第19話 個人戦

「あのう」


 俺がみんなに声を掛けるとみんなは俺のほうを向いた。


「何か、みんな淡々としているっていうか、あっさりしているっていうか……」


 俺はそれ以上言葉が出ずに下を向いた。するとリジュピッピがその続きをくみ取り話し出した。


「シュガルコールさんはわたくしたちを見ていてこう思ったのですね。なぜそんなに平然としているのかと。なぜもっと悔しがらないのかと」


「ええ」


「それは、わたくしたちが理解しているからです。確かに悔しいという思いはあります。ですが、それを皆さまの前でそのような行動をとるとこはありません」


「そうなんですか」


「はい、我々は他者から見れば冷たく感じて見えることでしょうが内心は燃えているのですよ。ですから気にしないでください」


 リジュピッピは少し微笑んだ。


「そんなことを気にしてたのか」


 ソルティオルが続いて言った。


「拙者はこの星に来てから、この星の影響であまり感情を表に出さないようになった。まあ拙者の元からの性格もあるが。だが、お主の言っていることもわかる。感情を出して悔しがったりしたら気持ちいいもんな」


「はあ、まあ」


 今度はミミヌイが言った。


「シュガさんは気にしすぎなんです。あんな戦いをしたあとでも、わたしたちは元気なんですよこう見えても。それに闘志は燃えてますから」


「そうだ、ぼくたちは負けは負けと理解している。悔しさはあるよ。でも次に向けて負けないように冷静に勝てる方法を考えていたりするんだ」


 ポワティガはそう言って前を向いた。


「へぇ、そうなんですか」


 ミミヌイが俺の肩に手を乗せてうれしそうに言った。


「もしかして、絶対勝つぞー! 的なものが欲しいんですかー?」

「え? いやぁ」

「なに? その絶対勝つぞーって?」

 

 ポワティガは再び振り向き言った。


「士気を高めるやり方です。みんなで円陣を組んで気合を入れるんですよ。代表が絶対勝つぞーって言って、そのあとみんなでオーって叫ぶんです」


「ふーん、面白そうだな」


 ポワティガは歩みを止めるとそれに続いてほかのみんなも歩くのを止めた。


 ミミヌイは言った。


「円陣を組んだら片手を出して、みんながオーって言ったら空に向けて手を放つんです。ほかにもやり方はいろいろあるんですけどね」


「ふうん、オーと同時に手を空に上げればいいんだな」

「うん」


 ミミヌイが手を前に出すと、ポワティガもそれに合わせて手を出した。それを見てリジュピッピも同じく手を出す。


「何だぁ、そんなことするのか。まあいいか」


 ソルティオルが興味なさげに手を前に出す。


「お前もやるんだろ?」


 と、彼は俺を促した。俺は慌てて手を前に出した。

 それを見計らいミミヌイが言った。


「じゃあ、いくよ……絶対勝つぞー!」


『オー!!』


 俺たちは空高く手を放った。

 青空が見える。鳥が飛んでいた。白い雲も浮いていた。



「個人戦をご希望の方たちですね」


 受付が空間映像に指を乗せて何かを手際よく押した。


「名前は登録されていますのですぐに参加ができますよ。個人戦の場合は個人個人がワープで会場まで行き、そこで対戦相手と戦うことになります。そのほかには誰もいません。負けたほうは自動転送されてここに戻されます。ご参加しますか?」


 皆それぞれが受け答えをした。それを聞き入れると受付は再び映像に触れた。


「かしこまりました。ほかにご質問がなければそれぞれの会場にご案内いたしますが……」


 俺は手をあげて言った。


「あ! あの、何回戦までですか?」


 受付は何かを見たあと返してきた。


「今回は2回戦までです。2回勝てば耐魔法の指輪を賞品として差し上げます」

「そうですか、わかりました」


 2回勝てば、か。不意に俺は握り拳に力を入れた。


「それでは、ほかには? ……ないようですので、それぞれの会場へご案内いたします」


 受付は映像のどこかを人差し指で押した。


 すると。


「え?」


 さっき戦っていた会場の舞台の前にいた。


 誰もいない。俺は舞台に上がり辺りを見回した。何も聞こえないほど静かな会場。


 しばらくすると参加者のひとりが舞台に上がって来た。


 フクロウの仮面をつけている。


「シュガルコール選手とクロティス選手の対戦です。それでは始めてください」


 俺とクロティスしかいない会場にアナウンスが流れた。


 俺は前に使った水の出る銃を取り出してクロティスに狙いを定めた。それからそのまま銃を撃った。水が勢いよくクロティスに向かって飛んで行く。


 クロティスは飛び上がり空中に浮いた。彼女の背中から茶色の翼が生えている。それで仰ぎながら空中にとどまっていた。


 俺は再び銃を撃ったが、引き金を引いてもカチカチと音がするだけで水が出なかった。


 それを捨てて、すぐさま次の武器を取り出そうとした。


 風を切るような音が近づいて来て、俺はそこに目を向けるとクロティスが頭突きを俺の腹にくらわした。


「うっ!」


 クロティスの上空からの攻撃で俺は吹き飛び倒れた。


「クソッ!」


 俺は次の武器を取り出した。それは黒く平たい鉄の塊みたいな物。フライパンだった。


 こ、これも武器のうちなのか?


