第3話 人探しのプロに会う
「いらっしゃいませ」
中に入ると女性っぽい店員の声が聞こえてきた。客人は誰もいなく、こじんまりとしている。
俺たちは適当なテーブルの席に座るとウェイトレスがやって来た。当然リッピットラト星人がウェイトレスの格好をして、顔には網状の黒仮面をつけている。
「シュガさん、何にします」
ミミヌイはメニュー表をパラパラとめくりながら言った。
「あ、ああ」
メニュー表にはありきたりの物が載っていた。どれも値段は書いていない。
「じゃあ、サンドウィッチセットを」
「わたしも同じでお願いします」
それを聞くとウェイトレスは自分の手のひらを指で押した。
すると、皿に載ったサンドウィッチセットがテーブルから出現した。
そして、そのままウェイトレスは戻って行った。
「さあ、食べましょ」
そう言って、ミミヌイはサンドウィッチを口に運ぶ。
どうやってテーブルから食べ物が出てくるんだ?
という疑問を抱きながら、テーブルの下をのぞいてみたけど怪しいものは何もなかった。
「どうしました?」
ミミヌイはサンドウィッチを頬張りながら俺に言う。
「いや、何でも」
俺はそう返して、サンドウィッチを食べた。ごくごくありふれた味をしている。
「あ、無愛想って思っているんですか? ウェイトレスさんが」
「え?」
「感情を出さないっていうんですかね。リッピットラト星人の対応は」
「はあ」
食べ終わると自動的に皿は消えて、代わりに何も載せてない皿が出てきた。
ミミヌイはそれにハンカチを載せると皿は消えた。
「これで大丈夫ですよ」
「大丈夫って?」
「何かをさっきのお皿に載せないと、ドアが閉まって、ここから出れないんです」
「出れない?」
「このリッピットラト星でも食い逃げは犯罪なんですよ」
「リッピットラトせい?」
「うん、私たちはリッピットラト星という異世界に来ているんです」
「ああ、そうなんだ」
俺たちは店を後にした。
それからしばらくは色々と町を案内された。建物とかの形は違うけど、大体は俺の生きていた地球でもあったような店が存在している。そのほかにも武器屋、防具屋、宿屋などもあった。ただ、警察署とか病院などの施設はなかった。
以前ミミヌイが言っていた病院がないというのは本当だったんだ。
「警察署が見当たらないけど……」
俺が質問するとミミヌイはにんまりと俺を見て言った。
「そう、ないんです。犯罪は起きないですし」
「犯罪が起きない? でも俺、ここに来たとき赤い仮面のリッピットラト星人に襲われそうになったけど」
「赤い仮面? ああ、そうでしたか。その人はこの町をパトロールしている人ですよ」
「パトロール?」
「そうです。犯罪は起きないとはいえ、何者かがこの星にやってきて危険を犯さないとも言い切れないので。彼らが町や町の外を見張っているんです」
じゃあ、そいつは俺が危険人物だと思ったってことか。そりゃあ誰が見たって思うだろうな、裸だったし。
「へぇ、病気にならないとか犯罪をしないとか、彼らって何者?」
「うーん……私もよくわからないんだ。中身はロボットかもしれないし、アンドロイド的なものかもしれない」
「そうなんだ」
「あ、ほら。そんなに突っ込んだ質問を彼らにできないじゃないですか。失礼になるし」
「うん、まあ、そうだよな」
俺はそれ以上の質問はしなかった。
それよりも、まず幸運の女神がどこにいるのか探さないといけないからだ。
「あの、ミミヌイさん」
「なに?」
「幸運の女神を探したいんだけど、誰かそういった情報に詳しい人知らない?」
「情報に詳しい人ですか……それじゃあ、探偵さんに聞いてみます。ここから近いんです、その事務所」
「探偵?」
「ええ、そこで聞いてみましょう」
人を探すには探偵か。
だが俺には依頼するお金というか、物がない。
「それはいいんだけど、俺、物々交換できる物がないから」
「あ、いいんですよ。私のおごりです。シュガさんに迷惑かけたでしょ」
そう言って、ミミヌイは歩き出した。
しぶしぶ俺はそのあとについて行った。
「ここが探偵事務所です」
【リジュピッピ探偵事務所】という看板のある建物の前に来た。
「リジュピッピ?」
「さあ入ってみましょ」
ミミヌイはその建物に入って行った。
俺もあと追う。少し暗めに雰囲気に小さなロウソクの火がいたるところに灯されていて微かに明るくなっている。
そんな廊下を通って札の掛けてあるドアの前に来た。
コンコンとミミヌイはドアを叩いた。しばらくするとドアが開き誰かが顔をのぞかせる。
「はい」
中性的な声がした。当然その人はリッピットラト星人で体は黒いドレスローブを着ている。顔は黒ネコのデザインの仮面をしている。
「人を探したいんですが」
と、ミミヌイは聞いた。
「どうぞお入りください」
リッピットラト星人は何の疑いもせず、俺たちを中に入れる。
「そこに座っていてください」
と、言い残して、近くのドアに入って行った。
俺たちは言われた通りにソファーに腰を下ろす。
見渡すと調度品以外は何も置かれていない部屋だった。
俺はミミヌイに聞いた。
「リッピットラト星人は女性しかいないの?」
「ん? ああ、それね。性別がないんだよ」
「性別がない?」
「そう、普通の人間は子どもを出産するけど。リッピットラト星人は自分たちで組み立てるんだよ。以前彼女たちに聞いたとき、そう言ってました」
組み立てる? 生き物じゃないのか?
