第178話 事の顛末、動き出す世界。


(三人称視点)


 ――【墓守パンドラガーディアン】リヴァイアサンが起こした未曾有の大災害。

 迷宮そのものを広範囲にわたって水没させた影響は大きく、多数の冒険者が犠牲となった。

 冒険者ギルドは事態を重く受け止め、解決のためにSランク冒険者の出動を命じた。


 ……しかし。リヴァイアサンを討ち取ったのは、Sランク冒険者ではなかった。

 Cランク冒険者シテン。“元”勇者パーティー【暁の翼】の一員であり、先日のミノタウロス騒動にも貢献した少年。

 ミノタウロスの時とは違い戦いを目撃した者はいなかったが、同行したSランク冒険者【狂犬】と【尸解仙】の証言により、リヴァイアサンを討伐したのはシテンであると冒険者ギルドは認めることとなった。

 ギルドはこれを正式に発表し、シテンの名声は爆発的に上昇することになる。

 ミノタウロスの件も含め、多くの冒険者を救ったことにより彼を英雄視する者も多く出始めた。

 その中には、シテンこそ新たなSランク冒険者に相応しいのでは? という意見もあった。




「――うん、私もそう思うよ。彼こそが新たな、十三番目のSランク冒険者に相応しい」


 そして、冒険者ギルド本部のある一室で。

 その青年は、今回の騒動に対する報告を聞いた後そう呟いた。


「しかし、彼は複雑な立場にいる人物です。勇者パーティーを壊滅させた事実もあり、彼をSランクに抜擢すれば聖教会から非難を受ける可能性もあります」


「それを踏まえてもメリットの方が大きいかな。あの【墓守パンドラガーディアン】を二体も倒したというのなら、実力は本物だよ。私はその力が是非とも欲しい。

それに彼は聖都エデンに赴いていたらしい。恐らくその辺りの問題も、話し合ったんじゃないかな? 聖教会からは現状、シテンをどうこうするようなお願い・・・はきてないし」


「……彼はまだ十七歳だと聞いています。Sランクという迷宮都市を代表する立場に抜擢するには、些か若すぎるのでは」


「そんな事はないさ。十七歳ともなれば十分に大人だし、Sランクの【界境】に至っては十五歳の少女だ。若者達が迷宮都市の中核を担ってくれるのは、私としてもありがたい事だよ。なにせSランクの面子は滅多に変わり映えしないからね。新しい風を吹き込むには丁度いいんじゃないかな」


 白い髪の青年は、配下からの指摘に一つ一つ丁寧に答えていく。

 身分に拘らず平等に接するこの誠実な態度が、彼が部下から慕われる理由の一つでもあった。


「それに彼は孤児院育ちだそうだね。そこから成り上がってSランク、夢があるじゃないか。他の冒険者にもきっと認めてもらえるよ。それに【尸解仙】と【狂犬】が連名で彼を推薦している。二人とも誰かを推薦するなんて初めての事だよ。きっと彼には何か不思議な魅力があるのかもしれないね」


「……わかりました。では冒険者シテンをSランクとして昇格するよう、手配をしておきます」


「よろしく頼むよ」




 そして迷宮都市の頂点――ギルドマスター、ノアはこれからの未来に思いを馳せて、静かに微笑んだ。



「我々もそろそろ、次のステージに進まなければならないからね」



「うわぁ……でっか……」


 【魔王の墳墓】68階。

 ギルドの受付嬢、ツバキは思わず驚嘆の声を漏らした。

 目の前には頭部を失った巨大な亡骸――リヴァイアサンの死体があった。


「これをシテンさんが……本当に、少し見ない間にとても強くなったんですね。もしかしたら今回の一件で、本当にSランクになっちゃうかも」


 【解体】の力を付与した攻撃で斃されたリヴァイアサンは、死体が消滅せずそのまま残り続けていた。

 ミノタウロスの時は何故か肉体が残らなかったため、冒険者ギルドは今後の研究のために今度こそ、【墓守パンドラガーディアン】の遺体を回収しようと目論んだのだ。

 ツバキは今回、その回収メンバーに抜擢されたのだった。


「これが噂に聞く【墓守パンドラガーディアン】の肉体……見た目は蛇っぽいですが、見たことのない魔物です。これが迷宮を水没させたなんて、恐ろしい脅威ですね……」


「ツバキさん、周囲を見回りましたが、特に魔物の影もありません。このまま遺体の回収作業を進めて大丈夫ですか?」


「あ、はい。進めちゃってください。大きすぎて一気には持ち運べないと思いますので、切り分けて少しずつ――」




「――この程度何の問題もないわよ。私を舐めないでくれる?」


 そんな強気な少女の声が聞こえた直後。

 巨大なリヴァイアサンの躯が、跡形もなく亜空間に飲み込まれ・・・・・・・・・消失した。


(あ、まだ見ていたかったんですけど……)


「はい終わり。じゃあさっさと帰りましょ。私は魔術の研究で忙しいんだから、これ以上時間を無駄にしたくないの」


 年上であるツバキに、そんな強気な言葉を投げかけたのは背丈の小さな少女であった。

 しかし、この場の誰もそれを咎めたりはしない。

 彼女の正体を知る者なら、誰だってそんな命知らずな真似はしない。


「え、えぇ……ありがとうございます、ニムエさん」


「世辞なんてどうでもいい。さっさと帰る準備して? 今回は私が地上まで転送してあげるから」



 くるくると自分の髪を弄りながら、その少女――Sランク冒険者、【界境】ニムエは、至極どうでもよさそうに呟いた。


(……うーん、正直苦手だなぁこの子。というかSランク冒険者全般。

……もしシテンさんがSランクになったら、人間関係で色々問題になりそうだなぁ……)



 そして、聖国エデンにて。

 熾天使ガブリエルの前に、一人の少女が立っていた。


「で、改まってどうしたん? 話って」


「はい。……私の過去について、ガブリエルさんにお話しておきたくて」


 そしてシアは、自身の秘密を打ち明ける。

 それが彼女にとって、必要な情報だと理解していたから。




「私の真名は……レクシア・・・・。レクシア・エル・アネモス。

アネモス王国の第二王女であり……そして熾天使ラファエルの力によって造られた、人造の聖女・・・・・です」

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