第15話 塔の上での戦い

「行くぞ」


 ソルティオルは突進して刀をウィザティーンに向けてなぎ払った。彼女はその刀を杖で受け止めて弾き返した。


 ウィザティーンは足払いをしてソルティオルを転ばせた。それから後ろに回り込み、杖から水鉄砲のように水を噴出させた。


 それがソルティオルに当たりそのまま柱まで飛ばされて体をぶつける。水圧で彼の体が浮いたまま柱に押しつけられている。


 水が弱まるとソルティオルはずぶ濡れになりながらその場に倒れた。


「彼女は魔法の杖を持っていて、それで攻撃をしているようですね」


 俺の隣でリジュピッピが言った。俺はウィザティーンの持っている杖を見ながら聞き返した。


「魔法の杖?」

「はい、きっと市販されている物でしょう。ですが使い方によっては弱くもなり強くもなる物です」

「そうなんですか」


 ウィザティーンは杖で自分の肩を軽く叩きながら言った。


「終わったか、次は誰だ?」


 するとリジュピッピが前に出て言った。


「次はわたくしが」

「ふーん、リッピットラト星人か、よかろう」


 リジュピッピは爪を立てたように身構えた。ウィザティーンも杖を向けながら身構える。


 リジュピッピは飛び出して蹴りを放った。それをウィザティーンは杖で突きながら跳ね返している。


 拳や蹴りといった攻撃を杖ひとつですべて返している。


 それからお互いは一度離れた。様子をうかがうようにお互いは、にらみ合う。


 リジュピッピは体勢を低くしてまた飛び掛かって行った。


 さっきよりも速い動きでウィザティーンに攻撃を仕掛けていく。そしてウィザティーンの後ろを取りその背中を殴った。


 ウィザティーンはふわっと浮き上がり1回転して着地すると杖から竜巻を放った。


 リジュピッピはそれに足を取られて、空高く舞い上がり落ちて来てブロックに体を叩きつける。


「悪くない動きだ。だがわれには及ばない。次は誰だ?」


 リジュピッピは倒れたまま動かない。


「私が行くわ」


 今度はミミヌイが前に出た。


「ふうん、今度は小娘か。いいだろう、かかってこい」


 ミミヌイは何本ものダーツを一斉に放った。ウィザティーンはそれをひらりとかわした。


「ん?」


 ウィザティーンは自分の頬に指を触れてそれからその指先を確認した。


「……フンッ、われに傷を与えるとはなかなかだ」


 ウィザティーンは杖を振ると自分の周りにつららのような物がいくつも現れた。


 それからミミヌイに向けて杖を振った。するとそのつららは彼女を目掛けて突き刺すように飛んで行く。


 ミミヌイはダーツをそれに当てて攻撃を防ぐ。だがそれは次から次へと現れては襲って来る。


 ミミヌイはその場から離れてつららをかわした。つららは誘導するように彼女を追っていく。


 ウィザティーンはミミヌイの足元に向けて杖を振った。すると下から氷の壁が現れて彼女の行き場をなくした。


 つららがミミヌイに当たる寸前。ポワティガが飛び出してそのつららを棒で弾き返した。


「ミミヌイ、逃げて」


 ポワティガが言うとミミヌイは頷いて答えた。


「うん、ありがとう」


 ミミヌイは俺の隣に来て息を立てている。


「大丈夫?」


 俺が聞くと彼女は闘志を剥き出した目で頷いた。


 ポワティガは棒をウィザティーンに向ける。


「次はぼくが相手だ」


 ウィザティーンはニヤリとしてポワティガを見つめた。


「ネコの次はトラか。よかろう、相手してやる」


 そう言って杖を構えた。ポワティガは突進してウィザティーンに棒を振り下ろした。ウィザティーンは杖からつららを出してその棒を防ぐ。


 ポワティガは回し蹴りをするとウィザティーンは素早く後ろに体を引いた。


 それから、つららの突きを棒で弾き、棒の振り下ろしをつららで弾くといった攻防が続いた。


 ポワティガは棒を下に突き、飛び跳ねてウィザティーンの後ろに回り彼女の背中に棒を突いた。


 棒が当たったように見えたが、それはウィザティーンの体をすり抜けて、その体は消えた。


「こっちだ」


 ポワティガの後ろにウィザティーンが回り込み、杖から稲妻を出し彼女を吹き飛ばした。


 ポワティガは柱に激突して倒れる。その体はビリビリと電気が走っていた。


「次は?」


 ウィザティーンの声が俺を呼んでいる。彼女は俺が来るのを腰に手を当てて待っている。


 次は俺だ。


 あんな強敵にどう戦えば……。


 俺は隣にいるミミヌイを見てみた。彼女は俺に気づくと少し笑顔を見せて言った。


「大丈夫ですよ。私がもう一度行きますから」


 それから彼女は足を踏み出した。ウィザティーンと再び戦うために彼女の背中から闘志があふれているように見えた。俺はその背中を止めた。


「ミミヌイさん。待ってください、俺が行きます」

「え?」

「これ以上みんながやられるのを見ていられない。それに俺だけがまだ戦っていない」

「そうだけど、いいの?」

「俺がやります」


 俺はそう言ってミミヌイの肩に手を置いた。そしてウィザティーンの前まで歩いて行った。


「ふふふ、最後に残ったのは貴様か」


 ウィザティーンは笑いながら言った。


「よかろう、サービスだ。相手してやる」


 俺はさっきマドワレに使った銃を取り出して身構えた。ウィザティーンは腰に手を当てたまま構えようとはしない。


