第7話 固有ターン7

第7話 固有ターン7 Part1

「今日は来てくれてありがとう」


「おう…」


「…」


充快と知介は風増に話があると言われ、彼の家に招かれていた。

無論、先日金貨が言っていたことについての話である。


「話が長くなるから、誤魔化さずに結論から言う。

俺が層上と知介さん、二人の六繋天りくけいてん目当てで近づいたのは本当のことだ」


二人はかすかに反応した。


「六繋天が古くから人々と闘ってきた悪意あるモンスターだっていうのも本当のこと…と俺は子どもの頃から嫌というほど聞かされてきた」


「聞かされてきた?」


知介がたずねる。


「うん。ウチは、鞍端家は代々、六繋天を監視してカードに秘められたモンスターが暴走しないようにするのが家業なんだ。

俺は物心ついたころから、その使命のために英才教育を受け、五仕旗だけでなく、武道や学問の道も極めてきた。

カードゲームのために人生をかける一家なんて、笑っちゃうだろ?」


二人は表情を変えず聴いている。


「世間で五仕旗は単なるゲームの一つとしかとらえられていないけど、その実、五仕旗ははるか昔に人間とモンスターが共存していた時代を元にしたゲームなんだって」


「人間がモンスターと共存?」


「人間はモンスターをカード化して、より住みやすい環境を与えることで、人間にはないモンスターの力を借りていたそうだ。

その時代の五仕旗は、現代でいうスポーツと同じような感じで、人々の娯楽として浸透していたんだって」


「俺が五仕旗を始めた頃、鞍端が話してたことも本当だったんだ」


「資料や言い伝えは時代とともに風化して、はっきりしたことは分からないからあくまで推測だけどな。

現代のルール、3rd Generationだって、時代の中で形を変えていった結果だって聞いてる」


「じゃあ、このデッキのモンスター達も実際に生きてるっていうのか?」


「誰も本当のことは分からない。少なくとも鞍端家には、そういう話が語り継がれてる。

たとえ事実だとしても、カードの販売元はそれを否定するだろうけどな」


「それで、それと六繋天とどう関係があるっていうんだ?」


「さっき言ったように、人とモンスターはある程度は協調する関係にあった」


「ある程度は?」


「モンスターの中には、人間との協力を好まないモンスターも居たんだよ。人間の中にだって、自分勝手な奴はいるだろ?」


「確かに」


「やがてそれらの悪意あるモンスターと人間との戦いが始まった。人がモンスターを鎮めても、モンスターはまた復活を遂げ、また人との戦いが始まった。そうやって封印と再生を繰り返し、俺たちが生きている現代の封印の形が、二人や金貨が持っている六繋天。

六繋天はモンスターの悪意が6枚に分散した状態。

一堂に会すれば、人はその力に対抗できず、やがて世界は滅ぼされる」


「!?」


「最後に人がモンスターを封印したのがいつかは分からない。だがその時も、六繋天が再び災いを招かないように、厳重な対策がなされていたはずなんだ。それなのに、六繋天はバラバラになり、何も知らない人の手に渡ってしまっている。

モンスター達が再び出会い、凶悪な力を使おうとしているからだ」


「でも、それだけ厳重に管理しているのに散り散りになるっておかしくないか?」


「俺の家のように、六繋天を監視する家系が他にあったとして、時代の中で徐々に危機意識が薄れていくのか、それとも六繋天が封印の中で何らかの力を得て発揮しているのか…

俺だって、昔のことを全部知ってるわけじゃないから、人のことばかり言えないけど…」


風増が続ける。


「六繋天を持つ者は、いつしかその悪意に染められ常軌を逸した行動をとるようになる。行く行くは人が人を滅ぼすことになりかねない。だから、六繋天は人の手に渡ってはならないものだと俺は言われ続けてきた。

どこにあるかも分からない六繋天を探すことは容易なことではなかったけど、ここにきてやっと見つけることができた」


「お前は俺たちを騙してカードを奪おうとしていたのか?」


「最初はそのつもりだった。

六繋天は、六繋天を手に入れようという強い意志を持ち、かつ、五仕旗で勝利したものへと移動する」


「充快が勝った時にカードが移動しなかったのは、充快が六繋天を欲していなかったから…」


「俺は二人を倒してカードを…

人のものをとることは悪いことだけど、長い目で見ればそれが正しいと思っていたんだ。

今は何もなくても、やがては六繋天の力で暴走するようになるから。

だけど今は…

俺には二人がそんなことをするようには思えないんだよ!」


「風増…」


「そして俺は思った。

六繋天が善良な人を悪意に染めていくんじゃなくて、実際は逆なんじゃないかって」


「逆?」


「六繋天はその人間が持つ悪意に反応して、それを助長させているだけなんじゃないかと。

現にこの前の勝負で、金貨のモンスターは会場を荒らすほどの力があったけど、二人のモンスターの攻撃からは、金貨のモンスターのような衝撃はなかった」


「使う人間によって変わるってことか」


「だから…だから、勝手なのは分かってる。

けど、二人には俺と一緒に六繋天を集めるのに協力してほしいんだ!

