第8話 真に他人を思える人は
第8話 真に他人を思える人は Part1
「あー!」
両手でなぎ払った本は、ブックスタンドから床に飛び込み、綺麗に整えられた部屋の調和を乱した。
「(そう怒るものでもない)」
「うるせぇー!」
金貨は頭に聞こえてくるその声をかき消そうとした。
「俺があんなロクでもないザコに負けるなんてことはありえねぇんだよ!
あっちゃならねぇんだ! そんなことは!」
「(聞け! まだ層上充快を打ち負かす方法は残されている!)」
「!?」
「(冷静になれ。
なにも六繋天は、層上充快だけが所持しているものではない。
あの会場でお前自身が口にしていたことではないか)」
「…!」
「(気づいたか?)」
「(あぁ…俺としたことが、こんなつまんねぇことを見落とすとはな)」
「(しかし、念には念を入れろ。
万が一、貴様が奴らに敗北した場合…)」
「俺が二度も負けることはねぇ!」
「(進歩のない男だ。その
「ちっ…」
「(万が一!
奴らに敗北した場合、貴様がどうなるかは未知数だ。
六繋天同士が絡む争い。負けた者がどうなるかは想像がつかぬ。
貴様が再起不能の状態になった後、奴らに六繋天が渡るのは
「(確かになぁ、俺以外に六繋天を揃える奴が出てくるのは胸糞
「(ならば…)」
その声は金貨に何かを告げる。
「(そいつはいい…)」
テレビ会議用の電話が鳴る。
「なんだ!」
「翼様、頼まれていたカードが完成したと報告を受けました」
ニヤリと笑う金貨。
**********
<廃墟>
風増はいつも皆で集まっている廃墟に来ていた。
充快がいるかもしれないと思ったからである。
部屋のドアを開けると、充快が立っていた。
「層上…」
充快が振り返る。
「鞍端…
ごめんな。電話何回もくれたのに…
俺、全然出なくて…」
「いや、悪いのは俺だから…」
沈黙が訪れる。
「層上。本当にごめん」
風増が頭を下げる。
「俺、六繋天を集めることしか考えてなかった。
六繋天が集まりさえすれば、他人の気持ちは仕方のないことだと。
だけど、気づいたんだよ。
層上、お前は五仕旗が好きなんだろ?」
充快は微かに反応する。
「俺、ここに来る前にある人と五仕旗で勝負して、五仕旗を始めた頃のことを思い出したんだよな。
あの頃はパックからどんなカードが出てくるのか、相手のカードがどんな効果を持っているのか、
「…」
「それなのに俺は、【蒼穹の弓獅】だけじゃなく、そういうものもお前から取り上げようとしてた。
だから、お前が六繋天を集めることに協力してくれなくてもいい。俺のことなんか嫌いになってくれても構わない!
ただお前がそれでも五仕旗を好きでいてくれるなら、お前にはこれからも五仕旗を続けてほしいんだよ!」
「!」
「それから、これ…」
風増がカードを渡す。
「知り合いからもらったんだ。試作品のカードなんだけど、俺のデッキには使えないから」
「ありがとう」
充快はカードを受け取る。
「…」
「ちょっ、ちょっと、頭の整理がまだできてなくて…。
ごめん」
充快は部屋から出て行ってしまった。
**********
「そうか~、う~ん…」
「とりあえず、謝りたいことは全部言えた。
六繋天集めに協力してくれなくてもいいとも言った。
だから、後悔はないけど…」
「やっぱ、このまま居なくなっちゃうのは悲しいよな…」
「うん…」
片耳を画面で塞いだまま、時が流れる。
「よし!
