第21話 揺れる想い

次の日。

 

 『ウィザティーンの場所に到着しました』とアナウンスが船内に流れた。


 俺はそれに起こされてベッドルームから出て行った。すると談話室にリジュピッピとポワティガがいた。ふたりは窓から外の様子を見ている。


「シュガルコールさん、ウィザティーンの居場所につきました」


 俺に気づき、リジュピッピが声を掛けて来た。


「そう」


 俺も窓に近づいて外の景色をのぞいてみた。船はその近くに降りようとしていた。


 そこは広い草原の上に、灰色で滑るような石で城を模っただけの空間があった。


 横から見るとに細い。


 正面から見ると城のふちだけを模ったような物になっていて向こうの景色がみえる。


「あ、着いたんですね」


 ミミヌイは俺の隣に来て外の様子を見た。


「わー、これがウィザティーンの住んでる場所ですか」

「ふぁあ~、やっと着いたのか」


 ソルティオルがあくびをしながらその横に並んだ。


「ほお、変わった家だな」


 俺たちは船から降りて辺りの様子をうかがった。


「ここにウィザティーンが……」


 空洞の城というのだろうか、大きな城の枠しかない。


 慎重にその城の様子を見ていると上のほうが光り出して、それがベランダを形造っていった。


 実際の物はなく、色とりどりの光だけで表現されている。


 ベランダに人の倍くらいある高さの窓枠が出て来て、そこから人の影が姿を現した。影はその窓を開けて外に出てくると、ウィザティーンが姿を見せて俺たちを見下ろした。


「なにかと思えば貴様らか。呼んだ覚えはないぞ」


 俺は言った。


「ウィザティーン、オーガミッドの居場所は?」


 ウィザティーンは鼻で笑うと返してきた。


「さあ、知らないねぇ」

「拙者の呪いを解いてもらおうか」


 ソルティオルが前に出て刀のさやをつかんだ。それに合わせてみんなも身構える。


 ウィザティーンは微笑みながら言った。


「われは貴様らと戦わない。もう欲しいものは手に入れたからな」


 彼女は何かを持つように手を前に出した。すると銀色の光がその手に集まり銀の杖に姿を変えた。


「このようにな」

「欲しいものを手に入れたのだったら拙者の呪いも解いてもらおうか」

「解いてやってもよいぞ。その代わり、われにそれ同等かそれ以上の物をくれたらな」

「じゃあ、何が欲しい」


 ウィザティーンはそこで黙り込み、杖を軽く顎に当てながら考えた。


「そうだなぁ……オーガミッドをやっつけてこい」

「オーガミッドを?」


「そうだ、やっつけてそいつの腕輪をここに持って来てもらおうか。そうすれば貴様の呪いは解いてやる」


「じゃあ、オーガミッドの居場所を知っているということだな」

「ああ、知っているさ」


 ソルティオルはそこで会話を切り俺たちのほうを向いた。


「どうする? あやつはオーガミッドの居場所を知っていると申すが」

「どうするって……」


 俺はそう答えながらみんなを見回した。みんなは俺の返答を黙って待っていた。


「拙者はオーガミッドの居場所を教えてもらうが、お主らもそうなのであろう?」

「ああ、そうだ」


 ウィザティーンと戦わないのか。戦いに備えてここに来たから、なんだか拍子抜けだ。


 ソルティオルはウィザティーンに言った。


「わかった。オーガミッドをやっつけてこよう、だからそいつの居場所を教えてくれ」

「よかろう」


 ウィザティーンは腰に片手を当てながら、もう片方の手に持っている杖を空中に向けて振った。するとオーガミッドが乗っていた飛行船の立体映像が空中に現れた。


「オーガミッドは飛行船の中だ……」


 そう言いながら、今度は俺たちの乗っている飛行船に杖を振った。銀色の光がその飛行船を覆って消える。


「今、その居場所を貴様らの乗って来た飛行船に記憶させた、だからオーガミッドと言えばそこへ運んでくれるだろう」


 ウィザティーンは杖を小刻みに振りオーガミッドの飛行船の映像を消した。


「とういうことだ。あとはよろしく、オーガミッドを倒したらまた来い」


 彼女はそのまま城に入って消えた。俺はウィザティーンの城を見ながらつぶやいた。


「まさか、戦わないでオーガミッドの居場所を教えてくれるとはな」

「よかったじゃないですかー。戦わずに済んだんですよ」


 ミミヌイは俺の肩に手を乗せてうれしそうに言った。


「うん。でも、彼女と戦うために耐魔法の指輪をみんなが手に入れたのに……」


 ミミヌイは俺から手を離すと自分の指につけている指輪を見た。


「ああ、これね。これからオーガミッドと戦うんですよ、そこで約に立つかもしれないじゃないですか」


 リジュピッピがそれに続いて答える。


「わたくしもそう思います。オーガミッドは魔法的なことも使ってくるかもしれません」

「ぼくも、あの武芸大会をやって前よりももっと強くなったように感じるから、無駄じゃないよ」


 ポワティガはそう言って棒を使った技を見せる。

 ソルティオルは腕組みをしながら言った。


「そういうことだ。拙者はフード女に用があったが、彼女がオーガミッドを倒してこいというのならば、なんにしても行くしかないだろう。お主もラクアピネスに会いに行くのであろう?」


 会いにいく……か、よく考えてみたら助けるとかではないんだよな。


 俺がラクアピネスを追っているのは、俺の運のパラメーターが0だから、その救済として幸運の女神であるラクアピネスを追っているんだ。


 彼女からしてみれば助けて欲しいとは思ってないのかも。


 逆に俺たちが追っているから、ウィザティーンやオーガミッドに守られていると思っているかもしれない。


 取り引き材料として扱われているラクアピネスだが、彼女自身は何を思っているのだろう。


 俺たちがこのままオーガミッドのところに行って、彼を倒して、ラクアピネスを手に入れたとしても彼女自身は幸せなのだろうか?