金貨の【ケルベクロスブリード】。

あのモンスターの固有ターンは7だった。

俺は今まであんなカードを見たことはない。

もしかしたら、モンスターの悪意はこれまでにないほど強くなっているのかもしれない!

六繋天に対抗するためには、どうしても六繋天が必要なんだ!

だから、頼む!」


風増が頭を下げる。


少し考えた後、知介が口を開いた。


「俺は別にいいよ。世界が滅ぶとかモンスターが実在するとか、いきなりで意味わかんねぇってのが正直なところだけど、大企業のボンボンが血眼になってカードを奪おうとしたり、カードを探すために子どもに英才教育を受けさせたり、嘘と決めつけるにはあまりにも規模がデカいからな」


「ありがとう」


「そんなの勝手だよ…」


ずっと黙っていた充快が話し始めた。


「結局、鞍端は俺に嘘ついてたってことじゃん。

カードやろうって、一緒に遊ぼうって誘って、用が済んだら自分が欲しいものだけって、居なくなるつもりだったんでしょ?

結局は俺からカードるために、俺に五仕旗を始めさせたってことじゃん!」


「充快、そんな言い方…」


充快が声を荒らげる。


「仮に俺が六繋天を全部集めるのに協力したって、それは最後に俺の【蒼穹の弓獅】がお前にとられるってことだろ!

この前の金貨との勝負だって、もし俺が負けてたらどうなってたか分からないじゃないか!」


「だからそうならないように、一緒に六繋天を鎮めてくれって頼んでるんだろ!」


風増が言い返す。


「俺はただ五仕旗を楽しみたいだけなんだ!

そんな危険な争いに巻き込まないでよ!」


そう言うと充快は家から出て行ってしまった。


「つい熱くなってしまった…」


「気にするなよ。お前も今までたいへんだったんだろ?」


「…」


しばらくして風増が切り出した。


「子どもの頃からずっと六繋天は危ないって教え込まれて、最近になってようやくそのカードを見つけて。

高校生でカードゲームが好きって言うだけでも笑われることがあるのに、カードが世界を滅ぼすかもしれなくて、それと戦うために生きているなんて誰にも言えなかったし…

今まで黙っててごめん。知介さんは怒ってないの?」


「怒ってない。気持ちは複雑だけどな。

俺さ、初めてお前と五仕旗で勝負した時、嬉しかったんだよな」


「え?」


「【ドランチャー・サブマリンド】は、ガキの頃、小さな大会の賞品として手に入れたカードだった。俺はそれが嬉しくて、デッキに入れて使ってたんだけどさ。

負けなしの俺に、周囲の目は冷ややかだった。連中いわく、そんなカードに勝てるわけがないらしい。

今思えば、世界を脅かすほどのカードなんだから、当然といえば当然だな。

でも俺は、あいつらのそういう態度が気に入らなかった。自分が強いカードを手に入れれば万々歳のくせに、他人のこととなると途端にひがむ」


風増は黙って聴いている。


「だから俺は、他人と距離を隔てることにした。

表向きは人の輪を広げながら、他人との関係は自分が生きるためにだけあればいいと言い聞かせて、自分の思いや考えを人に分かってもらおうとすることをやめた。

五仕旗は一人じゃできなくても、デッキは一人でも作れるしな。

【ドランチャー・サブマリンド】は好きだからデッキに入れてるんじゃなくて、強いから入れてるんだって、表面上はそう振る舞った。

その方が周囲の聞き分けもいいし、角も立たない。

だけどあの日…」


風増と初めて会った時のことを回想する知介。


「お前は【サブマリンド】を見ても、俺の強さをカードのせいにはしなかった。俺に負けたのを自分の弱さだと受け入れていた。

確かに、お前は【サブマリンド】のことを元々知っていたのかもしれない。

それでも、世の中にはこういう人間もいるんだってことが分かって、救われたんだよな」


「六繋天をすべて探し出すことができたその時、知介さんは【ドランチャー・サブマリンド】を俺に渡してくれる?」


「ああ、いいよ。

別れは辛いだろうけど、平和のためなら割り切るしかないからな」


「あんた、大人だな」


「大人だもん」


「層上は、もう俺たちとは…」


「あいつは驚いただけだよ。

ただ楽しいだけのゲームが、一転して世界の命運どうのこうのだ。

前の金貨との勝負のこともあるし、今は整理する時間が必要なんだよ」

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