第191話 蠢く終末
(三人称視点)
「以前から違和感はありました」
人々が寝静まった夜。
人間にスキルの力を届ける白磁の塔、バベルの中で、ウリエルとガブリエルは二人で向かい合っていた。
「スキルという力は、私が石化した後に貴女が作ったものだと聞きました。天使の力が完全に世界から消えてしまわないように、人間にも扱えるように縮小化して分け与えたのだと」
「せやな」
「しかしそれでは矛盾が生じます。
人間がスキルを使う時、そのスキル名を宣言してバベルに伝える。
バベルはその命令を受けて力を送信し、使用者は正常にスキルを発動できる。
これがスキル発動の
「ガブリエル。まさかとは思いますが、」
「流石に魔物に力を分け与えたりはせーへんよ。人間も魔物もウチにとってはどうでもええけど、殺し合った相手にプレゼントあげるほどお人よしやないし」
ガブリエルは魔物への干渉を否定した。
ならばこの状況は、彼女の意図したものではないということ。
「正直予想外やった。まさかウチと同じようにこの世界の輪廻転生の概念に干渉して、魔物にスキルの力を分け与える、なんて考える奴がおるなんてな」
「! ではこの事態には、黒幕がいると言うのですか」
「せや。
ガブリエルの返事の意味がわからず、一瞬眉をひそめるウリエル。
しかしその表情はすぐに驚愕に変わる。彼女の知人の中でそのような芸当が可能な者など、ほとんど存在しない。
「まさか」
「あいつは大戦時に死んだと思っとったんやけどな。うちの想定が甘かったわ。
やっぱり天才やけど、ウチの考えたシステムをパクったのは腹立つわー」
かつて、熾天使は
ミカエル。ガブリエル。ウリエル。ラファエル。そしてもう一人の名は、この地上にほとんど残されていない。
聖国でもごく一部の者のみ存在を知る、天使にとっての禁忌であり最大の汚点。
「――堕天使ルシファー。
かつて熾天使の一人でありながら、ウチらを裏切って魔王側についたアホんだら。
そして今は迷宮に引きこもり、【
……同族の不始末は、ウチら天使が片付けへんとあかんやろ」
◆
◆
◆
◆
◆
「――やあルシファー。調子はどうだい?」
気軽な調子で、蛇は堕天使に話しかける。
「こっちは散々だったよ。リヴァイアサンはやられちゃうし、シテンの身柄は確保できないし、ミカエルは向こうの手に渡っちゃうし。まるで収穫なしだ」
「――――」
「【
「――何も問題はない。想定の範疇だ」
徹底的に感情という要素を排除したような、あまりにも冷淡な声だった。
「【
「え〜? その割には魔王の魂なんか入れちゃって、結構気合い入れて作ってなかったっけ?」
「砕け散ったとはいえ、魔王の魂自体はエネルギー源としては優秀だ。それを扱える適切な器を用意してやれば、多少は役にたつと考えたからだ。結果は期待外れのガラクタだったがな」
一体で迷宮都市に大混乱を引き起こす【
「いいや、期待外れという訳でもなかったか。
「ああ、カルキノスか。……じゃあ残りの【
「どうでもいい。既に俺には不要な物だ」
「【
彼の意図がわからず、頭上に疑問符を浮かべる蛇。
長い付き合いになるが、蛇は未だに堕天使の思考を理解できていない。
彼の思考は、常識からあまりにもかけ離れている。この世界の異物である蛇から見ても。
「
「……? ――! ああ、そういうこと♪」
「リヴァイアサンの死骸が地上に回収された以上、【
不死性を活かした戦法も役に立たなくなるだろう。奴らの存在価値はほぼ残されていない」
「なるほどね〜、それじゃあ仕方ないか。で、結局この後どうするんだい? 熾天使も全員復活したし、シテンはレベル100になっちゃったし。
【解体】スキルを手に入れて迷宮から脱獄する、って計画だったよね? 正直生け捕りにするの、もうかなりしんどいよ?」
かつてミノタウロスがシテンと戦った時、蛇はシテンを生け捕りにするように命じた。
【解体】スキルの状態保持能力。それを使って迷宮の外に脱獄するという算段であった。まさに今、リリスが迷宮の外に出入りできているように。
「そのプランは破棄する。元々あれば儲け物程度に考えていたプランだ。シテンがここまで成長した以上、リスクの方が大きい。【解体】スキルならば尚更だ」
「……じゃあ次会った時は本気で殺すか。【解体】スキル持ちなんて、利用価値がないなら生かしておく理由がない。
「現状の不安要素は【
それ以外の有象無象は無視する。隙を見てこれらの障害を排除するのが、俺の当面の役割だ」
「んー? そういう邪魔者の排除は僕に任せて欲しいけどなー? 君にはゆっくり計画を練ってもらいたいんだけど」
「既に調整は終えている。必要なのは計画ではなく、それを十全に実行できる手足だ。
ヨルムンガンド、その点では貴様は落第点だな」
「えぇ!? そりゃ、ここ最近はちょっと上手くいってないけどさ……もうちょっと相棒を信頼してくれてもいいんじゃない? 君と僕の仲じゃないか」
「ならば貴様は治療に専念しろ。【尸解仙】から受けた傷が癒え次第、行動に移れ」
蛇の指摘に、堕天使は微塵も声色を変えることはなかった。
「りょーかい。……あのクソアマ、次こそ石像にしてやる」
「迷宮の監視は【
俺はガブリエルの動向に注視する。聖剣を手に入れた奴が何をしでかすのか、用心する必要がある」
「随分用心深いよねぇ……まあ今更だけどさ」
「計画を完遂させる為ならば当然だ。幾つものルートと手段を用意し、俺は必ず計画を成就させる」
「――この世界を
◆
ここまでお読みいただきありがとうございました。
長かった4章も終了になります。
世界観を広げようとして情報を詰め込みすぎたか……? と内心不安でしたが、結局最後まで突っ走りました。やっぱり設定を考えるのは楽しい。
5章は10月中には始めたいと思います。が、カクヨムコンも迫っているので予定は未定です。
Sランクとなったシテンが迷宮都市で新しい日常を始める……みたいな感じです。
世界観の次は登場人物の深掘りする感じになるかと思います。ヒロインパートも本格的にやりたい。
Sランクも(ほぼ)全員登場します。Sランク集合会議とか早くやってみたい。
ひとまずそんな感じで、4章の〆とさせていただきます。
またお会いできれば幸いです。
猫額とまり
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