第16話 休戦のひととき
飛行船は塔の先端で停まり、そこから男が現れた。
パーマの赤い髪。その頭には両脇から上に向かうようにとがった黒い角が生えている。眼鏡を掛けていて、黒いマントをつけた黒い鎧を着ている。
その男は船から降りて来た。
ウィザティーンは少し下がり言った。
「これはオーガミッド」
「ウィザティーン、例の物は用意しているのか?」
「ああ、こちらに」
ウィザティーンはラクアピネスに杖を向けると、ラクアピネスは宙に浮きそのままウィザティーンの元まで引き寄せられた。
「これがラクアピネスか」
「ああそうだ」
オーガミッドはラクアピネスのあごを持ち上げてその顔を眺めた。
「ほう、予想以上になかなかいい代物だな」
「この者が幸運の女神と呼ばれている者だ」
「そうか」
そう言って、ラクアピネスから手を離すと懐から銀色の杖を取り出した。
「銀龍の髭だ受け取れ」
オーガミッドはウィザティーンに銀龍の髭を手渡した。
「ふうん、これが銀龍の髭で作られた杖か、なかなかだ」
俺は黙っていられず、それを止めに入った。
「おい! お前ら!」
ふたりがこちらを見る。
「ラクアピネスを置いていけ!」
ウィザティーンは笑みをこぼして言った。
「ああ、まだいたのか」
オーがミッドは不愉快そうな顔をしながら尋ねた。
「何者だ?」
「まあ、暇だったからちょっと遊んでたんだ」
「そうか」
俺は武器を取り出した。水色の銃が手に握られる。そのままオーガミッドに狙いを定めて銃を撃った。水が勢いよく飛び出しその反動で俺は後ろにのけぞる。
オーガミッドは手をかざした。すると空気圧が放たれて水は弾き返され俺は吹き飛んだ。
ミミヌイがオーガミッドとウィザティーンにダーツを放った。それと同時にリジュピッピが飛び出して飛び蹴りをしかけた。
それを払うようにウィザティーンが銀色の杖を振った。
ダーツは弾き返されて、リジュピッピも何かにぶつかり吹き飛ばされた。
俺も起き上がり出て行こうとしたが、透明な壁が目に前にあるみたいにそれ以上進めなかった。
「ウィザティーンよ、あとはよろしく頼む」
そう言ってオーガミッドはラクアピネスを連れて飛行船に乗って行った。
「クソッ!」
俺はその透明な壁を殴るように叩いた。
オーガミッドの飛行船が遠ざかっていく。
ウィザティーンは飛行船が飛んで行ったのを見届けると、俺たちのほうへ向き直り言った。
「貴様たちとの戦いは楽しかったぞ。じゃあな」
ウィザティーンは杖を振ると違う空間が目の前に現れた。
彼女はその中に入って行き消えた。
途端に透明な壁はなくなった。
リジュピッピはソルティオルとポワティガの傷を治している。
俺は空を見上げながら拳を握りしめた。ミミヌイが俺の隣に来て言った。
「シュガさん、きっと大丈夫ですよ。逃してしまったけど、またきっと見つかりますよ」
「ミミヌイさん……うん、そうだね」
それから全員が集まって話し合うことになった。
「みんなどうする?」
俺が聞くとソルティオルは答えた。
「拙者はフード女に用がある。お主らはラクアピネスを追うのだろう。そうなると拙者たちはここでお別れだ」
俺はリジュピッピに聞いた。
「あの、リジュピッピさん、オーガミッドの行方ってわかりませんか?」
「オーガミッドの居場所はわかりませんが、ウィザティーンの居場所ならわかります」
「本当ですか?」
「はい、わたくしはまだエネルギーが回復していませんので、透視はできませんが彼女と戦っているとき、念のために発信機を取りつけておいたのです」
「発信機を?」
「はい、それを追えば彼女の居場所はわかります」
それからリジュピッピは手のひらを見せると、その上に小さな映像の球体を出した。
ピッ、ピッと音がしている。
その映像の一部分が赤く光って点滅していた。
「これはエネルギーをあまり必要としないものです。この光が点滅しているところがウィザティーンの居場所です。まだどこかに移動しているようですが」
「この場所にウィザティーンが」
「ええ、ウィザティーンに会ってオーガミッドの居場所を聞き出せば何とかなるかもしれません」
「そうですね。それなら」
その会話にソルティオルが割り込んできた。
「その話なら拙者たちもついて行こう。フード女の居場所がわかるのであれば、わざわざ歩きながら探す必要はないからな」
俺は頷いて言った。
「じゃあ、早速その場所へ行きましょう」
するとリジュピッピがそれを止めた。
「シュガルコールさん、このまま向かってもいいのですが。さきほどみたいに1対1の対決を求められたらまた同じような結果になるかもしれません。いいえ、さっきよりももっとひどいことになってしまうかも」
「さっきより、ですか?」
「ええ、ラクアピネスさんを差し出した代わりに、オーガミッドからは杖をもらい受けていました。あの杖はもっと強力な魔法が使えるのかもしれません。ですから、さっき戦ったより彼女は強力になっているはずです」
「俺たちが束になってかかっても勝ち目はないってことですか?」
「ええ」
するとミミヌイが元気な声で言った。
「じゃあ、勝てるように明日考えましょう。マドワレとの連戦でみんな疲れていると思うから今日は宿に泊まって、それからでも……だ、めですか?」
その提案にみんながホッとしたようになった。
俺は言った。
「うん、それがいい。今日はみんな休もう。疲れたよ」
俺たちはその日、アボカドレスの町で宿を取った。夕方ごろ食事をするため5人で町を歩くことにした。
町はほかの町とあまり変わらないが全体的に緑色を基調としている。
野外レストランというのだろうか、そこで食事をすることになった。
俺たちは喫茶店のときみたいにテーブルを囲んだ。貸し切りみたいに周りには誰もいない。
リッピットラト星人たちが通り過ぎていく。それを見ながら食事を楽しむ場所みたいだ。
薄暗くなり電飾の明かりが点く。
俺たちは適当に注文をして食事を取った。
こうして異世界の風景を見ながら食事をするのも悪くないと思った。
そう言えば、ミミヌイとソルティオルはリッピットラト星人じゃないよな。ふたりはどこの世界から来たんだろう?
