第20話 防具を購入する

「あ、シュガさん。どうでしたか?」


 ミミヌイが俺の前に現れて聞いてきた。


「え? ああ、負けた。そっちは?」

「勝ちましたよ。それで受付にこれもらいました」


 そう言って青色の指輪を見せて来る。


「それが耐魔法の指輪?」

「そうみたいです。でも残念ですね。シュガさん負けちゃったんですか」


 ミミヌイは俺の隣に座った。


「うん、仕方ない。実力が……」

「なんだぁ」


 と、ソルティオルの声がした。見ると彼は腕組みをして立っていた。


「お主、負けたのか」

「ああ、お前は?」

「拙者は勝った」


 そう言いながらちらりと指輪を見せて来た。


「皆さんどうでしたか? わたくしたちは勝ちましたので指輪をいただいたのですが」


 今度はリジュピッピの声がした。そのほうを向くと、リジュピッピとポワティガが立っていた。


「拙者は勝った」

「私も」


 みんなが俺のほうに視線を送る。俺は諦めたように言った。


「俺は負けた。だから指輪はもらってない」

「今回は個人戦をする参加者が少なかったから、比較的もらいやすかったのだろう。ぼくがこの前やったときは10回戦くらいあったからな」


 ポワティガはそう言って棒を肩に担いだ。

 俺は椅子から立ち上がり言った。


「あの、みんなの足手まといになるかもしれないけど、このままウィザティーンのところへ向かおう」

「でしたら……」


 そう言いながら、リジュピッピが俺のところに寄って来て指輪を俺の手に握らせた。


「これをシュガルコールさんに差し上げます。使ってください」

「え?」


「わたくしは、シュガルコールさんの目的のためについて来ているのです。あなたが望むのであれば、些細なことですがさせてください」


「俺に指輪を……」


 俺は手のひらに乗っている指輪を見つめた。それから指輪を軽く握りリジュピッピに返した。


「ありがたいのですが、それじゃあリジュピッピさんが危険になる可能性が出てきてしまうので、受け取ることはできません。気持ちだけで十分ですよ」


「そうですか……でしたら、防具屋をのぞいてみましょう。何かお役に立つものが見つかるかもしれません」


 こうして俺たちはアボカドレスの町を観光がてらに防具屋を探した。


 ところどころに美術展で見るような何かの動物や植物、物質などの彫刻などが置かれている。


 防具屋に着き中に入った。


「いらっしゃいませ」


 中は俺たち以外誰もいない。


 広い空間にひとつひとつ鎧や盾などの防具が展示されている。


 俺は緑の仮面をつけた店員に聞いた。


「あの、すみません。魔法を防げるような防具ってありませんか?」

「魔法でございますか。ええ、ございますよ……」


 そう言って、手のひらを指で押すと紫色のローブが立体映像で出てきた。


「こちらになりますが、あいにくその商品は売り切れでして、入荷はまだ先になってしまうんですが」

「売り切れですか?」

「ええ」


 売り切れって、誰が買うの? リッピットラト星人が買ったのかな? それとも俺たちみたいな違う星から来た者が買った。うーん。


「もし、ほかにお探しの物がないのでしたら、本日入荷したばかりの物があるのですが……少々お待ちください」


 そう言って店員は奥に入って行った。

 しばらくすると戻って来て、銀色の首飾りを見せて来た。


「こちらは、手で触れれば様々な防具が現れて本人の体を覆ってくれます」

「様々な防具が現れる?」

「はい」


 店員は首飾りを自分の首に下げてそれに手を触れた。


 するとエプロンを掛けた店員の服装が鎧に変わった。再び触れると黒のローブ。


「このように変わります、それから服を戻したいときは首飾りを首から外すか握ってください」


 店員は首飾りを握った。店員の服装が元に戻る。それから手を離して再び触れると盾が出てきた。


「盾は下に落とすと消えます。使いたくない場合にはそうしてください」


 店員はそう言って盾を下に落とした。


「そうそう、盾はですね、片方の手に何かをつかんでいたら、そこには出現しません。何もつかんでいないほうに出現します。両手が開いていた場合はランダムでどちらかの手に出現します。ちなみに体につける物と盾は同時に出せませんので」


「そうなんですか……」


 俺はそれを買うか買わないか迷った。

 ないよりはましだけど、確実性がないからなぁ。


「シュガルコールさん、お支払いは気にしなくて大丈夫ですよ」


 リジュピッピがそっと俺に言った。

 ほかのみんなは展示されている防具を適当に眺めていた。


 せっかくリジュピッピが何かを買ってくれるんだ。ここは言葉に甘えよう。


「わかりました。じゃあ、その首飾りをください」

「そうですか。それでは、こちらにお支払いのほうを」


 皿が出て来て、それにリジュピッピが手をかざした。


「どうもありがとうございます」


 それから俺たちは店をあとにした。


 早速首飾りを身につけて、それに触れてみる。大きい鉄の盾が俺の左手に現れた。


 重っ!


