第7話 思うようにいかない戦い

 ピリッピランドは再び槍を出してボローボのほうを向き身構える。


 ニヤリとしながらボローボは言った。


「まだ勝負をするのか? 早く渡したほうが身のためだぞ。でないと、またあそこにいる男が食われそうになるぜ。いや、今度は丸呑みかもな」

「望むところだ」


 ピリッピランドは挑発に乗るようにそう答えた。


 「のぞむなー!」と俺は心で叫んだ。


 いつまでも他人に身を任せられない。


 俺はさっきミミヌイが渡してきた剣を取りに行った。

 地面に刺さっていた剣を抜き取りボローボに向けて身構えた。


 さあ、いつでもこい。


 ボローボは再び手のひらを前に出そうとした。ピリッピランドはボローボの後ろに回り込み槍を突き出した。


 ボローボは素早く宙に飛び回転してそれをかわした。


 ピリッピランドはさらに突進しながら槍を突き出す。ボローボは小さなナイフを取り出すとその槍を弾いた。


 その反動でボローボは後ろに飛び、ピリッピランドに手のひらを向けて何かを放った。


 黒い影が彼女に当たり吹き飛ばされる。

 その影は見る見るうちに大きなドラゴンに姿を変えた。


 ドラゴンが動くとその尻尾で家が破壊された。


「行け」


 ボローボはドラゴンに命令するとドラゴンは俺をめがけて襲ってきた。


「シュガさん!」


 ミミヌイは俺の元へ駆けつけてきた。


「私も一緒に戦うわ!」


 そう言って指と指のあいだにダーツみたいな針を挟んで身構える。


「わたくしも、共に戦います」


 リジュピッピは爪を立てたような構えをして戦闘に備えた。


「あ、ありがとう」


 俺も剣を握りしめて挑んだ。


 ドラゴンは俺たちに向けて口から火を放った。

 ミミヌイとリジュピッピは避けた。俺も避けた。


 ふう、あぶねぇ。ん? 焦げ臭い。


 その匂いの先を見ると俺の服に火が燃え移っていた。


 や、やべぇ。


 俺は急いで火を消そうと地面に寝そべり、横に回転し始めた。


「シュガルコールさん今その火を消します!」


 リジュピッピは俺に向けて真空波を放つ。


「シュガさん水です!」


 ミミヌイはどこからか持ってきたホースで水を俺に掛けた。


「え?」


 俺は真空波に吹き飛ばされてホースから勢いよく飛び出る水にぶつかり、地面に倒れて水浸しになってしまった。


 ドラゴンは俺に咬みつこうと口を開けてきた。

 俺はそれを剣で払うと、カキンッ! と剣が牙に当たり剣がどこかに飛んで行ってしまった。


 ドラゴンは地面を踏むと地震が起きる。その振動に負けて俺は尻餅をついた。


 ドラゴンは再び火を吐き出そうと口に火をためる。


 ミミヌイとリジュピッピはドラゴンの後ろから攻撃をしている。しかし、ふたりとも尻尾になぎ払われて吹き飛ばされた。


 俺は近くにあった石をつかみそれをドラゴンの顔面に投げつけた。ドラゴンの顔に当たった石が俺に向かって跳ね返り、俺の顔に当たる。


「うっ!」


 投げたときよりも跳ね返って来たときのほうがなぜが威力が上がっている。そのため俺は吹き飛ばされた。


 俺は立ち上がり振り向いた。ドラゴンは俺に何かの恨みでもあるかのように赤い目を光らせている。


 俺はそれから離れようと走り出したが、何かにつまづいて転んでしまった。見るとさっき俺の顔に当たって跳ね返った石が転がっていた。


 ドラゴンは俺を踏みつぶそうと足を上げた。


 やられる。ここで。踏みつぶされて……っていうか。死ぬ状況になるのが早すぎるだろー!