 俺は銃を撃った。網が飛び出てウィザティーンを包んだ。


「これでおしまいか?」


 網が掛かった状態でウィザティーンは手を広げておどける。


 俺は銃を捨てて次の武器を取り出した。次に現れたのは鎖鎌だった。


 ガチャン! と下に鎌が落ちて鎖を両手で持った。鎌を振り上げようとしたが重すぎて鎌を引きずるだけだった。


 諦めて次の武器を取り出した。ブーメランが出てきた。


 俺はそれをウィザティーンに向けて投げた。ブーメランはあさっての方向に飛んで行った。


 ウィザティーンは退屈なのかあくびをしている。


 クソー、もっとまともな武器は出ないのか。


 俺は再び武器を出した。今度は木の棒だった。その棒の片方の先端が丸い形になっている。


 よしこれなら武器になる。


 俺はそれを両手で持ち、ウィザティーンに攻撃をしかけに行った。彼女は杖で網を焼き切ると身構えた。


 俺は棒を思いきり振り下ろした。


 カンッ! と棒と杖が当たる。そのとき俺の棒から何かが出てウィザティーンに当たった。ビリビリと黄色い光が彼女をまとっている。


「グッ」


 ウィザティーンは苦しがりながら俺に蹴りをくらわしてその場を離れた。


 この棒はいったい?


「フンッ、まさかそいつが魔法の杖だとは思わなかった」

「魔法の杖?」

「いいだろう。魔法対決と行こうか」


 そう言ってウィザティーンは上に杖を向けた。ヒューっと一陣の風が俺たちのあいだを通り抜ける。


 俺は杖を両手で持ち身構えた。


 この杖を振ればさっきみたいに魔法が出るのか?


 ウィザティーンの杖の先に渦を巻くように赤い炎が吸い込まれていく。


 次は炎の魔法を放つきか?


 俺はこの隙に攻撃をしかけようと杖を振った。杖の先端から稲妻の魔法が飛んで行く。それはウィザティーンの足元に穴をあけた。


 当たらない。もう一度。


 俺は再び同じように杖を振った。稲妻は出るが今度は空に飛んで行った。


「ははは、まだ使い慣れていないようだな」


 ウィザティーンの声がする。彼女の杖の先端が赤く光っている。


 俺は受けるより避けるために体勢を低くした。そしてウィザティーンから魔法が放たれた。


 渦を巻くように炎が俺を目掛けて飛んでくる。俺は横に飛んでそれをかわした。


 そのときの火の粉で俺の服から煙が上がった。俺は手ではたきながらそれを消した。


 俺は再び杖を振る。


 今度はウィザティーンに目掛けて稲妻が飛んで行く。だが彼女は当たる寸前でそれをかわした。


 当たらない。どうする? この杖を捨てて次の武器に期待するか、このまま使い続けるか。


 俺は杖をウィザティーンに向けて投げた。彼女はそれを避けて言った。


「どうした? 当たらないからヤケになったのか?」


 俺は次の武器を取り出した。フラフープみたいな大きさの輪っかが出てきた。


 これをどう使うんだ?


 新体操の競技で見た動きを思い出して、適当に腰までその輪っかを通して腰を振ってみたが何も起きない。


 やり方が違うのか? そういえば輪っかを上に投げていたような。


 俺はその輪っかを弧を描くようにウィザティーンに向けて投げる。するとその輪が回転を始め彼女を追いかけ始めた。


 ウィザティーンは氷の魔法を出して、防いだり破壊しようとしている。

 

 そのあいだに俺は次の武器を取り出した。黒い水風船のような物がこの手に握られる。


 あ? ……こんなの使えないだろうっ!


「いい加減にしろ―!」


 と言いながら俺はその水風船をウィザティーンに向かって思い切り投げた。


 ウィザティーンはまだ輪っかを構っていた。彼女の足元に水風船が落ちる。何も起こらず水風船はそこに転がったままになった。


 俺は次の武器を取り出した。それは重くとても長い槍。


 俺は重すぎて持てずにそのまま槍の先端を地面に落とした。そこにはウィザティーンがいて槍の先端が彼女の足元に落ちる。


 すると何かが弾けたような高い音が辺りに響き大きな爆発が起きた。ウィザティーンは吹き飛ばされて柱に激突した。


 爆風がその一帯を覆う。


 な、なんだ? 爆発した!?


 俺は槍を持っていられずに地面に落とした。


 爆風が収まりその一帯が姿を現した。ブロックの床が大きくエグられている。


「……グッ」


 ウィザティーンがよろめきながら立ち上がると、恨めしそうな顔で俺に言った。


「貴様、爆弾を使うとは……少しはこたえたぞ」


 そのままウィザティーンが杖を俺に向ける。


「生かしてはおかん」


 そう言って魔法をため始めた。


 俺は素早く次の武器を取り出す。片手で持てるとても軽い剣が出てきた。俺はそれをウィザティーンに向けて投げた。が、当たらない。


 ウィザティーンは巨大な氷の矢を俺に向けている。


「終わりだ」


 そのあいだも何かいい武器が出ないか次から次へと出していった。


 ダメだ。ろくなのがない。


 するとどこからともなく(ピピッピピッ)と音が鳴った。


 ウィザティーンは魔法を解いて杖を戻した。


「時間切れだ。命拾いしたな小僧」


 そして、彼女の後ろにイルカの形をした巨大な飛行船が降りて来た。

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