 天使が言っていた、幸運の女神を探し出して手を繋いでいてほしいと。


 これは俺の救済なんだ。


 もし、オーガミッドを倒してラクアピネスの手を繋ごうとしたとき、俺の手をその手が弾いたら俺はどうすればいいんだ?


 気づくとみんなが俺の返答を待っている。俺は答えた。


「ああ、行こう」


 ……みんなに相談してみようかな。

 

 この世界に来て思ったことがある。それは、みんなが優しいということ。


 前に生きていた世界でも友達や恋人、両親もみんな優しかった。


 それは俺が間違ったほうへ進もうとしていたとき、俺を真剣に叱って止めてくれたからだ。


 天使が言っていた『人間関係20』だと。パラメーターは10でもそうとう高いとも言っていた。


 それが理由なのかもしれないけど。


 俺の気持ちは、みんなに対して本当にありがとうと思っているんだ。


 理由はいろいろあるが、何だか、ふと、それに気づいた。


「シュガルコールどうした? 船に乗らないのか? 置いて行くぞ」


 ソルティオルの声がした。俺はそのほうへ顔を向けると、みんなが飛行船に向かって歩いていた。俺はそこに小走りで向かった。



「ピヨロン、オーガミッドへ」


 とリジュピッピが言った。すると『かしこまりました。オーガミッドへ向かいます』とピヨロンは返してきた。


 飛行船は浮きオーガミッドへと走り出す。


「へぇーこんな風に反応するのか」


 俺は驚きながら壁に表示されている地図を見て言った。地図は青い点が赤い点に向かっている。


「これでようやくオーガミッドのところへ行けますね」


 ミミヌイが同じ地図を見ながら言った。


「うん、そうだね」


 それから俺はみんなのほうを向いた。みんなは地図を眺めている。


「みんな、これからのことでちょっと話があるんだ」


 みんなは俺に注目した。俺は一呼吸おいてから話し出した。


「オーガミッドを倒して、俺がラクアピネスを手に入れたらどうなるかわからないけど、天使が現れてこの星からいなくなるかもしれない。だから……」


 俺は続きの言葉を言おうとしたが、ためらって下を向いた。


「だから、これがみんなといれる最後の時間になるかもしれない、ですか?」


 と、リジュピッピが俺の言葉をつなげた。


「う、うん」


「ラクアピネスさんを手に入れることがシュガルコールさんの目的ではありませんか、それで、この星から別れなければならないのなら、わたくしは喜んであなたをお見送りします」


「そうですよ、そのためにここまで来たんじゃないですか、私もシュガさんを見送りますよ。私だって対人円満の犬を見つけて、手に入れたらきっと私もこの星からいなくなりますよ。寂しくなるけど」


 元気よくミミヌイは言った、どこか寂しいという雰囲気を消そうとしているみたいに。


 続けて、ソルティオルは腕組みをしながら言った。


「拙者はもともと、妖刀の呪いを解くことが先だからな、疾風迅雷の猫探しは後回しだ。確かにどうなるかわからない、拙者は拙者のためにやっているだけだ。お主がどう考えているかわからないが、ラクアピネスを手に入れたら別れることも覚悟の上なのだろう、お主は」


「ぼくたちだって、別れることは寂しいと思っているよ」


 ポワティガはリジュピッピと一度目を合わせてから続けた。


「だって、ぼくたちリッピットラト星人はそういったことも見て来ているわけだからね。ある人が目的のモノを手に入れた瞬間、その人はその場から消えたんだ。そしてその人はこの星に二度と姿を見せなかった。まあ、でもそれは天使の行動次第だとぼくは思うけど、要するにぼくたちはいつでも別れる覚悟をしているってわけさ」


「お主はどうしたいのだ?」


 ソルティオルの質問に俺は考えた。


 俺はいつの間にかこの星の居心地のよさに魅せられていた。


 確かにラクアピネスを求めているけど、もしそれを求めずにこの星で生活していけたら、それはそれでいいんじゃないのかって思っている自分がいる。


 ラクアピネスを追わなければ、マドワレやらボローボなどに狙われることもない。ましてやこれからオーガミッドを……。


 ソルティオルはオーガミッドを倒して、そいつの持っている腕輪を手に入れなければならない。だからオーガミッドを倒す必要がある。


 俺はラクアピネスを手に入れれば、たぶんこの星から別れなければならなくなる。


 天使が『幸運の女神を探して君がその手を繋いでいれば、わたしがそこに迎えに行くから待っていろ』と言っていた。


 ラクアピネスと手を繋いでないといけないのかもしれないが。


 その手を繋いだら天使が現れる。


 俺はそこでどちらかを選択することになるかもしれない。


 強制的にこの星から別れなければならないのなら仕方ないが。


 ラクアピネスを手に入れたらどうなるのだろう?

 俺の運のパラメーターが増えて生き返るのかな?


 俺が病院のベッドの上で死んだところから……。


 そこには両親や友達や恋人が待っている。


 俺はそこに帰りたいのだろうか。

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