第14話 塔の上で待つ者は

 リジュピッピは回し蹴りなどで攻撃し、ポワティガは棒でなぎ払い、ミミヌイはダーツを投げてマドワレの分身たちを撃退していった。


 ソルティオルは妖刀で攻撃を繰り出しているが、分身にひらりとかわされると背中に棒を叩きつけられた。そのまま吹き飛ばされて地面に倒れる。


 俺も腰巻に隠していた粘着銃を取り出して身構えた。


 分身が俺を目掛けて棒を振り下ろした。俺はそれに向けて銃を撃ったが、燃料切れなのか粘着物が銃口から出なかった。カチカチと何度も引き金を引いたが反応がない。


 つかんでいる銃を棒が弾きそのまま突きを腹にくらった。


 俺は吹き飛ばされて地面に倒れる。

 仰向けに倒れながら次の武器を取り出すと、それは大斧だった。


 重すぎて持ちきれずに大斧が俺の顔面に当たりそうになった。俺は頭を動かしてそれを間一髪避ける。


 安全のために、今度はうつ伏せになりながら次の武器を取り出した。皮の鞭が出てきた。


 俺はそれをつかんで立ち上がる。すると分身が棒を振り下ろしてきた。俺はとっさに鞭を彼女のほうへ振った。


 棒に鞭が巻きつき俺が強く引くと、分身が引っ張られてそのまま地面に転んだ。それから鞭を再び引っ張り分身から棒を取り上げて投げ捨てた。


 ふと本体のほうを見ると、マドワレは塔に向かって歩き出していた。


「待て!」


 と言って俺はマドワレを止めに行った。

 俺は塔の入り口前まで走っていき、マドワレの前に立ちはだかった。


「おや、ボーヤ、あたいとやるってのかい」


 マドワレは腰に手を当てながら威厳な態度を取っている。


「ラクアピネスは渡さない」

「フーン、そうかい」


 そう言いながら懐からメスを2本取り出した。それを両手に持ち身構える。


 俺は鞭を持ちながら様子をうかがった。素人とわかっているように無謀な感じでマドワレは俺に飛び掛かって来た。


 俺は慌てて鞭をその方向に振った。彼女はそれをひらりとかわすと、俺の背後に回り込み首に腕を回した。首以外も固定されているみたいに動かすことができない。


「さあ、ボーヤ。お寝んねしましょうね」


 マドワレは俺の首元にメスを突き刺そうとした。すると急に体が軽くなりその手が俺の首から離れた。


 見るとリジュピッピがマドワレに飛び蹴りをくらわしていた。マドワレは吹き飛び地面に叩きつけられる。


「大丈夫ですか?」


 リジュピッピが言った。


「え、ええ。いっ!?」


 首元に痛みが走り、俺は首を手で押さえてからその手のひらを見てみた。


 血がついている。


「シュガルコールさん、首から血が出ています。今治しますね」


 リジュピッピは俺に近寄り首元に手をかざした。


 が、その手が俺の首から離れた。リジュピッピがマドワレのひじ打ちをくらい吹き飛ばされた。


「さあ、続きをしましょうか」


 そう言いながら俺の首にメスを突き刺そうとしてきた。俺は鞭を捨てて新しい武器を取り出した。


 すると巨大なハンマーが出て来て片方のメスを弾いた。メスは地面に突き刺さり持てないほど重いハンマーは地面に落ちて消える。


 マドワレはメスの飛ばされたほうをにらみつけながら見ている。


 俺は再び武器を取り出すと弓矢が出てきた。弓を引く力がないので弓のほうを捨てて矢のほうで攻撃しかけた。


 マドワレはとっさにメスで弾き返しながら後ろに飛んで離れた。


「ふうん、変わった攻撃方法だ」


 にやりとしながらマドワレは言うと、ポケットから錠剤を1粒取り出してそれを口に入れた。


 途端にマドワレの瞳が赤くなり俺に突進してきた。


 俺は後退しながら矢を捨てて次の武器を取り出す。銃が出てきた。


 それに気を取られて壁に背中が当たった。塔の壁がそれ以上の後退を妨げている。俺はすぐにその銃口をマドワレに向けて引き金を引いた。


 網が広がりながら出てマドワレを覆った。勢いは少し弱まったが、マドワレはそのまま俺を殴りかかって来た。


 俺はその迫力に圧倒されてその場に屈んだ。


 ドゴォォッ! と上で壁が崩れた。マドワレの拳で塔の壁を破壊した破片が俺の頭に落ちて来る。それから膝を俺の顔面にくらわそうとしてきた。


 そのとき、リジュピッピが横から飛び蹴りをくらわしてマドワレを吹き飛ばした。だが、マドワレはすぐさま立ち上がり襲ってくる。


 すると、そこにポワティガの棒が飛んできてマドワレの横腹に当たり、そのまま突き刺すように塔の壁にぶち当たった。壁に背もたれしながら俺の横にマドワレが倒れて来る。


 ポワティガは跳ね返って来た棒を取るとマドワレに棒を突きつけ身構える。


 俺は素早く立ち上がりマドワレから離れた。


 マドワレは尻もちをつけながら手を振って何かを飛ばしてきた。


 ポワティガは棒で弾き、リジュピッピは上体をそらしてかわし、俺は彼女が何を飛ばしたのかわからずにただ立っていた。


 カキン! と俺の目の前を何かが弾いてどこかに飛んで行った。


 何があったのか辺りを見回すと地面に光る物があった。それはメスだった。


 メスを投げてたのか。じゃああの音は?


