドは飛行船で移動しているため、なかなか追いつかなかった。
数日間このピヨロンの船に乗りながら過ごす。もちろんトイレのために1回1回止まってはいるが。
そして、ついに俺たちの船はオーガミッドの船を捉える。
『オーガミッドに到着しました』と船内アナウンスが流れた。
俺たちは窓の外を見た。巨大なイルカの形をした船が下に見える。
「いよいよオーガミッドとの戦いになりますね」
リジュピッピは俺たちを見ながら言った。
「うん、そうだね」
俺が返すとミミヌイが何かを思い出したように言った。
「あ、そうだ。私たちの集合写真を撮りません?」
「集合写真?」
ソルティオルは首を傾げながら答える。
「そうです、知りませんか?」
「いや、知っているが。なぜだ?」
「思い出として残しておくんですよ。だってこれが最後かもしれないじゃないですか。私たちがこうして会うのは」
「別に拙者は構わんが」
そう言って俺たちのほうをうかがった。俺は頷いて言った。
「うん、そうしよう」
ミミヌイは笑顔を見せると俺たちのほうへ寄って来た。
「じゃあ、みんな寄って」
ソルティオル、ポワティガ、ミミヌイ、リジュピッピ、俺という具合に横並びになった。
ミミヌイは誰もいない空間に声を掛けた。
「ピヨロン、写真撮って」
『かしこまりました、この白い光の点を見つめてください』
すると空間に白い点が現れた。
数秒後『写真を撮りました。写真は様々な媒体に載せることができます』とピヨロンは言った。
ミミヌイはテーブルに向かった。
俺たちが近寄っていくとミミヌイは振り向いて言った。
「ほら、見てください。ここに色々な状態で記憶できるんですよ」
テーブルに表れる映像のなかに写真や電子ペーパー的なもの、俺たちが集合した映像を出せる指輪やブレスレットのガジェットなどが表示されていた。
「私は指輪かな」
そう言ってミミヌイは指輪を押した。
するとテーブルの上に指輪が現れ、彼女はそれを摘まみ上げて指に嵌めた。それからその指輪に触れると、集合写真を撮るときの映像が指輪から放たれる。それをうれしそうに眺めた。
「拙者も一応もらっておくか」
ソルティオルは指輪を押してそれを指に嵌めた。
「では、わたくしはブレスレットを」
リジュピッピはブレスレットを選んだ。テーブルに現れたブレスレットをリジュピッピは首に掛けてそれに触れた。映像は等身大で近くの場所に立体的に映し出された。
「じゃあ、ぼくも同じで」
ポワティガもブレスレットを選んだ。それに続いて俺も指輪を選んだ。
『申し訳ありません。指輪はなくなりました。ほかの物をお選びください』とピヨロンは言ってきた。
え? ない?
俺はブレスレットを選んだ。
『申し訳ありません。ブレスレットはなくなりました。ほかの物をお選びください』
ええ? なんで?
仕方なく俺は電子ペーパーを選んだ。
『申し訳ありません。電子ペーパーはなくなりました。ほかの物をお選びください』
「ない? いったいどうなってるんだ?」
俺はテーブルから指を離して顔をしかめた。
「きっと、エネルギーが足りないのです。長い時間飛び回っていましたから。今、わたくしがエネルギーを補給します」
リジュピッピはそう言って、補給用のボタンを押すとテーブルの上に皿が出てきた。それからそれに手をかざし始めた。
「あ、待ってください」
俺はその行動を止めた。リジュピッピは手を止めて俺のほうを向いた。
「これからオーガミッドと戦うので、リジュピッピさんのエネルギーを使うわけにはいきません。それにまだ写真が残っています。それがダメでしたら諦めます」
俺は写真を押した。テーブルから皿が消えて代わりに写真が出てきた。
「出てきた」
俺はそう言いながら写真を手に取った。
みんなが映っている。写真と言っても俺のいた世界ではまだまだ活躍している。
「よかったですね、シュガさん」
ミミヌイは俺の持っている写真を見ながら言った。
「うん」
「さあ、もたもたしてないで、さっさとオーガミッドの船に乗り込もうぜ」
ソルティオルがさやをつかみながら言った。
「それで、どうやって乗り込む?」
俺は誰彼構わずに聞いた。
「そうだなぁ、拙者たちがバレないように乗り込めればよいのだが……」
ソルティオルがそう言うとリジュピッピが答えた。
「わたくしのワープを使えばオーガミッドの船に乗り込むことができます。いきなりオーガミッドのいる部屋に行くのは危険ですので、おそらくいないであろうと思われる、尾びれのほうから乗り込むのはどうでしょうか?」
「尾びれかぁ、お主はどう思う?」
ソルティオルは俺に聞いてきた。
「うーん、普通に入るにはリスクがある。彼が何をしかけてくるかわからないから。でも、どのみちやつの船のなかに乗り込まなければならない。だから、リジュピッピさんの言った通り、ワープを使って乗り込んだほうが安全だと思う。船内がどういう構造になっているか、オーガミッドの部下がいるのかいないのかもわからないけど」
俺に続いてミミヌイが言った。
「そうね。確かに、この船から直接彼の船に呼び掛けても、それに答えないかもしれないし、攻撃してくるかもしれない。船に備えつけてある武器なんかを使用して。こっちもそれに対抗して、備えつけの武器で相手の船を攻撃したら、なかにいるラクアピネスさんに危害が及ぶかもしれないしね」
「では、ワープで乗り込むほうでよろしいですね」
そう言ってリジュピッピはみんなを見回した。みんなはそれに答えるように頷く。
「あの、質問があるんですが……」
俺はみんなを見回しながら聞いた。リジュピッピがその質問を促した。
「はい、何でしょうか?」
「この船って、俺たちがいなくなったらどうなるんですか?」
「ああ、そのことですか。この船は自動で飛んでくれますよ。わたくしたちがオーガミッドの船に乗り込んだ後でも、ちゃんとついて来てくれます。万が一この船が何らかの攻撃を受けて故障しても、レンタル屋さんがまた新しい飛行船を向かわすと思いますので」
「なるほど、そうですか」
「ほかに何かご質問は? ……わかりました。それではワープで向かいましょう」
リジュピッピは手のひらを室内の一角に向けてワープを放った。室内に別の船内の空間が現れる。
「では行きましょう」
「待って」
俺たちが行こうとしたときミミヌイがそれを止めた。
「アレをやっていきません?」
と言いながらミミヌイは手を前に出して見せる。
「アレ?」
ソルティオルが首を傾げてそれに答えた。
「そう、アレですよ。士気を高める」
「ああ、あれか」
ミミヌイに誘われて俺たちは円陣を組み片手を前に出した。
「じゃあ、いくよ……絶対勝つぞー!」
『オー!!』
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