第191話 蠢く終末


(三人称視点)



「以前から違和感はありました」



 人々が寝静まった夜。

 人間にスキルの力を届ける白磁の塔、バベルの中で、ウリエルとガブリエルは二人で向かい合っていた。



「スキルという力は、私が石化した後に貴女が作ったものだと聞きました。天使の力が完全に世界から消えてしまわないように、人間にも扱えるように縮小化して分け与えたのだと」


「せやな」


「しかしそれでは矛盾が生じます。なぜ魔物まで・・・・・・スキルを使えている・・・・・・・・のですか・・・・?」



 人間がスキルを使う時、そのスキル名を宣言してバベルに伝える。

 バベルはその命令を受けて力を送信し、使用者は正常にスキルを発動できる。

 これがスキル発動の一般的な・・・・仕組みだ。ならば魔物は?



「ガブリエル。まさかとは思いますが、」


「流石に魔物に力を分け与えたりはせーへんよ。人間も魔物もウチにとってはどうでもええけど、殺し合った相手にプレゼントあげるほどお人よしやないし」



 ガブリエルは魔物への干渉を否定した。

 ならばこの状況は、彼女の意図したものではないということ。



「正直予想外やった。まさかウチと同じようにこの世界の輪廻転生の概念に干渉して、魔物にスキルの力を分け与える、なんて考える奴がおるなんてな」


「! ではこの事態には、黒幕がいると言うのですか」


「せや。ウリエルもよー・・・・・・・知っとる相手や・・・・・・・


 ガブリエルの返事の意味がわからず、一瞬眉をひそめるウリエル。

 しかしその表情はすぐに驚愕に変わる。彼女の知人の中でそのような芸当が可能な者など、ほとんど存在しない。



「まさか」


「あいつは大戦時に死んだと思っとったんやけどな。うちの想定が甘かったわ。

神の塔バベルの仕組みを模倣し、迷宮っていう閉じた環境で第二の輪廻転生・・・・・・・を創造しようとしとる。

やっぱり天才やけど、ウチの考えたシステムをパクったのは腹立つわー」



 かつて、熾天使は五人・・存在すると言われていた。

 ミカエル。ガブリエル。ウリエル。ラファエル。そしてもう一人の名は、この地上にほとんど残されていない。

 聖国でもごく一部の者のみ存在を知る、天使にとっての禁忌であり最大の汚点。



「――堕天使ルシファー。

かつて熾天使の一人でありながら、ウチらを裏切って魔王側についたアホんだら。

そして今は迷宮に引きこもり、【墓守パンドラガーディアン】なんてふざけたもん作っとる男や。

……同族の不始末は、ウチら天使が片付けへんとあかんやろ」









「――やあルシファー。調子はどうだい?」



 気軽な調子で、蛇は堕天使に話しかける。


「こっちは散々だったよ。リヴァイアサンはやられちゃうし、シテンの身柄は確保できないし、ミカエルは向こうの手に渡っちゃうし。まるで収穫なしだ」


「――――」


「【墓守パンドラガーディアン】ももう半分・・しか残ってないよ? この後どうするつもりなんだい?」



「――何も問題はない。想定の範疇だ」



 徹底的に感情という要素を排除したような、あまりにも冷淡な声だった。



「【墓守パンドラガーディアン】は所詮足止め。ただの門番に過ぎない。それが半分欠けた程度で、俺の計画に支障はない」


「え〜? その割には魔王の魂なんか入れちゃって、結構気合い入れて作ってなかったっけ?」


「砕け散ったとはいえ、魔王の魂自体はエネルギー源としては優秀だ。それを扱える適切な器を用意してやれば、多少は役にたつと考えたからだ。結果は期待外れのガラクタだったがな」



 一体で迷宮都市に大混乱を引き起こす【墓守パンドラガーディアン】。

 創造主・・・である彼は、それをガラクタと吐き捨てる。



「いいや、期待外れという訳でもなかったか。最低限の役割・・・・・・は果たした」


「ああ、カルキノスか。……じゃあ残りの【墓守パンドラガーディアン】はどうするんだい? リヴァイアサンとカルキノスがいなくなって、二体分の稼働エネルギーは余ってるけど」