 何かが飛んで来たほうを見ると、そこにはミミヌイがダーツを投げた格好をしていた。それからミミヌイは寄って来てダーツを構えながらマドワレをにらみつけた。


 俺、ミミヌイ、リジュピッピ、ポワティガはマドワレを取り囲んだ。


 マドワレは俺たちをにらみつけるように見回して言った。


「これじゃ、割に合わねーなぁ」


 彼女は疲れたように立ち上がり体についた埃を手で払った。


「今回はあたいの負けだ。手を引く。だがな、ラクアピネスはそう簡単に手には入らなねーぞ」


 マドワレは両手をポケットの突っ込んで歩き出した。そして背中を見せながら俺たちに言った。


「次はあたいがラクアピネスを奪う。覚悟しておけ」


 ソルティオルがまだマドワレの分身と戦っている。マドワレはそれを見ると指をならして分身を消した。それから乗って来た飛行船でどこかに飛んで行った。


 ソルティオルは俺たちのところに寄ってくると疲れた顔を見せて言った。


「大丈夫か? 拙者は悪戦苦闘していたが」

「ああ」


 俺はそう返した。


「シュガルコールさん、血が」


 リジュピッピがそう言うと手早く俺の傷を治した。


「あ、ありがとう」

「いえ」

「ミミヌイさんありがとう。俺、あれがなかったら、たぶん死んでたよ」


 ミミヌイはダーツを捨てながら言った。


「気にしないでください、私はただシュガさんに刃物が飛んできているのを見たので、とっさにダーツを投げたんですよ」


「そうですか」


 ソルティオルは腕組みをしながら言った。


「それで、この塔に登るんだろ」

「ああ」


 俺はそう言って塔を見上げた。この屋上にフード女とラクアピネスがいる。


「それじゃあ、みんな行こう」


 そうして俺たちは塔の中に入った。

 中は壁沿いに螺旋状の階段が上へと続いている。俺たちはそれを登って行った。


 そして、一番上まで来てそこのドアを開けた。


 外に出てみると、そこは見晴らしのよい場所だった。アボカドレスの町が一望できる。下は緑のブロックが敷き詰められていて、上には屋根がついている。それが日差しを遮っていた。


 屋根の下にはフード女とラクアピネスがテーブルを挟んで椅子に腰かけていた。


 ふたりはティーカップを持ちながらそれに口をつけている。


 俺たちが来たことにフード女が気づくと、どこか余裕ぶったように話しかけてきた。


「なんだソルティオル。われはそいつらを片づけろと言ったはずだぞ。まだやっていなかったのか。と、いうか、仲間になっているように見えるなぁ」


 ソルティオルは刀を抜くとフード女に向けた。


「拙者は妖刀の呪いを解いてもらいに来た」

「ふうん、残りは?」


 そう言ってフード女は俺たちのほうを見る。


 俺は答えた。


「俺はラクアピネスを助けに来たんだ」


 フード女はラクアピネスのほうをちらりと見た。


「そうか。だが貴様らには渡さん」


 そう言って、椅子から立ち上がりフードを取った。黒く長い髪が揺れてその姿を現した。


 黒い口紅。鋭く吊り上がった目。その目の周りは蝶の羽のような黒い模様を施している。


 不気味な笑みを見せながらフード女は言った。


「われはウィザティーン。われもあるお方と取り引きしているのでな。渡すわけにはいかぬのだ」


 彼女は手を握るとそこに指揮棒のような短く黒い杖が現れた。


「われに勝ったら妖刀の呪いを解くこととラクアピネスを渡してやろう」

「本当か?」


 俺はそう聞き返すとウィザティーンは杖を手のひらで叩いた。


「だが、条件がある」

「条件?」

「そうだ、われは1対1の戦いを求める」


 そう言ってラクアピネスに杖を向けた。すると透明な箱が彼女を覆う。それからラクアピネスに向けて炎を放った。


 炎は透明な箱によって防がれた。


「もしその約束を破ったら、妖刀の呪いは解かないしラクアピネスをその箱から出さない。あるお方との取り引きまでな」


 俺はみんなのほうを向いて聞いた。


「みんな、どうする?」

「拙者はあやつの意見を聞き入れるべきだと思うが」


 ソルティオルが言うとそのあとをリジュピッピが続いた。


「わたくしも彼女の意見に従うしかないと思います。何が起こるかわかりませんから、確率の高いほうを選ぶべきかと」

「私もそれでラクアピネスさんを助けられるなら、そうしたいわ」


 とミミヌイが返答した。ポワティガは棒を下に突いて言った。


「ぼくは相手が誰であれ戦うよ」


 俺はみんなの意見を聞き入れてウィザティーンに言った。


「わかった、条件をのもう」

「よかろう。それで誰からだ?」


 するとソルティオルが前に出た。


「ここは拙者が」

「そうか、頼む」


 俺たちは後ろに下がり彼の戦いを見守った。

 

「ふふふ、貴様が最初か。いいだろう」


 ウィザティーンはそう言って杖を構えた。ソルティオルも刀を構えている。妖刀のほうは使わないみたいだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る