第179話 レクシア・エル・アネモス
アネモス王国。
迷宮都市ネクリアの東に位置する封建制の国家であり、幾度かの変革を経ながら長らくその名を残してきた、歴史ある国でもある。
しかし近年は王位継承権を巡って王族同士での争いが激化し、多くの死傷者と難民を生み出してしまった。
数年に渡る内戦の果て、第二王子カイン・エル・アネモスが継承権を実質獲得し、内戦が終結したのがつい先日の事だ。
しかしカイン王子の王位継承には未だ反発者も多く、貴族や王族にも数多の犠牲者を出してしまった為に、アネモス王国の国力は大幅に低下してしまっていた。
王国から迷宮都市へ亡命する者も多く、来るもの拒まずの迷宮都市はそれを受け入れる受け皿として機能していた……それが、アネモス王国の現状である。
そして今から十五年前。そのアネモス王家の第二王女として、レクシア・エル・アネモスは生を受けた。
その身に聖女の力を宿して。
◆
「ラファエルの力で造られた、人工聖女……?」
ガブリエルはその真実を受け止めきれず、その衝撃と驚愕を隠しきれなかった。
彼女にとって、それ程ラファエルの名は重いのだ。
「ルチアからの報告で、あんたがアネモス王家に連なる者である可能性は聞いとった……けど、人工の聖女っていうのはどういう事や!?」
かつて聖女ルチアがシアを誘拐した際、【心眼】スキルによりシアの偽装されたステータスを暴いていた。
そこに書かれた真名を見て、シアがアネモス王家の関係者であり、何らかの事情で迷宮都市に居る所までは推測できていた。ルチアはそれをウリエル捜索に協力させるための、脅迫要素の一つにもしていた。
「順を追って、説明します。……数千年前、アネモイ王国ではとある計画が秘密裏に進められていました。
それが、人工的な聖女の創造計画。捕縛した熾天使ラファエルから力を奪い取り、それを完璧に制御できる人間を生み出そうという趣旨でした」
それは、ガブリエルの知らない真実であった。
彼女はラファエルの亡骸を、そして彼女をこんな目に遭わせた主犯を突き止める為に、長い年月を掛けて世界中を飛び回った。
しかしアネモイ王国でそんな恐ろしい実験が行われていた事に、終ぞ気づくことができなかったのだ。
「聖女とは、
その出生数は極々僅かで、人工的に生み出すことに成功した例は、恐らく私が初めてだと思います」
――聖女とは、スキルの力に完全適合した
全ての人間が生まれ持つスキルの力は、元は天使の力を分割したものだ。
しかしそれでも人間の力では、スキルの力を完全に制御することはできない。
そのために発動宣言という工程を踏む事で、【
だがしかし。そこに例外が存在する。
生まれながらにしてスキルの力に完全適合し、限界以上の力を引き出す事ができる人間。
本来レベルアップを経て肉体をスキルに適合させていく筈の過程を、完全に無視した存在。
バベルの制御がなくとも
それこそが聖女、または聖人と呼ばれる存在だ。
スキルという新時代の力に適合した彼女らの身体組成は、
長い年月を掛け人類が獲得した進化。人間という種すら超越した新人類なのだ。
そしてユニークスキルには及ばないものの、極めて出生率の低いその適合者を、アネモイ王国は人工的に生み出す事に成功したのだという。
「――――。貴様ら、ラファエルに何をした」
それを聞いたガブリエルは。
普段のおちゃらけた言い回しすら取っ払って、シアに詰め寄った。
……話を聞いていたソフィアが、シアを庇うように前に出る。
彼女はシアの出生の秘密を、シテンと共に聞いていた。だから彼女も万が一の事態に備えて、この場に同席していたのだ。
同じく同席していたウリエルとリリスは初めて聞く内容だったので驚愕していたが。
(ありがとうソフィアさん。……だけど、ここから先は綱渡り。言葉の選択を間違えれば、最悪私は殺される)
真実を打ち明けると決めた時、レクシアは――シアは、こうなる覚悟もしていた。
ガブリエルが本気になれば、ソフィア諸共自分は命を落とすだろう、と。
しかしそれでもシアは、この秘密を打ち明けることを決意した。
この事実を黙っていれば、もしバレた時にガブリエルの怒りを買う可能性がある。それに彼女もラファエルの身に起きた悲劇を、きっと知りたいと考えているだろうとも。
それでも彼女は決めたのだ。これ以上自分の無力や責任から、逃げることはしないと。
何より、あのラファエルの残骸を見て自分だけがその現実から逃げる事を、彼女自身が許せなかったのだ。
(シテンさんも戦っている。だから私も戦います。自分の過去と向き合う為に。そして私の先祖が犯した罪を清算し、償う為にも)
そしてシアは、己の眼でみた真実を詳らかにしていく。
「お話します。私がこの眼で見た全てを」
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