第18話 チーム戦
俺たちは受付を済ませて会場の中にある参加者専用の席で待つことにした。
中央は緑色のブロックが正方形に敷かれていて、地面を挟んだその周りには塀があり、段差になっている観戦場が設けられていた。
塀の一角がくり抜かれて薄い膜で張られている場所があった。それは8か所あって、さまざまなチーム名がその前に映し出されている。
そこから観戦できるように膜は舞台のほうを向いている。
俺たちは指定されたシュガルコールの名前のところに入って行った。透明な膜は何の抵抗もせずに俺たちを中へ通す。
俺がその膜を見ているとポワティガが言った。
「その膜はぼくたちを守ってくれる物さ。この中にはチームのメンバーしか入れないし、戦いの火種や破片なども防いでくれる」
「へぇー」
ポワティガは奥にあるドアを指さした。
「そこのドアの中には休憩スペースがある。ぼくたちには必要ないけど、食べ物や飲み物。シャワーもある。トイレはないけど、この膜みたいに外に出れる場所があるからそこでするといい」
「ふうん、そうなんだ」
俺は中の壁に映し出されているトーナメント表を見てみた。
さまざまなチーム名が並んでいる。俺たちがどのチームと対戦するのかを見てみた。
『ジャキヌカミ』となっている。1回戦はこのチームと対戦するみたいだ。
俺たちのチーム名が一番左にあった。ということは俺たちが最初に戦うことになる。
「それでは『シュガルコール』チームと『ジャキヌカミ』チームの対戦です。両チームの選手、出てきてください」
と、どこからかアナウンスの声が聞こえてきた。
「試合が始まったみたいだね。ぼくは経験者だから最初に出るよ」
そう言ってポワティガは外に出て行く。
ポワティガは舞台の上に立つと相手選手を待った。するとオオカミの仮面をつけたリッピットラト星人が舞台に上がって来た。
「ポワティガ選手とウルフィス選手の対戦です。それでは始めてください」
その掛け声で両者は身構えた。舞台の上にはお互いの選手しかいない。
アナウンスは冷静というか感情がないように淡々としている。
先に飛び出したのはポワティガだった。
相手に向かって棒を横になぎ払った。それをウルフィスは宙返りで避けて着地しポワティガに突進をくらわす。
ポワティガは吹き飛び棒を下に突いてその勢いを止めた。
今度はウルフィスが攻撃を繰り出す。突進しながら飛び、体をひねりながら回転してそのままポワティガに体当たりを繰り出す。
ポワティガはそれを避けて相手の背中に棒を叩き込む。ウルフィスは吹き飛び場外になった。
「それまで」
とアナウンスが入り両者の決着はついた。
ポワティガはそのまま次の対戦相手と戦うため舞台の上で待っている。
次に現れたのはタヌキの仮面をつけたリッピットラト星人だった。
「ポワティガ選手とラクーヌ選手の対戦です。それでは始めてください」
両者は身構えると、ラクーヌは宙返りをしてポワティガに変身をした。
ポワティガが舞台の上にふたりいる。似ているが片方はタヌキの尻尾が生えていた。
「化けた!?」
俺が驚きながら言うとリジュピッピが答えた。
「ラクーヌ選手の特殊能力のひとつです。我々には様々な特殊能力があるのですよ」
「はあ、なるほど」
両者とも動かない。相手の隙をうかがっているのだろう。そして本物のポワティガのほうが先に攻撃を仕掛けた。
それと同時に偽物のほうも同じように攻撃を仕掛ける。
棒と棒がぶつかりあい、それから同じ動きで攻撃を仕掛けていく。
ラクーヌはポワティガの攻撃をコピーしているかのように全く同じ動きを見せている。
ポワティガはラクーヌから離れて様子をうかがった。ラクーヌも同じように様子をうかがっている。
ポワティガは体勢を低くして、それから棒をラクーヌに投げた。それと同時に飛び出した。
ラクーヌも同じように棒を投げて飛び出した。
棒同士がぶつかり弾き飛んだように見えたが、片方の棒は真ん中が折れて、そこが鎖で繋がった武器に変わった。
ポワティガはそれをつかむとラクーヌに思いきり振り当てた。ラクーヌは吹き飛び場外になる。
「それまで」
ラクーヌは姿を元に戻すとそこから去って行った。
ポワティガは武器を元に戻して次の相手を待った。
このまま次もポワティガが勝てば2回戦に行ける。ガンバレーと俺は心で言った。
次に現れたのはジャッカルの仮面をつけたリッピットラト星人。
「ポワティガ選手とジャクール選手の対戦です。それでは始めてください」
それと同時にジャクールが突進してきた。ポワティガは避けることができずに棒でその攻撃を防いだ。
棒をジャクールが両手でつかむと、それを無理やり取り上げて場外に放り投げた。そのまま回し蹴りをくらわしてポワティガを吹き飛ばした。
ポワティガは舞台に片手をついて、自分の体を止めると飛び出して拳を突き出した。それをジャクールが飛び越えてポワティガの後ろに回り込み、正拳突きをその背中にくらわす。ポワティガは飛ばされて場外に出てしまった。
「それまで」
ポワティガは棒を拾いその場を去った。帰ってくるとポワティガは言った。
「すまない。あとは頼む」
「お怪我は?」
と、リジュピッピが聞くと「大丈夫だよ」とポワティガは返した。
