第10話 侵入を防ぐ者

「あれは!?」


 リジュピッピは何かに驚いた。


「どうしたんですか?」


 そう聞いたあと、俺はリジュピッピが見ているほうに目を向けた。


 そこにはリッピットラト星人が何人か倒れていた。

 俺たちはそこで倒れている人に駆け寄った。


 リッピットラト星人のコスチュームがところどころ砕かれている。


「酷い」


 ミミヌイは口に手を押さえて悲しそうに言う。


「なんでこんなことに?」


 俺はそのボロボロになった姿を見ながら言った。


「どうしました?」


 リジュピッピは聞くとその人は苦しそうに返答してきた。


「こ、この先にいる、リッピットラト星人にやられました」

「リッピットラト星人に? わかりました、今すぐあなたを治します」


 リジュピッピはその人の体に手をかざした。すると砕かれたところが修復されていった。


「すみません。ありがとうございます」


 そう言ってその人は体を起こした。


「リッピットラト星人が襲ってきたのですか?」


「はい、私は幸運の女神を探すゲームに参加している者です。この先にあるスタンメモル美術館にその者がいるという情報を手に入れてここまで来たのですが。その手前にる者にやられました」


「結構やられていように見えたのですが。これは競技の範囲ではありませんね」


「はい、スタンメモル美術館に入るにはその者を倒さないといけないみたいです。私のほかにも何人かのリッピットラト星人が来ていたのですが。皆さんその者によってやられてしまわれて」


 そう言って、彼女は周りで倒れているリッピットラト星人たちに目を向けた。


「わかりました、倒れている者たちを助けたあとそこに向かってみます」

「それはおやめになったほうがよろしいかと思います。その者はとても強いですから」

「それでもわたくしたちはスタンメモル美術館の中に入る必要があるのです」

「……そうですか無理にとは言いません、ですが気をつけてください」

「はい」


 そうして、その人はその場から去った。


 それからほかの倒れている者たちを治していった。皆それぞれが立ち去る前に「強い」とか「やめたほうがいい」というような言葉を返してきた。


 俺はリジュピッピに聞いた。


「リジュピッピさん」

「はい」

「彼女たち倒れていましたけど、自分で自分のことを治せないんですか?」

「治せますよ」

「じゃあ、何で倒れたままいたんですか?」


「彼女たちは自分の中にあるエネルギーを使い果たしてしまったのでしょう。ですから、襲ってきた者から逃れて、あそこでエネルギーの回復を待っていたんです」


「ふうん、なるほど」

「それより、門のところに行ってみましょう」


 警戒しながら歩いて行くとアーチ状の門があり、そこにスタンメモル美術館と書かれていた。


「これがスタンメモル美術館」


 俺がぼそりとつぶやくとリジュピッピは俺たちの前で手を横に出して歩行を止めた。


「お待ちください」

「どうしたんですか?」

「誰かいます」


 リジュピッピはその方向に人差し指を向ける。

 アーチ状の門の下に何者かが立っていた。


 よく見てみると、顔は白い虎の仮面をつけて、頭の管は寒色系の色で首辺りまで伸びている。体は白のトラックスーツを着ている。


 そいつは右手に長い棒を持って待ち構えていた。


「彼女がやったのか?」


 俺が言うとリジュピッピは答えた。


「ええ、間違いなく彼女がリッピットラト星人たちを襲ったのでしょう。とにかく行ってみましょう」


 俺たちは白い虎の仮面をつけたリッピットラト星人に近寄った。すると、そいつは言った。


「ぼくはポワティガ。ここを通りたければぼくを倒すことだ」


 リジュピッピは前に出て聞いた。


「あなたを倒す? どうして? ここに来るときリッピットラト星人が傷ついて倒れていました。競技ではないのですか?」

「これは競技ではない。とある男から、この門を誰ひとり通してはならないと命令を受けている。もし通ろうとするやつは倒して構わないと」

「とある男? それは誰です?」

「黒の浴衣男だ」

「なぜ彼の命令を聞いているのです?」

「雇われたからだ」


 リジュピッピはそこで話を止めて俺たちのほうを向いた。


「シュガルコールさん、この中に浴衣男がいるようです。ですが、その前にそこにいるポワティガを倒さなければなりません」


「そうですか。まさかボディーガードがいるとは。できれば俺が出て行って、ポワティガと戦いたいのですが。あいにく俺の力じゃ……」


 俺は自分の不甲斐なさに下を向いた。


「大丈夫ですよ、わたくしが倒しますから」

「すみません、お願いします」


 リジュピッピはポワティガの目の前まで歩いて行った。


「君が相手か」


 ポワティガはそう言うと長い棒を両手に持ち身構えた。リジュピッピは爪を立てるような恰好で身構える。


 ふたりは同時に飛び出した。


 ポワティガの棒がリジュピッピの脇腹に当たりそうになった。彼女はその棒をひらりとかわすと、ポワティガの背中に回り込み背中をひっかいた。


 ポワティガは後ろに回し蹴りをする。それをリジュピッピは後ろへ飛び避ける。


 ポワティガはそのまま棒をリジュピッピに突き出す。棒がリジュピッピの腹に当たり吹き飛ばされて塀にぶつかり倒れた。


「リジュピッピさん!」


 俺が叫ぶと、ポワティガは俺のほうに向かってきた。

 

