第2話

どうやら眠っている間に国会とやらに運び込まれたらしい。

しかもスーツに着替えさせられたようだ。もはや人権というものはないらしい。

それにしても顎が痛む。


「お目覚めになられましたか、机の上にある議員バッジをつけてください。」


つけてくださいと言われたが、つけ方がわからない。

手間取っていると女性秘書は構わず話を続ける。


「時間がありませんので、これからの予定をご連絡します。

あなたにはまず、選挙活動に出てもらいます。

リアルタイム投票システムが採用されているため、SNSの熱が冷めればいつ国会議員の職を

はく奪されるかわからない身分です。まずは地盤固めに注力しなければなりません」


女性秘書はあわただしい様子で選挙活動の活動場所や活動内容を説明する。

政治のことは詳しくないが、とにかく時間がないようだ。


「すぐにでもここを出ますので、準備してください。」


一通りの説明を終えると、私がバッジをつけられないでいることに気づいたようで、

私からバッジを取り上げると、前かがみになりながらスーツの襟に議員バッチを取り付けた


「待ってください、選挙活動なんてやらなくていいです。私なんかのために

もともと私の失態で不名誉な名声が広まって得た立場です。

頑張ってしがみついてみたところで、あなたが苦しむだけです。」


正直に言えば、不名誉な自分の宣伝なんてしてほしくなかった。

国会議員なんてさっさと辞めて、ほとぼりが冷めるのを待ちながら再就職をするほうがいいだろう。

そのためには、なんとかしてこの女性秘書を説得しなければならない。


「何か自慢できる経歴もありませんし、才能も有りません。

ほとぼりが冷めれば、私なんか、だれからも見向きもされなく・・・」


女性秘書が私の顔をはたいた。ライフポイントが少し減った。


「あなたは何もわかっていない、この国のことも、政治のことも

そして何より、自分自身のことを。」


女性秘書は真剣な眼差しで私に迫ってくる。


「この国の政治家は権力のためならどんなに汚いことでもやる、

欲望を満たすため、自分を誇示するために権力を振りかざして人々を顧みない、

そんな人たちの集まりです。汚職や賄賂に加担した秘書を何人も見てきました。

私のような女性秘書に対して、口にするのもおぞましいような

いやらしいことをさせてでも票を取る。そんな政党すらあります。」


目の前の机をてのひらで強くたたいて、さらに迫ってくる。


「そんなことに一切触れることなく国会議員になれて、自分に才能がない?

ご冗談を。あなたほどの才能と可能性を秘めた人間は他にいません。

新しいシステムに選ばれた、この国に必要な国会議員です。」

辞めて不名誉だけ背負って生きるなんて、絶対させないんだから・・・」


女性秘書は泣いているのだろうか、最後に少し言いよどんだ感じで顔を伏せた。

私は思わず抱き寄せようとしたが、その瞬間にみぞおちを入れられた。

ライフポイントが少し減った。


「ライフポイントがなくなったらまたここに運び込みますので、行動に注意してくださいね。」


どうやら私は逃げられないようにうまく言いくるめられてしまったようだ。

この女性秘書、恐るべしである。

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