俺はふたりに聞いた。
「あの、ミミヌイさんとソルティオルはどの世界からこの異世界に来たの?」
するとミミヌイが答えた。
「あ、私がここに来る前にいた場所ね。私はルートゥラスハート星から来たわ」
続けてソルティオルが答える。
「拙者はモラーリスティル星だ。お前は?」
「俺は地球だ」
「ふうん、あの星か」
「地球を知っているのか?」
「ああ、拙者が小さいとき学んだからな」
「学校で?」
「がっこう? そんなものはない。これだ」
ソルティオルは懐から何かを取り出して見せてきた。その手のひらには黒い指輪が乗っている。
「こいつを嵌めると、知りたいことが頭の中に入ってくる。それで覚えられる」
そう言って指輪を懐に戻した。
「へぇー」
「地球って言えばスポーツが盛んだよね」
ミミヌイが話に割り込んできた。
「まあ、そうだけど。ミミヌイさんの星ではスポーツはしないの?」
「うん、そういった健全は競技はないんだ。私たちの星は拳でモノを語り合う世界だから」
「こ、こぶし? へ、へぇ、そうなんだ」
「だからあこがれるんだ。そんな戦いがしたいなって」
「ふうん、ミミヌイさんも地球に詳しいんだね」
「そう、学園で学んだの」
「がくえん?」
「ええ、私たちの星では学園がひとつしかないの、そこに入るには相手と対戦してそれに勝って入学できるの」
「はあ、この星で盛んにおこなわれている、武術みたいなことをして戦うんですか?」
「うん、そうね。実際には攻撃しているけど、傷は出ないようになっているんだ。そういった場所が用意されていてそこで戦うの。まあ、頭を使うより体を使う試験ね。健全と言えば健全かな」
「へぇ、それは大変ですね」
俺はそこで会話を切って紅茶を飲んだ。
「シュガさんのいた地球は勉強して試験を受けて、受かれば学校に入学できたりするんですよね」
「まあ全部じゃないけど、俺のいたところではそうかな」
「力技じゃない戦い方で入学できるのっていいですよね」
「そ、そうだね」
俺は話題を変えるために違う質問をした。
「あのう、それぞれの星で流行っていることって何かあります?」
するとソルティオルが答えた。
「拙者の星ではお茶を飲むことだ」
「お茶を飲む、ふうんそうなんだ」
続いてミミヌイが言った。
「私の星では星旅行です」
「星旅行?」
「ええ、飛行船に乗って星に旅行しに行くんです。シュガさんの星では何が流行っているんですか?」
あれ? 何が流行っていたっけ?
「えっと、人によって違うからわからないけど。ゲームかなぁ」
「ゲーム? ああ、あの操作して自分のキャラを遊ばせるやつですよね」
「あ、ああ、まあそんな感じかなぁ。え? そういったことも学園で?」
「ええそうよ、学んだの」
「そうなんだ」
ソルティオルが話に割り込んできた。
「ゲームと言えば、拙者たちの星ではすごろく場があるな」
「すごろく?」
「ああ、そのゲームはサイコロを振ってその目が出たらそこまで進むことができる。そのあと、そこに書かれた内容をクリアしていくものだ」
「ああ、それなら地球にも」
「ほう、そうか。じゃあほかの次元に飛ばされてそこでその内容をクリアするっていうこともやっているんだな」
次元? 飛ばす?
「……ああ、ある意味では」
「なるほど、じゃあ、そっちの星とも共通しているモノがあるってことだな」
「ああそうだな」
俺は会話をそこで止めて、今度はリッピットラト星人たちの話を聞くことにした。
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