 俺は盾から手を離し地面に落とした。俺は恥ずかしかったため素早く次の防具を出した。すると、めちゃくちゃ重い鉄の鎧が俺の体を覆った。


「グッ……」


 ミミヌイはそれを見てうれしそうに言った。


「シュガさん、よかったですね。うまくいけばそれでウィザティーンの攻撃を防げますよ」

「う、うん、そうだね」


 俺は身動きが取れなかったので、首飾りを握り服装を元に戻した。


 使えるのか? これ。


 こうして俺たちはウィザティーンのいる場所に向かうため、ペンギン飛行船で移動することにした。


 俺たちは船内に入り目的地を確認した。


「ウィザティーンが今どこにいるかわかりますか?」


 リジュピッピに聞くと彼女は手のひらに球体の映像を出して見せた。


 球体の一点に赤色の光が止まっている。


「どうやら、どこかに止まっているみたいですね。もし、そこへ早く行きたいのであれば、わたくしのワープを使って向かいますが、いかがなさいます?」

「ワープ?」

「はい、わたくしのエネルギーは回復したので使えますよ」


 リジュピッピのワープを使う。


 いいや、ダメだ。これからウィザティーンと戦うんだ。少しでもエネルギーを温存していてもらいたい。


「いえ、大丈夫ですよ。飛行船で向かいましょう」

「そうですか、では……」


 リジュピッピはそう言うと、テーブルの地図にその場所を指で押した。


「これで自動で向かってくれるはずです。もし赤の光が移動しても、この船はそれを追っていきますので迷うことはないでしょう」


「へえー、そうなんですか」


 この星で色々と経験していくと、とても便利だなと思う。


 楽に進むということ、手間のかからないことはこの星では当たり前のものになっているんだ。


 移動中はやることがないので、それぞれが自由に過ごした。


 ミミヌイ、リジュピッピ、ポワティガはトランプで遊んでいる。


 ソルティオルは別のテーブルについているソファーに座りお茶を飲んでいる。


 俺は練習のため腕輪から武器、首飾りから防具を手際よく出せるようにしていた。


 ウィザティーンの魔法を防げるような物がどういったモノかもわからない。せめてその物の説明がどこかに表示されればいいのだが。


 俺は剣や盾を注意深く見た。だが何も書かれていない。


 あるわけないよな。


「随分と気に入ったみたいだな」


 ソルティオルが声を掛けて来た。


「いや、別に、ただ手際よく使えるように練習をしていただけだ」


 そう言いながら、剣と盾を下に落とした。剣や盾は自分の足に落ちても、その手前で消える仕組みになっているから避けなくてもいいみたいだ。


「練習かぁ、感心だな」


 そう言ってお茶を啜った。俺はソルティオルに聞いた。


「疾風迅雷の猫は探さないのか?」


「いや、探すぞ。この妖刀の呪いを解いたらな。フード女の名前を言わなければよいと思うかもしれんが、不意に言ってしまっては元も子もないからな」


「ふうん、でもこの星に来たとき、すぐにその猫を探そうとは思わなかったのか?」


「まあ、そうだな。拙者はそれより、フード女が出した広告に目が留まったということだ。幸運の女神を連れてくれば願いを叶えてくれると書いてあったからな」


「ひとつ聞いていいか?」

「なんだ?」

「俺たちって、天使が言ったモノを手に入れたら、そのあとどうなるんだ?」

「……さあな。多分、この星から強制的に自分たちの星へ戻されるかもな」


 この星からいなくなるか。


 まだ、あまり長いあいだ過ごしてないけど、いざ別れるとなると寂しくなるのかな。


 ミミヌイはトランプを集めて切りながら、俺たちに気づいて言った。


「あ、シュガさんソルティさん。一緒にトランプしません?」

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