「どうでもいい。既に俺には不要な物だ」


「【墓守パンドラガーディアン】はこれ以上起動しないってこと? でも稼働エネルギーを放置するのは勿体無いよ?」



 彼の意図がわからず、頭上に疑問符を浮かべる蛇。

 長い付き合いになるが、蛇は未だに堕天使の思考を理解できていない。

 彼の思考は、常識からあまりにもかけ離れている。この世界の異物である蛇から見ても。



放っておけば・・・・・・勝手に使われる・・・・・・・。俺がわざわざ管理するまでもない」


「……? ――! ああ、そういうこと♪」


「リヴァイアサンの死骸が地上に回収された以上、【墓守パンドラガーディアン】の仕組みは知れ渡るだろう。人間共は何かしらの対策を講じてくる。

不死性を活かした戦法も役に立たなくなるだろう。奴らの存在価値はほぼ残されていない」


「なるほどね〜、それじゃあ仕方ないか。で、結局この後どうするんだい? 熾天使も全員復活したし、シテンはレベル100になっちゃったし。

【解体】スキルを手に入れて迷宮から脱獄する、って計画だったよね? 正直生け捕りにするの、もうかなりしんどいよ?」



 かつてミノタウロスがシテンと戦った時、蛇はシテンを生け捕りにするように命じた。

 【解体】スキルの状態保持能力。それを使って迷宮の外に脱獄するという算段であった。まさに今、リリスが迷宮の外に出入りできているように。



「そのプランは破棄する。元々あれば儲け物程度に考えていたプランだ。シテンがここまで成長した以上、リスクの方が大きい。【解体】スキルならば尚更だ」


「……じゃあ次会った時は本気で殺すか。【解体】スキル持ちなんて、利用価値がないなら生かしておく理由がない。前例・・がアレだったしね」


「現状の不安要素は【救世主メシア】【尸解仙】【解体】、そしてガブリエルだ。

それ以外の有象無象は無視する。隙を見てこれらの障害を排除するのが、俺の当面の役割だ」


「んー? そういう邪魔者の排除は僕に任せて欲しいけどなー? 君にはゆっくり計画を練ってもらいたいんだけど」


「既に調整は終えている。必要なのは計画ではなく、それを十全に実行できる手足だ。

ヨルムンガンド、その点では貴様は落第点だな」


「えぇ!? そりゃ、ここ最近はちょっと上手くいってないけどさ……もうちょっと相棒を信頼してくれてもいいんじゃない? 君と僕の仲じゃないか」


「ならば貴様は治療に専念しろ。【尸解仙】から受けた傷が癒え次第、行動に移れ」



 蛇の指摘に、堕天使は微塵も声色を変えることはなかった。




「りょーかい。……あのクソアマ、次こそ石像にしてやる」


「迷宮の監視は【墓守パンドラガーディアン】に任せる。丁度稼働しているアレ・・ならば適任だろう。

俺はガブリエルの動向に注視する。聖剣を手に入れた奴が何をしでかすのか、用心する必要がある」


「随分用心深いよねぇ……まあ今更だけどさ」


「計画を完遂させる為ならば当然だ。幾つものルートと手段を用意し、俺は必ず計画を成就させる」




「――この世界を断絶・・し、正しき姿に戻す」




ここまでお読みいただきありがとうございました。

長かった4章も終了になります。

世界観を広げようとして情報を詰め込みすぎたか……? と内心不安でしたが、結局最後まで突っ走りました。やっぱり設定を考えるのは楽しい。


5章は10月中には始めたいと思います。が、カクヨムコンも迫っているので予定は未定です。

Sランクとなったシテンが迷宮都市で新しい日常を始める……みたいな感じです。

世界観の次は登場人物の深掘りする感じになるかと思います。ヒロインパートも本格的にやりたい。

Sランクも(ほぼ)全員登場します。Sランク集合会議とか早くやってみたい。


ひとまずそんな感じで、4章の〆とさせていただきます。

またお会いできれば幸いです。


猫額とまり

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