 そのとき「おい、やめろ!」と脅すようなピリッピランドの声がした。

 ピリッピランドはボローボの背後に回り込んで槍を彼の首元に突きつけている。


 ドラゴンはその場で止まっていた。


「早くドラゴンを檻に戻すんだ」


 ボローボは仕方なくといったように手を叩いてドラゴンを消した。

 

 た、助かったぁ。


「シュガさん大丈夫?」


 ミミヌイが駆け寄って来た。


「ああ、何とか」

「そう、よかった」

「お怪我は?」


 リジュピッピは俺に近寄りながら言った。


「擦り傷だけだから大丈夫だよ」

「それはいけません、すぐに治しましょう」


 リジュピッピは俺に手のひらを向けた。すると瞬く間に傷が治っていく。


「あ、ありがとう」

「いえ」


 俺たちはピリッピランドとボローボがいるところに近寄って行った。


 ボローボはピリッピランドに後ろから押さえられていて、槍を首元に突きつけている状態だった。


 ボローボは降参したように両手を上げながら言った。


「なあ、俺さまは争いに来たんじゃねー。幸運の女神を探しに来ただけなんだ」

「そんな者はここにはいない」

「そうか、わかったからその手を退けてくれ」

「貴様がこれ以上町で暴れないならな」

「ああ、約束する。幸運の女神がいない町に用はない、直ぐに出て行く」

「もし暴れたら……」


 と、言いながらさらに槍を首元に近づけた。ボローボの首から血が少し流れている。


「わ、わかったから早く離してくれ、たのむ!」


 ピリッピランドは槍を突きつけながら手を離した。ボローボは首を手で押さえながら言った。


「今日のところはこのくらいにしといてやる。今度会ったら命の保証はないと思え」


 それから俺たちのほうにボローボは人差し指を向けた。


「テメーらもだ! 今回は命拾いをしたが、次あったら血祭りにしてやる。特にそこの男、たしかシュガルコールだったな、覚えていろ!」


 それを聞いたミミヌイは少し前に出てボローボに言った。


「上等だよ。いつでもかかって来なよ。そのたびに返り討ちにしてやるからさ」


 彼女は性格が変わった様にボローボの挑発に乗った。

 そして、ボローボは門のところから静かに町を出て行った。


「あーあ、私のせいで服がびしょびしょに」


 ミミヌイは俺の濡れた服を見ながら言った。


「あ、ああ平気だよ、歩いていれば乾くだろうし」


 俺がそう答えるとリジュピッピは俺の前に来て言った。


「それはいけません、風邪を引いてしまいます。わたくしが乾かしましょう」


 リジュピッピは俺に手のひらを向けた。すると見る見るうちに服が乾いていった。


「服が乾いた」

「これで風邪を引かなくて済みます」

「ああ、どうも」


 「大丈夫か」と言いながら、ピリッピランドは槍をどこかに消して俺たちに寄って来た。


「ええ、まあ」


 俺がそう答えると「そうか」と彼女は返した。

 そのあと、リジュピッピがピリッピランドに聞いた。


「わたくしたちも幸運の女神を追っています。心当たりは本当にないのですか?」

「さっきのやつも言っていたな。幸運の女神だと」

「はい」

「すまないが、この町には現われていない」

「そうですか」

「その幸運の女神とやらが最近流行りなのか?」


 リジュピッピは黙って俺のほうを向いた。俺は慌てて答えた。


「あ、そのですね。そのー」


 何て言ったらいいのかわからず言葉に詰まった。

 ミミヌイがそのあとに続いて言った。


「幸運の女神はこちらにるシュガさにとって大事な人なんです。それを誰かに連れ去られてしまって、それで私たちは追っているんです、そうですよね」


 と、彼女は俺のほうを向いた。


「まあ、そんな感じです」


 少し恥ずかしくなり俺は下を向いて答えた。


「ふうん、そうか。さっきみたいなやつがいつ現れるかわからんから、せいぜい気をつけることだな」

「はい」

「シュガルコールさん、見つかりましたよ」


 リジュピッピがどこかを見ながら言った。

 俺は驚きながら聞き返した。


「えっ? 見つかった?」

「ええ、ですが、もうこの町にはいません。どうやら次に町に向かっているようです」

「次の町に? そこはどこですか?」

「そこは、ここから南に行ったところにある『ストーロベリ』という町です。それほど遠い場所ではありません」

「ストーロベリ? わかった、じゃあそこに向かいましょう」


 こうして俺たちはこの町を出てストーロベリの町に向かった。

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