第11話 浴衣男の目的
俺はミミヌイとリジュピッピに駆け寄る。
「ふたりとも大丈夫ですか?」
俺が言うとふたりは立ち上がる。
「ええ、なんとか」
そう言いながらミミヌイは痛そうに左腕を押さえている。
「はい」
リジュピッピはそう答えながらそのまま歩いてミミヌイに近寄った。それからミミヌイに手をかざして腕の傷を治した。
「ありがとうございます」
ミミヌイが言うと「いえ」とリジュピッピは返した。
それから俺たちはポワティガを見た。彼女は檻にいれらえた動物のようにその場から動けないでいる。
「動けない様ですね」
リジュピッピが言った。
「はい、この銃の力で彼女は動かなくなりました」
俺が銃を見せながら答えるとリジュピッピはその銃を見つめる。ミミヌイは銃を物珍しそうに見ながら言った。
「すごいじゃないですか。それがあればこれからどんな敵が現れても大丈夫ですね」
「あ、ええ、まあそうかなあ」
俺たちはそのままスタンメモル美術館に入って行った。
中は白いブロックの道がまっすぐ続いる。途中に噴水があり、さらに先には白い宮殿のような建物が建っていた。
周りは緑の芝生が広がりそこに白い彫刻が建っている。球体。ひし形。葉のついていない木。崩れた丸い柱など。
俺たちはそれを見ながら先へと進んだ。
宮殿のような建物に来てみると窓から明かりがもれていた。窓は開いており何やら話し声が聞こえてくる。
俺たちはその窓から顔をのぞかせて中の様子をうかがった。
浴衣男とラクアピネスがそこにいた。それからもうひとり奥側に誰かいる。
赤のフードつきローブを着て、そのフードを頭に被り、そこから黒く長い髪をのぞかせている女性が浴衣男と向かい合っていた。
「そいつがラクアピネスか?」
女性が言うと浴衣男は答えた。
「ああ」
女性はラクアピネスを注意深く見ていた。
「確かに、間違いないな」
「では、妖刀のほうを」
浴衣男が言うと、女性は紫色のさやに収められている刀を取り出した。
「こいつだ」
俺はリジュピッピに聞いた。
「彼らは何をやっているんです?」
「取り引きみたいですね」
「取り引き?」
「はい、ラクアピネスさんと妖刀の交換を行っているみたいです」
浴衣男はそれを取ろうとすると、女性はそれを渡さずに指をさした。
「そっちが先だ」
浴衣男はラクアピネスのほうをチラリとみると頷いた。
「ああ、わかった」
そう言ってラクアピネスの背中を押した。
「よかろう、取り引き成立だ。受け取れ」
浴衣男は妖刀を手に取るとニヤリと微笑んだ。
「では」と言いながら女性は背中を見せて歩き出した。
リジュピッピは慌てて俺に言った。
「シャガルコールさん、早く中に入って取り引を止めましょう。でないと、今度はあの女性にラクアピネスさんがどこかへ連れていかれます」
「そ、そうですね」
そうして俺たちはドアを開けて中に入った。
「待て!」
俺の声に反応して、そこにいる3人がこちらを向く。
「お主らは!? なんで?」
浴衣男は驚きながら言った。
「貴様、われを騙したな」
女性は少し怒りのこもった声を出すと浴衣男をにらみつけた。
「ちがう、そいつらは」
「まあ仕方ない、お前がそいつらを片付けておけ」
女性はそう言うと空間移動みたいなものを使い、ラクアピネスと一緒にその中に入って行った。それからその空間は消えてなくなった。
浴衣男はこちらを注意深く見ながら言った。
「拙者はソルティオル。お主らはいった何者だ?」
俺たちはお互い顔見合わせてから、リジュピッピが前に出て答えた。
「わたくしはリジュピッピ。こちらはシュガルコールさんにミミヌイさんです」
それを聞くと、疲れたようにソルティオルは周囲を見回した。
「……ここに来る前にポワティガがいたはずだが。あいつをやったのか?」
「ええ、シュガルコールさんがあの人の動きを封じました」
「動きを封じた?」
俺は銃をソルティオルに見せた。
「なるほど。それで、お主らはどうしたいのだ。拙者はお主らと戦わねばならぬが」
「わたくしたちはあなたと戦うために来たのではありません。ラクアピネスさんを追いかけてここまで来たのです」
「そうであったか、だが拙者はフード女にお主たちを片付けるように言われた。だから」
ソルティオルは妖刀を抜くと俺たちにそれを向けて来た。
「お主らの命もらい受ける」
リジュピッピはそれに動じず冷静に言った。
「あなたに少し聞きたいことがあるのです」
「聞きたいことだと?」
「取り引きしていた相手は誰なんです?」
「それは言えない」
「どうしてです?」
「そいつのことを言えば拙者の命はないからだ」
「取り引き相手が襲って来るのですか?」
「いや、こいつだ」
そう言って握っている妖刀を少し持ち上げた。
「この妖刀が拙者の命を奪うようにしてある」
「どうしてそんなことを?」
「どうして? それはこの刀がその分、強力な代物だからだ」
ソルティオルは再び妖刀を握りしてめて身構えた。その刀からは赤黒いオーラのようなものが流れている。
「さあ、話はおしまいだ、誰から掛かってくる。お主か? それとも後ろのふたりのどちらかか?」
リジュピッピは俺たちのほうを向いて言った。
「ここはわたくしにお任せください」
俺とミミヌイは頷いて後ろに下がった。
「まずは、お主が相手か。いくぞ」
ソルティオルは素早い動きで突進していき刀を振り抜いた。
