第13話 飛行船での移動

 町の外に出て辺りを見回すと乗り物らしきものがいくつか停まっている。


 俺たちはそれに近寄って行った。するとひとつの乗り物から(ピッピッピッ)と音が鳴った。


 その乗り物はペンギンが横に飛んでいるような恰好の乗り物だった。


「これみたいですね。乗りましょう」


 リジュピッピがその乗り物の脇に来ると自動でドアが開いた。彼女はそのまま中に入って行った。


「これに乗るの?」


 俺はそう言いながらその乗り物を眺めた。


「まー可愛らしい!」


 ミミヌイがうれしそうに言って乗り込んで行った。


「拙者は普段乗り物は使わないんでな、ここは甘えて乗るとするか」


 そう言いながらソルティオルはゆっくりと乗り込んでいく。そのあとをポワティガが続いた。


 最後に残った俺はしぶしぶ乗ろうと足を踏み出した。


「あっ!」


 俺は小さな段差につまづき、転んで中に入った。


「いってぇ……」

「大丈夫ですかシュガさん」


 ミミヌイが席から立ち上がって見ていた。


「ああ、大丈夫」


 俺は立ち上がると船内を見回した。中は広い部屋といった感じだ。そこにいくつかのソファーやテーブルなどが置かれている。


 ちょっとした談話室になっているようだ。

 ほかにも自動で開くようなドアがいくつかあった。


 みんなソファーに腰かけている。


「あれ? 誰か運転しないんですか?」


 俺がそう聞くとリジュピッピが答えた。


「ええ、自動運転ですから」

「自動運転?」


「はい、このテーブルにあるボタンを押すとテーブルに地図が出てきます、そこにある場所を指で押せば勝手にそこへ向かってくれますので、地図には、私たちの居場所が青で、これから行く場所は赤で表示されます」


「そ、そうなんですか」

「その場所を声に出して言っても、そこに向かってくれます」

「声? たしか店員さんがそんなことを言ってましたね」


「はい、この船の名前ピヨロンを言ったあとに、その場所名を言うのです。場所以外のこともある程度ならしてくれますよ。たとえば、どこかの船がこの船を攻撃してきたとき、ピヨロンにその船を攻撃してと頼めば備えつけの武器で攻撃してくれます」


「へぇー」


 リジュピッピはテーブルの一部分を指で押した。


 すると乗り物は浮くと走り出した。俺は揺れると思って足を踏ん張ったが、抵抗なくスムーズに発進した。


 何の振動もなく音もしない。引っ張られる重力も感じない。窓の外はテレビで映像が流れているみたいに風景だけが流れていく。


 こうして俺たちはアボカドレスの町に向かった。


 アボカドレスの町に着くまで、それぞれが好きなことをして暇をつぶす。


 船内は移動の揺れや振動を受けないため自由に歩き回れる。


 テーブルには食べ物や飲み物のメニュー表の映像がある。その映し出されている画像を指で押すと、それがテーブルに出てくる仕組みだ。


 長期間移動する人のために用意されているみたいだ。


 壁にも地図の映像があった。青のポインターが少しずつアボカドレスの町に移動している。


 まだまだ着きそうにない。


 退屈しのぎのために、ミミヌイ、リジュピッピ、ポワティガはソファーに座ってトランプをしている。

 

 ミミヌイはジュースを飲みながら楽しそうにトランプをしていた。

 