「へぇー、じゃあ、最初は誰が組み立てたの?」
「さあ、異世界だからね。天使が言ってたでしょ、救済だって。そのためにこの世界を作った。だから」
「天使が作ったと?」
「じゃないのかな、わかんないけど」
「じゃあ、何て呼べばいいかな、彼とか彼女とか」
「うーん、どっちでもいいんじゃない。私も名前がわからなかったら適当に呼んでるから」
ドアが開き、リッピットラト星人はティーカップを持って来てテーブルに置いた。
「紅茶です、どうぞお召し上がりください」
そう言って向かい側にあるソファーに座った。
「どうも」
「いただきます」
俺は紅茶を啜りながら、リッピットラト星人を観察した。
ドレスローブの隙間から見えるコスチュームは色が暖色系で統一してある。赤、橙、黄色などがパーツごとに変えてあるようだ。手も同じような色で指の1本1本も繊細に動いている。口元は紫の口紅をしている。髪と思えるものは暖色系の三つ編みで肩にかけていた。
「わたくしは探偵をしておりますリジュピッピと申します」
「あ、私はミミヌイです」
「シュガルコールです」
自己紹介をしたあとリジュピッピは聞いてきた。
「人を探しているのですか?」
「はい」
と、俺は言った。
「そうですか。それでどういった方をお探しで」
「幸運の女神を、えっと名前はラクアピネスです」
こうやって口にすると、相手をとてもバカにしているように感じた。
「幸運の女神ラクアピネスですか。なるほど」
リジュピッピは考えながらどこかを見ている様だった。しばらくして彼女は言った。
「場所はわかりました」
「え、本当ですか?」
「はい、ですが、物凄い速さで移動しています」
「いどう?」
「はい、ん? 動きが止まりました。ああ、また動き出しました。光よりも速く移動しています」
光より速い? リッピットラト星人は光より速い速度が目で追えるのか? っていうか何を見ているんだ!?
俺は後ろを振り向ていみた。そこには白い壁があるだけだった。
「あ、ようやく止まりました。もう動かない様ですね。場所は……」
「場所は?」
「困りましたね」
「どうかしたんですか?」
「お探しの方は何者かに捕らわれてしまったようです」
「捕らわれた?」
「はい」
「それは誰ですか?」
「わかりません。ですが、何者かがこの星にやって来たようです」
俺は驚いて思わずミミヌイと顔を見合わせた。ミミヌイも驚いた顔をしている。
「どういったやつかわかりますか?」
「はい、見た目は人間ですが花や植物を着ています」
「はな? しょくぶつ?」
「ああ、この者が言っています『いいものを手に入れたわ、この子をメインにしよう』と」
「メイン?」
疑問だらけで、何を言っているのかまったくわからなかった。
とにかくその場所がどこなのかを聞いた。
「その幸運の女神が捕らわれている場所はどこですか?」
「そこは、ここから南東に約156垓キロ離れたところにいます」
「がい?」
垓ってどのくらいの距離かわからないけど行ってみるか。
「ここから南東ですね。わかりました行ってみます」
そう言って席を立とうとしたらリジュピッピに呼び止められた。
「ちょっとお待ちください」
「あ、私が支払います」
ミミヌイはすかさず懐に手を入れた。リジュピッピは手を出してそれを止めた。
「お支払いのほうはまだいいです。その代わりわたくしもご一緒致します」
『え?』
俺とミミヌイは同時に言葉を発した。それから俺は聞いた。
「どうして?」
「癇に障るかもしれませんが、人間の方々の力は存じております。わたくしたちは少々変わった能力が使えるのです。ですから、せっかく依頼しに来てくださった方がなにかの拍子に求めるものを見つけられなかったらいけないので、探偵のわたくしが責任をもって最後まで手助けをいたします」
「手助けですか」
「お支払いのほうはそのあとでも結構ですよ」
「は、はあ」
「それではさっそく参りましょうか」
そう言ってリジュピッピは席を立つ。俺たちは部屋から出るためドアに向かった。
「ちょっとお待ちください」
後ろからリジュピッピが声を掛けてきた。俺たちは振り返って彼女を見た。
「歩いて行くには少々遠いので、ワープしていきましょう」
「ワープ?」
リジュピッピは手のひらを適当なほうに向けて何かを放った。
部屋の中に大きい窓のような空間が現れた。その先は草原が広がっている。
「では、参りましょう」
リジュピッピはそのままその空間に入って行った。俺たちはそのあとを追った。
俺がそれほど驚かないのは、以前生きていた世界でそんな映像を見たことがあるし、異世界はそういうものなんだろうと思っているからだ。だから、今後人間離れした現象が起こったとしても驚かないだろう。たぶん。
そうして、何の抵抗もなく空間を抜けると、そこは辺り一面に平原が広がっていた。
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