「シュガさんは下がっていてください!」


 ミミヌイが俺の前に来てダーツを指に挟んで身構えた。


 言われた通り俺は後ろに下がった。


 棒を振り上げながらポワティガは襲ってきた。

 ミミヌイはダーツを投げた。ポワティガはそれを棒で弾き返す。それからミミヌイの後ろに回り込み棒で背中を突いた。


 ミミヌイは吹き飛ばされる、その飛ばされている最中に振り向いて、ポワティガにダーツを投げた。


 ポワティガは避け切れず首にダーツが掠った。そこから青い液体がうっすらと滲んでいる。


 ミミヌイはそのまま地面に倒れた。すかさずポワティガは棒を振り上げながら襲い掛かった。


 ミミヌイに棒が振り下ろされる。そのとき、リジュピッピの飛び蹴りがポワティガの脇腹に当たった。


 ポワティガは吹き飛ばされて塀にぶつかる。

 ミミヌイとリジュピッピは身構えてポワティガの行動を待った。


 ポワティガは立ち上がり、棒をクルクルと回転させると突進してきた。


 ミミヌイはダーツを投げた。ポワティガはそれを棒で弾き返す。それから素早い動きでミミヌイとリジュピッピの後ろに回り込み棒をなぎ払った。


 棒はミミヌイの背中に当たった。リジュピッピは棒を宙返りで避けて、ポワティガの後ろに回り込み、両足でその背中を蹴った。


 そして、そのまま上空へと飛び、ポワティガ目掛けて突き刺すような蹴りを出す。


 ポワティガは振り向きざま棒をリジュピッピに投げた。棒がリジュピッピの腹に当たりそのまま吹き飛ばされる。


 それから落ちて来た棒をポワティガは受け取ると、今度は俺を標的にしてきた。

 

 ミミヌイとリジュピッピは倒れたまま動かない。


 ま、まずい。


 俺は武器屋で買った腕輪を使って武器を取り出した。


 出て来たのは刃が両側についた大きな鉄の斧。俺はそれが重くて地面に落とした。


 斧!?


 武器は剣だけじゃなかったのか? つ、次、早く何か武器を!


 「いたっ」握ったのはトゲトゲのついた鉄球。痛くて重くて持てない。俺はそれを地面に落とした。


 俺はポワティガから少しずつ後ずさりしながら武器を出していった。


 弓矢が出てきた。俺はそれをポワティガに向けて見よう見まねで矢を放とうとしたが、力がなさ過ぎて弓が張れない。


 諦めてほかの武器を出した。するとポワティガが飛び出すように襲ってきた。


 棒を振り上げながら突進してくる。


 俺は武器を取り出した。ブーメランをつかんでいる。それをポワティガに目掛けて投げた。


 ポワティガはあっさりとかわし俺の背後を取った。


 俺はそのまま走り出して逃げた。逃げながら武器を取り出した。今度は小さなハサミ。


「使えるか!」


 そのまま小さなハサミをポワティガに投げた。ポワティガはそれを棒で弾き返すと再び突進してきた。


 俺は次の武器を取り出した。皮の鞭が手に握られている。


 その鞭をポワティガに目掛けて振った。するとポワティガの持っている棒に巻きついた。お互いの武器が引っ張り合う。


 それを見た彼女は棒を振り上げた。俺は鞭を持ったまま宙に放り投げられ、その勢いで持っている鞭を手放した。


「うっ」


 地面に叩きつけられて背中を痛める。

 俺は背中を押さえながら立ち上がり、すぐに武器を出した。


 剣が出た。俺の力でも持てる、やっとまともなのが出てきた。


 俺はそれを両手に持ち身構えた。

 ポワティガはくるりと体をひねりながら回転させてきて、俺に目掛けて棒を突き出した。


 俺はその棒を剣で防いだが、俺は後ろに吹き飛ばされて握っていた剣が手から離れて消える。


 ダメだ、このままじゃ倒せない。何かやつを倒せそうな武器を……。


 俺はそれから次から次へと手早く武器を出しては落としていった。そして、手ごたえのある武器をつかんだ。それは銃のような物。


 緑色で変わった形をしている。よく見ると水鉄砲のような物に似ている。


 俺はそれを持ち。ポワティガに狙いを定めた。

 彼女は地面に棒を突き上に飛び跳ねて、そのまま俺を目掛けて棒を振り下ろしてきた。


 俺は銃を撃った。しかし、それは玉ではなく緑の液体だった。それが重力によって俺の足にかかる。撃った反動と足についた粘着したもので俺は背中から倒れた。


「うわっ!」


 倒れた衝撃でさらに銃を撃った。

 

 すると彼女の腕や足にその液体はついて動きが鈍くなる。棒を地面に叩きつけるが、鈍いため俺はそれを難なく避けた。


 再びポワティガに向けて銃を撃った。緑の液体は彼女の足元に付着する。


 動きにくそうに棒で体を支えながら、体勢を整えると再び襲ってこようとした。だが、体が地面にくっついているみたいにこちらには来れないようだ。


 ポワティガは体をもがきながら俺をにらみつけている。


 俺は心配になり、向こうで倒れているミミヌイとリジュピッピを見た。


 「待て!」とポワティガに呼ばれたが俺はそれを無視してふたりの元へ向かった。

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