 俺もジュースを飲みながら外の流れる風景をみていた。するとソルティオルが酒を飲みながら話しかけてきた。


「シュガルコールと言ったか」

「ん? ああ」

「お主はラクアピネスで何の願いを叶えるんだ?」

「俺はラクアピネスと一緒にいることが目的だ」

「一緒にいる? それは随分変わった目的だな」

「まあ、わけあって。それよりあんたは一体何者だ?」


 ソルティオルは酒を一口飲んで話し始めた。


「拙者は……実は一度死んでこの世界に来ている。ライバルと決闘していてな、そのときやられた」

「死んだ? じゃああんたも」

「あんたも? もしかしてお主も同じか」

「そうだ、俺は運のパラメーターが0で死んだ」

「運かぁ、拙者は運動神経だ」

「運動神経」

「ああ」


 そう言いながらソルティオルはトランプを楽しんでいるミミヌイたちをのほうを見た。


「あの娘もそうか?」

「むすめ?」

「あのミミヌイとかいう娘だ」

「そうだ」

「ふうん、何のパラメータが0なんだ? 娘は」

「人間関係だと言っている」

「……そうか」


 会話をしていたら突然トイレに行きたくなった。


 俺はトイレがないかその部屋を探した。だがどこのドアを開けても倉庫やシャワー室、ベッドルームがあるだけでトイレは見つからなかった。


 俺はリジュピッピに聞いた。


「あのリジュピッピさん」

「はい」

「ちょっとトイレに行きたいんですが」

「そうですか。少々お待ちください」


 リジュピッピはテーブルの一部を押した。すると乗り物は途中で停まった。


「これでドアに近づけば開きますので、外で用を足してきてください」


 リジュピッピはそう言うとミミヌイが続いた。


「もしかしてウォーターペーパー必要ですか?」

「ウォーターペーパー?」

「はい、お尻を拭く物です」


 それから青い布のような物をどこからか取り出して見せた。


「これ、その辺に捨てても大地の栄養になる物なんですよ」

「ああ、そうなんですか。いや俺は大丈夫」

「そうなんだ……」


 ミミヌイはソファーから立つと入口のところに来た。


「私もついでにしていくわ」

「拙者もついでに」


 こうして、人間である俺たちは草などに隠れてそれぞれが用を足した。


 ペンギンの乗り物に戻るまで距離があったので、俺たちは話しながら戻ることにした。


「へぇー、ソルティオルさんは運動神経なんですね」


 ミミヌイがソルティオルに興味深そうに聞く。ソルティオルは言いづらそうに答えた。


「そうだ、そのおかげで死んだ。シュガルコールに聞いたが、お主は人間関係だと」


「ええ、そうです。私、高校でとあるチームのリーダーだったんです。相手チームとケンカのとき仲間に裏切られて、それで……」

「ふうん」


 チーム? ケンカ? 高校? ミミヌイは不良少女か?


「ソルティオルさんは?」

「拙者か。拙者は決闘でだ」

「決闘ですか」

「ああ、ライバルにあっさりとな」


 それからミミヌイは俺のほうを向いて聞いてきた。


「シュガさんは?」

「え? 俺?」

「はい」


 ミミヌイは笑顔でこちらを見ている。言わなかったら不良少女に何をされるかわからない。


「俺は病気で……原因不明の」

「そうなんですか。それは残念ですね」


 ミミヌイは困った顔を見せる。俺は苦笑いをしながら返した。


「ま、まあ」


 そうしてペンギン飛行船? に俺たちは戻って行った。帰って来るとリジュピッピとポワティガはトランプのババ抜きをしていた。


「お帰りなさい」


 リジュピッピが俺たちに気づき言った。俺は恥ずかしながら返答した。


「すみません、俺たちのことで停めてしまって」

「いえ、いいんですよ。また行きたくなったらいつでも言ってください。それでは再び出発しましょうか」

 

 それからペンギン飛行船はアボカドレスの町へと走り出した。


 今度は俺とソルティオルも交じってトランプをやることにした。ババ抜きをしながらミミヌイがソルティオルに話しかける。


「そう言えば、ソルティオルさんは何を探しに?」

「さがし?」


 訝しい顔をしながらソルティオルは返した。


「はい、この世界に来るとき天使に言われましたよね。なになにを探してきてって。私は対人円満の犬なんですが」

「ああ、そのことか、拙者は疾風迅雷の猫だ。たしか名前は……ジャメニと言ったな」

「へぇー猫ですか」


 するとソルティオルは俺のほうを向いて聞いてきた。


「シュガルコール、お前は何なんだ?」

「俺は今追っているラクアピネスだ」

「ラクアピネス……ふうん、なるほど」

「ラクアピネスは別名、幸運の女神と呼ばれている、だからだ。まあ俺が決めた事じゃないが、あの天使が言っていたことだからな」


 こうして飛行船で一泊してアボカドレスの町に到着した。飛行船は自動的に停まる準備に入った。


 『アボカドレスに到着しました』というアナウンスが船内に流れる。


 町の近くに飛行船が停まると俺たちは歩いてアボカドレスの町に向かった。


 平原を歩いていると緑色の門が見えてきた。町の側には緑色の塔が建っている。すると別の飛行船が飛んで来て停まった。その飛行船には見覚えがあった。


 金魚の飛行船。


「あの飛行船は、たしかマドワレという女性が乗っている物ですね」


 リジュピッピが言うとソルティオルが聞き返した。


「マドワレ? そいつは敵か?」

「以前わたくしたちを襲ってきた者です。ラクアピネスさんを狙っているようですが」

「ふーんそうか」


 門に近寄って行くと、金魚の飛行船のドアが開きマドワレが降りて来た。マドワレは俺たちに気がつくと、ニンマリとしながら言った。


「おや、誰かと思えばボーヤたちじゃないか。こんなところで会うとは奇遇だな」


 マドワレは俺たちは見回してから続けた。


「見たところラクアピネスはまだ捕まえていないようだな」


 彼女が白衣のポケットに手を突っ込むのを見て俺たちは身構えた。


「あんたたちがここにいるってことは、この町、あるいはあの塔に用があるってことだろう。ラクアピネスを手に入れるために」

「だからどうした」


 俺がそう言うと、マドワレは笑って返してきた。


「あはははは、残念だったね。あたいはあんたたちにラクアピネスを渡すつもりはないんだ」


 マドワレは錠剤を地面に撒いた。


 すると錠剤からマドワレと同じ人物が何人も現れた。その分身たちは棒やナイフなどの武器を持っている。


「やっちまいな」


 マドワレに言われて、分身たちが俺たちに襲い掛かって来た。

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