充快にとっちゃ、ちょっとウゼェかもしれないけど、
ここは、お兄さんが一肌脱ぎますかな!」
「知介さん…」
「まぁ、ここは俺に任せろ。
やるだけのことをやってダメなら仕方ないよ!」
「ありがとう。心強いよ」
**********
<廃墟>
数日後。
「やっぱりここにいたか」
背後からのその声に少し驚く充快。
「知介さん」
「ここ、居心地いいか?」
充快が
「この前も、みんなに会えるかなって思ってここに来たんだ。
そしたら鞍端と会って、少し話をして…」
知介は何も知らないフリをした。
「仲直り、できた?」
充快は首を横に振る。
「鞍端は謝ってくれたけど、俺はほとんど何も言わずに出て行っちゃった」
「充快は? 五仕旗、続けたい?」
「うん。五仕旗は楽しいから続けたいよ」
「そうか」
知介はそれ以上質問するのをやめた。
「風増は悪い奴じゃないよ」
「!」
「金貨は、六繋天を奪いとろうとしてたからって理由で、自分と風増が同じみたいな言い方してたけど、俺は違うと思う。
それはお前も感じてるんじゃないのか?」
「…」
「少なくとも俺は、いつでもウェルカムだからさ。
気が向いたらまたここで会おうよ」
それだけ言うと、知介は出て行った。
**********
<廃墟>
夜。
「アドレスはhttp://…」
番組ホームページのアドレスが告げられる。
「ここからはテーマメール。
今週のメールテーマは"うわっ! やられた!"。
リスナーの皆さんが"やられた!"と思った出来事を送ってもらっています。
僕の"やられたー"という事件は、子どもの頃、近所の公園で友達とカードゲームをしていた時、カードを全部盗まれたことです。
自転車のカゴにカードを入れておいたのですが、少し目を離した隙に全部なくなっていました。
お年玉を使って買ったレアカードもあったので、すごくショックでした。
カードか…。これ誰がやるんだろうね? 大人?
でも大人がこんなことするか? 売ったら高いカードとかもあんのかもしれないけど、そんな詳しい人もいないよな。
子どもかな、多分、
ん~、良くないよな、こういうの。
子どもだとしたら、強いカード欲しいとかレアカード欲しいとか、そういう感じだと思うけど。
あっ、でも、この前ニュースでカードショップからカード盗まれたっていってたな。
いるのか、大人でも。カード欲しい人は」
スタッフがパーソナリティーに何かを伝える。
「ん? なに? うん、被害総額…
えっ!? 数百万!? そんなすんの!? カードって!?
うん、うん。あー、大会商品とかは希少価値高いから…
価格が高騰する。
あー、そうなんだ。すげぇな。へー。
まぁ、なんにしても、ものを
その時、どこからかパタパタという音が聞こえてきた。
その音は次第に増し、遂に、ケータイからの話し声をかき消した。
「なんだ?」
知介が外を確認すると、向かいの建物の屋上にヘリコプターがとまっていた。
機体には見慣れた企業のロゴが描かれている。
「まさか…」
急いで屋上への階段を駆け上がる。
向かいの建物の屋上から声が聞こえてきた。
「よー! 久しぶりだな!」
「金貨!」
**********
<層上家宅>
一人考えごとをしている充快。
【蒼穹の弓獅】のカードを見つけた物置きにいた。
「(【蒼穹の弓獅】。
このカードはここで見つけたんだよな。
初めて五仕旗をやった時も、このカードで勝負が決まったんだっけ…ん?)」
物置きを見渡していると、物と物が作り出した影の中に五仕旗のカードが落ちているのが見えた。
「こんなところにもあったんだ」
カードを見てみると、色が薄くなっていた。
イラストは何が描かれているのかほとんど分からず、カード名やテキストも読めそうで読めない。
「なにこれ?」
部屋にそのカードを持ち帰る。
詳細は不明だったが、青い色をしていたので、
モンスターデッキのカードと、そのカードを入れ替える。
**********
<廃墟>
屋上では、知介と金貨の勝負が始まろうとしていた。
「五仕旗…」
「3rd Generation!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます