第5話 運を司る騎馬兵

第5話 運を司る騎馬兵 Part1

金貨vision新作映像技術発表会の数日前。


「あっ、あそこで五仕旗の勝負してる人がいるよ」


「どこどこ? ホントだ」


三人の視線の先には、二十歳前くらいの青年がいた。


その青年のモンスターの攻撃によって、対戦相手の累積ダメージは3000を超えた。


「決着ついたみたいだな…ん?」


その青年は対戦相手に近づくと、腕にはめてあった起動スターターを取り上げた。

それから、デッキケースを取り上げようとし、対戦相手が抵抗すると乱暴に蹴り飛ばし、その中からカードを1枚抜き取った。


それを見ていた充快と風増は思わず走り出す。


「おい! 何してんだよ!」


「は? 何お前ら?」


青年はこちらを見ずに話す。

その一言や態度で、分かり合うことのない人間だということが、二人にはすぐ分かった。


知介が追いつく。


「ゲームに勝ったのは分かるけど、だからってこんなことしていいわけないだろ!」


「なんで?」


「人からデッキや起動スターターを取り上げていいかは、ゲームの勝敗とは関係ないからだよ!」


「じゃあ、誰なら取り上げていいんだよ?

俺はこいつとの勝負に勝った。

勝負ってのは強いやつと弱いやつをはっきりさせるものだろ。

で、弱いやつってのは、強いやつに何されても文句なんて言える立場にないわけだから、俺のしてることを否定されるいわれはないってこと。分かった?」


青年はこちらをにらみつける。


「!」


初めてこちらを見た青年は何かに気づく。


「(こいつらは、まさか…)」


「おい、その人にカードと起動スターター返せよ!」


青年はそれを無視する。


「お前ら、金貨visionの発表会の参加者だろ?」


「だったら何だ?」


「お前も参加者なのか?

こんなことをしなくても、勝てば自動的に起動スターターから勝敗情報が送られるはずだ」


「俺が参加者?

俺をお前らみたいな三流のクズと一緒にすんなよ」


「何だと!」


「俺は発表会に出たけりゃすぐに出られんだよ、関係者だから」


「関係者?」


「お前らみたいに何も考えない、教養のねぇ人間は知らないだろうけど、俺、金貨visionの社長の息子なんだよね」


「こいつが!」


「金貨visionの…」


「指を咥えて輝かしい成功を見てるしかない奴らと違って、最初から生まれた世界が違うわけ、こっちは」


場の空気が一気に濁る。


「その御曹司様がなんでこんなことしてんだよ?」


「俺はザコを狩ってんだよ。

大した実力もねぇのに、五仕旗プレーヤーを名乗ってる奴がいるとさぁ、うんざりすんだよね。ムカつくんだよ」


「でも強かろうが弱かろうが、五仕旗を楽しむ人たちのおかげで、てめぇんトコの会社は儲かってんじゃねぇのかよ!」


「はぁ? 勘違いしてんじゃねぇよ。

うちの会社の起動スターター映像売上の割合なんて、全体の売上からしたら、ゴミクソみたいなもんなんだよ。

こいつみたいなザコがいくら消えようが、会社うちには何の影響もないんだよね。

言うならもっと的を射たことを言ってくんないかな?」


舌打ちする知介。


「まぁせいぜい頑張りなよ。お前らみたいなもんでも運良く勝ち残れたら、本番はもっと面白いもの見せてやるからよ。

それまでカードと起動スターターは預かっておいてやる」


青年は立ち去ろうとする。


「待て!」


充快が青年の肩をつかむ。


「あ? ウザいんだけど」


どこからともなくサングラスをかけた男たちが現れ、充快の腕を払った。


「痛っ!」


「凡人が、汚ねぇ手で俺に触れるんじゃねぇよ!」


ボディガードが充快を殴ろうとする。


それに交差する形で、風増の足が飛んできた。


青年はその場をあとにする。


「くそっ! 待て!」


**********


<廃墟>


「何なんだよ、あいつ!」


充快が怒りを露わにする。


「おっ、こいつか」


知介がケータイの画面を二人に見せる。


金貨きんかつばさ

それが彼の名前だった。


「こいつ、五仕旗の大会でも好成績を収めてるみたいだな。

それに反して評判は最悪。ほとんど悪口しか出てこないぞ」


風増が発言する。


「息子がああいう態度だってのに、それでも、企業のイメージに響かないのは、それだけ金貨visionの力が強いってことだろうな」


「逆にそんだけすげぇ会社だから、ああやって息子が偉そうな態度をとるようになるのか…」


しばらくの沈黙の後、充快が口を開いた。


「なんにしても、許せないよ」


「…」


**********


<金貨visionのスタジアム>


それから数日後。


照明が鎮まったホールの中。


ステージの上には、相も変わらず、ふてぶてしい態度の金貨翼がいた。


「あいつ…」


「変なことしたらダメだぞ」


充快を知介がなだめる。


「わかってるよ!」


宿題を済ませたのかときかれ、苛立つ子どものように答える。


「それでは、早速、当社新開発の…」


立体的な映像、臨場感のある映像…

どれもこれも大企業が開発したのが頷ける、たいそうなものばかりだった。


しかし、充快の頭にそれらの情報はほとんど入ってこない。

切り替えねばと我にかえった頃には、発表会は終盤にさしかかっていた。


「それでは次で本日最後になりますが、当社が携わっております、カードゲーム五仕旗起動スターター新作映像技術のデモプレイをご覧いただきます。

本日ご来場の皆さまにもお手伝いいただきたいのですが、どなたかご協力いただける方はいらっしゃいま…」


充快が垂直に手を上げる。

その早さ、速さ、自分でも驚くほどだった。


「えっ、層上!?」


「おい、ここで出て行ったってあいつと勝負できるかどうかは分からないんだぞ!」


「あっ、お客様、よろしいですか?」


司会がテキパキと充快をステージにあげる。


充快はずっと金貨の方を見ている。


「それではお名前をお願いしま…」


「層上充快」


「あっ、層上様」


「層上様にはですね、本日、こちらの新参支援ビギナーサポートシステムを搭載した起動スターターを使っていただき、五仕旗の勝負をしていただきます。

こちらの新システムはですね、当社の映像技術を駆使して、初心者の方にもプレイしやすいように…」


司会が長々と説明する。


「本日はこちらでご用意したデッキと起動スターターをお貸しいたしますので、AIと勝負して…」


「そんなの必要ないよ!

デッキも起動スターターも俺は持ってきた!」


金貨が充快の元へ歩いてくる。

その様子に会場の視線が集まった。


「分かったよ。お前が戦いたいのは俺だろ?

相手してやるよ。」


「…」


「(俺の狙いもお前だからよ…)」


**********


<金貨visionのスタジアムの競技場>


競技場は中央の選手を、周りを囲んだ観客が見下ろせるようなスタイルになっていた。


「大丈夫なのか? 充快の奴、いきなり飛び出していっちまったけど、これはあいつの罠かもしれないんだぞ」


「…」


中央ステージでは、両者が準備をしていた。


金貨の起動スターターはペンダント型で、それがカッコつけているような感じがして、充快にはなおさら気に入らなかった。


「あの人数の前で、真っ先に俺に負けに向かってこられるなんて、お前、なかなか勇気あんじゃん」


「そういう感じは変わらないんだね」


「この前の今日だからな。人間、そう簡単に変われないよ」


「ちっ…」


この男の一挙一動が鼻につく。


冷静にならねばと、充快は深呼吸する。


そのペースを乱そうと、金貨が意地悪く発言する。


「五仕旗…」


「3rd Generation!」

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