 フライパンの取っ手を両手でつかみ立ち上がる。


 クロティスは突進して来て蹴りを繰り出してくる。俺はそれをフライパンで弾き返した。


 フライパンが相手の足に当たるたびに段々とへこんでくる。俺は思いきり振りかぶってその足にフライパンを当てようとした。


 すると取っ手が急に軽くなった。見るとフライパンの丸い部分だけがどこかに飛んで消えている。


 え? とっさに俺はクロティスに取っ手を投げつけて次の武器を出した。


「痛っ!」


 見ると手のひらにはトゲトゲの丸い鉄の塊が何個か乗っていた。俺はそれを持っていられず、クロティスに向けて放り投げた。


 トゲトゲがクロティスに何個か当たると、彼女は後ろに飛び退いて間隔をあける。


「次だ!」


 次に出てきたのは細長い釣り竿のような物。先端には引っ掛けるような針がついている。


 俺はそれをクロティスに目掛けて振った。


 クロティスはそれを避けようと空へ羽ばたく。だが、彼女の片方の翼に針が引っ掛かり動きを封じた。


 俺はそのまま竿を思いきり振り下ろした。


 クロティスは舞台に引き寄せらるように落下した。そのまま舞台の外に出そうと竿をその方向に振った。


 ピンッと糸が張り俺の手から竿が滑り落ちる。


 竿はクロティスに引き寄せられると針を外されて、どこかに放り投げらて消えた。


 俺は次の武器を出した。


 手のひらにサイコロが2個出てきた。俺は震える手でそれを握りしめてから思い切り投げた。


「使えるかー!」


 クロティスはそれを避けると空中に飛び、突き刺すような蹴りを俺に向けて来た。


 俺は逃げながら次の武器を取り出そうと腕輪に触れる。すると俺の目の前を人より大きい鉄球が通り過ぎて行った。


「えっ!?」


 俺は驚き鉄球を見届けた。クロティスはそれにぶつかり場外まで吹き飛ばされる。


「それまで」


 場内に終わりを知らせるアナウンスが流れる。

 それからクロティスは自動転送されてその場から消えた。


「1回戦はシュガルコール選手の勝利です。決勝戦に進んでください」


 さっき投げたサイコロを目にすると、1と1のぞろ目になっていた。


 まさかこれが? 鉄球を?


 そのあとサイコロは煙のように消えた。


 静かな会場で待っていると次の選手が舞台に上がって来た。宝石のようにキラキラ光る紫色の仮面をつけている。


「シュガルコール選手とメシティアーナ選手の対戦です。それでは始めてください」


 と言った瞬間。メシティアーナは消えて、俺の横に現れて蹴りをくらわした。俺は吹き飛び、そのまま場外になった。

 

「それまで」


 負けた……あっさり。


 俺は自動転送されて受付の前にいた。

 受付は何人かの選手の受け答えをしている。それが終ると俺は受付に聞いた。


「あのう……」

「はい」

「もう一度、個人戦を受けたいんですが」

「すみませんが、受けられるのはひと月に一度だけなんです。チーム戦も同様に」

「そうなんですか、もしひと月経って出ようとした場合。次も同じ賞品がもらえるんですか?」

「いいえ。次の賞品は……」


 受付は斜め下に映し出されている内容を見ながら答えた。


「素早さの腕輪になります」

「素早さの腕輪ですか。わかりました」


 周りを見ても、ほかの仲間は戻ってきていない。


 俺は近くの椅子に腰かけてみんなが戻って来るのを待つことにした。


 耐魔法の指輪が手に入らない。その状態でウィザティーンに戦いを挑んでもやられるだけだ。


 かといって、ひと月みんなに待ってもらって、ここで行われるチーム戦や個人戦に出たとしても。もらえるのは素早さの腕輪。


 どのくらいの効力があるのかわからないが、それを手に入れたとしてもウィザティーンに有効かどうか。まあ何もないよりはましだけど。


 それにまた今回と同じ結果になってしまうかもしれないし、どうすれば……。

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