「次は拙者が行こう」
ソルティオルが妖刀のほうを持って出て行った。
ジャクールが腰に手を当てて待っている。
「ソルティオル選手とジャクール選手の対戦です。それでは始めてください」
ジャクールは身構えるとソルティオルは妖刀を抜いた。赤く染まった刀からは禍々しい殺気を放っている。
ジャクールはソルティオルに突進して行った。彼が目の前に来るとソルティオルは刀を振り下ろした。すると刀は舞台に突き刺さった。
ソルティオルは刀の柄を両手でつかんで上に引き抜こうとしている。
ジャクールはソルティオルの後ろに回り込み正拳突きを放った。だが、ジャクールはそれを寸止めし後ろに離れた。
ソルティオルは刀を引き抜くとジャクールに振り向いて刀を構える。
何かに恐れているようにジャクールはソルティオルに近づこうとしない。
今度はソルティオルがジャクールに攻撃をしかけにいった。
ソルティオルはジャクールの脇腹に向けて刀をなぎ払った。ジャクールは後ろに飛んで避けたが脇腹に傷を負う。
すると妖刀がソルティオルの手から離れてどこかに飛んで行った。それを見たジャクールは飛び蹴りをソルティオルに当てる。
ソルティオルは吹き飛び場外になった。
「それまで」
妖刀を拾い上げてソルティオルはその場を去った。
「悪いな、拙者の力不足だ」
「次こちら側が負けたら1回戦負けになってしまいますね」
リジュピッピがそう言うとミミヌイが気を張ったように頷いて言う。
「そうね。誰が出る?」
俺、ミミヌイ、リジュピッピがお互いの顔を見合わせた。
とてもじゃないが、俺が出て行っても勝てそうもない。だからミミヌイかリジュピッピのどちらかに次はお願いしたい。
「俺はミミヌイさんかリジュピッピさんのどちらかがいいと思う。実力的に俺より戦闘慣れしていると思うから」
「ではミミヌイさん、よろしくお願いします」
とリジュピッピが言った。ミミヌイは驚いて返した。
「え? わたし?」
「ええ、わたくしはここで回復に努めたいと思います。もしミミヌイさんが負傷して帰っていらしたら回復することができますので」
「……そうね。わかったわ。じゃあ行ってくるわ」
ミミヌイは颯爽とここから出て行った。
それにしても静かな会場だな。観戦している人はみんなリッピットラト星人ばかりだから静かなのかもしれないけど。
多分それでも楽しんで見ているのだろう。
淡々としているのは会場だけじゃない、俺たちも何かあっさりしているというか、戦い終わり帰って来ても「よく頑張った」とか誰も言わない。
何か熱くないというか。
リッピットラト星人たちがそうだから俺たちもそれに合わせてしまうのかも。
ミミヌイが戦って、もし負けて帰ってきたら頑張ったねって言おう。
「ミミヌイ選手とジャクール選手の対戦です。それでは始めてください」
始まった瞬間、ミミヌイは素早くダーツを取り出して投げた。ジャクールはそれを素早く横に避けて突進した。
ミミヌイは転がりながらそれを避けて再びダーツをジャクールに投げた。それをジャクールは振り返り手でつかみ、そのまま投げ返した。
ダーツをダーツで弾き返すと、ミミヌイは何本か連続でダーツを投げる。
ジャクールは高く飛び上がりダーツをかわした。そこからミミヌイに向けて拳を出して突っ込んで行った。
ミミヌイはそれを後ろに飛んでかわす。ジャクールの拳で舞台は砕かれて穴が開いた。
その隙にミミヌイは素早く何本もダーツを取り出して投げる。ジャクールはそれを手で弾き返しながら彼女に飛び蹴りをくらわした。
ミミヌイは吹き飛ばされて場外となった。
「それまで。1回戦は『ジャキヌカミ』チームの勝利です。『ジャキヌカミ』チームは2回戦に進出です」
負けた。
悔しいというか楽しかったというか、みんなよく頑張ったって思う。戦っていない俺が言うのもなんだけど。
ミミヌイが帰って来た。
「ミミヌイさん、負けてしまったけど、よく頑張ったよ」
「うん、ありがとう」
ミミヌイは微笑んで返してくれた。
「負けてしまいましたね」
リジュピッピが言うとポワティガがほかの提案を出してきた。
「みんな、チーム戦は負けちゃったけど個人戦のほうもやらない?」
「個人戦ですか」
リジュピッピが聞き返した。
「うん、勝ち抜ける確率は低いかもしれないけど、やってみる価値はあると思うよ。どうかな?」
俺たちは顔を見合わせた。それからソルティオルが言った。
「そうだなぁ、拙者は参加したいな。拙者もまだまだ実力不足だからな、ここで少しは強くなりたい」
「ほかはどう?」
「わたくしも参加します。武芸大会には興味がありますので。わたくしの実力がどのくらいのものなのかを試すいい機会ですから」
リジュピッピはそう答えた。それに続いてミミヌイが言った。
「わたしも参加するわ。さっき戦って、ほんとまだまだって思ったから」
そして俺にみんなの視線が集まる。
「そ、そうだね。俺も戦ってないから、やるよ」
俺はそう答えた。
「じゃあ、もう一度受付に行って参加を希望してこよう」
そうして俺たちは受付に向かった。
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