それをリジュピッピは宙を舞って、かわし、彼の背中に蹴りをくらわした。
ソルティオルは蹴られて前によろめく。リジュピッピはそのまま床に着地をして、すぐさま彼に向かって行った。
ソルティオルは振り向きざま刀をなぎ払う。リジュピッピはそれをしゃがんで避けて、爪を立てた様な手で彼の顎を突き上げた。
彼は吹き飛び宙を舞う。
リジュピッピは飛び上がり空中で前転しながらかかとを彼の腹に叩き込んだ。ソルティオルは床に叩きつけられて動かなくなった。
「シュガルコールさん。ほかを探しに行きましょう」
「え、ああそうですね」
俺たちはそこから立ち去ろうと歩き出した。
「その首もらい受ける!」
ソルティオルは妖刀を振り上げながら俺たちに向かったきた。
するとミミヌイがとっさにダーツを投げた。ソルティオルの浴衣に何本か刺さり、そのまま体ごと引っ張られて壁にぶつかり貼りつけにされた。
「次、襲って来たら、あんたの脳天にこれを刺すわよ」
ミミヌイはダーツを見せてソルティオルをおどした。ソルティオルは慌てて返した。
「わ、わかった。もう何もしない。だが拙者も連れて行ってくれぬか。ラクアピネスを探しに行くのであろう」
それにリジュピッピは答える。
「そうです。ですが、あなたを連れて行く必要はありません」
「ま、待ってくれ。拙者はさっきの取り引き相手がよく来る場所を知っている」
「よく来る場所? それは知りたいことですけど。あなたがそれを言えば命がないのでは?」
「あやつの住んでるところと名前以外は大丈夫なんだ。取り引き前にあやつに聞いたからな」
「少し待ってください」
リジュピッピは俺たちに相談をしてきた。
「どうなさいますか? 彼を連れて行きますか?」
「リジュピッピさん。あなたの力でラクアピネスを連れて行った相手ってわからないんですか?」
「わかりました、少しやってみます」
そう言って彼女は一点を見つめて集中した。しかしすぐに「うっ」と言いながら苦しそうに下を向いた。
「すみません、ダメですね。その者を見ようすると視界が真っ暗になり息苦しくなります」
「真っ暗に?」
「ええ、普通はこんなことは起こりません。その者の力なのかわかりませんが、強制的に見せないようにしてあるみたいです」
「そ、そうですか……」
ラクアピネスを追うにはフード女を追う必要がある。そいつのよく来る場所をソルティオルは知っている。
リジュピッピの力が使えない今、手掛かりを握る彼の話に乗るしかないか。
ほかの方法は……ラップポロントの占い。もう一度ストーロベリ城に行ってラップポロントに尋ねてみればわかるかもしれない。
「いや、彼を連れて行くのは止めましょう」
「連れて行かないのですか?」
「はい、ラップポロントの占いでリジュピッピさんがまた、フード女の映像を見せればどこに行ったのかわかるのではないかと思うので」
「たしかにそれなら、彼を連れていく必要はありませんね」
俺はソルティオルに言った。
「俺たちはお前を連れて行かない」
「え? ま、待て、なぜだ?」
「これからストーロベリ城に行って、占い師に聞くからだ」
「占い師? そんな奴より拙者のほうが確実だ」
「どうして?」
「もし拙者を連れて行かないなら、拙者はあいつの居場所をお主らに教えない。占い師に頼んでわからないと言ったら、拙者を頼ざらるおえなくなるだろう。それに外にいるポワティガが封じた物を解いて、またお主たちを襲って来るはずだ。拙者はそれを止めることができる」
リジュピッピが俺に言った。
「シュガルコールさん、ここは彼を一度連れて行き、ラップポロントさんに占いをしてもらってからでもよいのでは? ポワティガがまた襲ってきた場合、さっきのように危険な状態になる可能性があるかもしれません」
うーん、確かにソルティオルの言う通りだ、彼を連れて行かないで、占いが役に立たなかったら手掛かりを失うことになる。この広いリッピットラト星でフード女を探すのは不可能に近い。それにポワティガは強い。
「……そうですね。わかりました。彼を連れて行きましょう」
俺はソルティオルに言った。
「わかった、お前を連れて行く」
「本当か」
「だが、ひとつ聞きたいことがある」
「何だ?」
「俺たちはラクアピネスを追っているけど、お前は何が目的だ? ただ俺たちをそこまで案内するだけか?」
くくく……とソルティオルは笑った。
「何がおかしい」
「いや失礼。拙者はフード女に用がある。その者の名前を言えば拙者の命を取るこの刀。その呪いをかけたのがそいつだからだ。拙者はそいつに会い、この呪いを解いてもらう。力づくでな」
「ふうん、そうか」
「安心しろ。拙者はお主たちについて行く以上、もめ事は起こさん。それに不意をついてお主たちを襲ったとしても勝てそうもないからな」
こうして、ソルティオルを連れて行くとこになった。美術館を出るとポワティガが俺たちを襲ってきた。
とっさにソルティオルがそれを止めてポワティガに説明をした。それを受けてポワティガも一緒に行くこととなった。
「粘着物は?」と俺が聞くと「粘着物は自然と消えた」とポワティガが答えた。
どうやら緑の粘着物は時間が経つと消える仕組みになっているらしい。
俺たちは一度ストーロベリの町に戻り城に向かった。
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