第176話 vsリヴァイアサン ⑫次元を別つ黒槍


 【完全解体パーフェクトイレイサー】の守りを解除。その分のエネルギーを攻撃に回す。

 リヴァイアサンの最後の攻撃。シテンはそれを正面から打ち砕こうというのだ。


 そしてシテンは、この展開をも・・・・・・予期していた・・・・・・



(不意打ちは予想外だったけど、何らかの方法で僕の裏をかいて【激流砲】を放ってくる事は予測できた。

――この一撃を、ずっと待っていた)


 シテンは先ほどから【激流砲】を見るたび、気になっていたことがあった。

 それはあれほど莫大な量の海水を、一点に圧縮させる技術。

 明らかに物理法則を無視しているそれを分析し、自分のものにできないかとずっと考えていたのだ。


(エネルギーを一点に集中させるという意味では、【穿孔解体ブレイクランス】と【激流砲】はよく似ている。なら、同じ圧縮技術を転用することも可能なんじゃないか?)


 推測はできていた。

 【激流砲】の原理は、マジックバッグと同じように空間を歪めて海水を圧縮させ、それを一気に解き放つ事で超威力を叩き出す派生スキルだと。


 そしてこれはシテンの知らない事実であったが、空間圧縮には【迷宮改変ダンジョンマスター】のスキルが関わっている。迷宮の地形を自在に操るあのスキルならば、空間そのもの・・・・・・を歪めることも可能。

 即ち【激流砲】とは、【迷宮改変ダンジョンマスター】のスキルにリヴァイアサン独自の解釈と技術、改変を加え発展させた派生スキルであった。



(今の僕なら、きっと空間そのものに干渉する事もできるだろう。

……ただそれには、まだ空間に対する理解度が足りない。僕自身が空間とは何なのかを、捉えきれていない)




 【解体】スキルは、どんな物でもバラバラにすることができる。

 但し、“使用者が捉えた対象のみ”という条件が存在する。

 海水だろうが空気だろうが、狂精霊だろうが捉えられれば解体できる。しかし認識できないもの、高速で移動して捉えきれないもの、そしてあるかどうか・・・・・・わからないもの・・・・・・・は、スキルの対象にすることができないのだ。


 今回の“空間そのもの”は、まさにその条件に当てはまるものだった。

 シテンは学者のように、空間に対し豊富な知識を持ち合わせている訳ではない。なので“空間を捉える”という感覚がまだ理解できていない。

 迫る【激流砲】の海水を撃ち抜く事はできても、空間を歪め圧縮させるという技術までは真似できなかった。


 故に。


(だからもう一度見たかった。この【激流砲】を)


 知識がないならば、身体で覚えるのみ。

 シテンは今一度【激流砲】――否、【双激流砲】と対峙する。

 その技術を、感覚を感じ取ろうとしている。

 そのためにわざと挑発し、【激流砲】を誘ったのだ。


(蜃気楼のように、景色が歪んでいる。【激流砲】と違ってブレスそのものに空間を歪める効果が付与されているのか。並の防御じゃ空間ごとぶち抜かれるな)


 直撃すれば死は免れない。想定を超える【双激流砲】の威力の前に、改めてシテンは覚悟を決めた。



(――もう一段上へ・・・・・・。【穿孔解体ブレイクランス】をこの場で進化させて、空間もろともブレスをぶち抜く!!)


 短剣を収納し、両手を前に構える。

 無動作では精度と威力が足りない。突き出した両手を槍に見立てて動作モーションとする。


(全エネルギーを掌に。回転も加えて、速度と威力を向上させる)



 だがそれだけでは足りないだろう。

 空間そのものを歪める一撃、それを崩すにはシテンの理解と解釈が必要だ。

 そしてその為にシテンは、この戦いで幾度も【激流砲】を観察してきたのだ。

 条件はもう、整っていた。


(【穿孔解体ブレイクランス】+【臨死解体ニアデッド】)



 シテンの持つ第二の派生スキル【臨死解体ニアデッド】。

 物理現象ではなく、概念として対象を解体する技。見た目はバラバラになっても切り口は繋がったまま、ダメージを与えず防御を無視して解体するスキル。


 そしてこれは空間魔術で次元切断したときの事象と、ほぼ同じ現象である。

 加えてガブリエルの転移魔法と、リヴァイアサンの空間圧縮。

 それらを体感し、統合させ、シテンの空間に対する理解度は十分となっていた。




 ……二つのスキルの力が混ざり合う。

 空間を歪め、光すら歪めるその一撃は、ブラックホールの如く漆黒に染まった。

 攻撃力特化の一撃。改良を重ね、【穿孔解体ブレイクランス】が真の意味で完成する。




「――【穿孔解体ブレイクランス】!!」




 風を切り、海を割って、空間を飲み込んで黒槍が放たれる。

 進路上の森羅万象を解体し、その一撃は【双激流砲】と真正面から衝突し、



「「ぉ――」」


「貫け」




 ――【双激流砲】ごと、魔王の魂を完全に解体した。



 頭部を失った二匹のリヴァイアサンが、重力に従って落下していく。

 再生する気配はない。シテンの放った黒槍は、今度こそリヴァイアサンの偽りの命に終焉をもたらしていた。


「毎度毎度、【墓守パンドラガーディアン】の相手はしんどくて嫌になるけれど――」


 その様子を、空中に立ったままシテンは眺めていた。

 もう【ゴミ漁り】と呼ばれたかつての少年はいない。

 そこにいるのは、この時代に誕生した新たな英雄。そして十三番目の超越者Sランクであった。



「お陰でまた一つ目標に近づいた。それに関してだけは礼を言うよ、リヴァイアサン」





 【墓守パンドラガーディアン】リヴァイアサン戦、決着。

 勝者――シテン。


◆◆◆

リヴァイアサン戦決着です!

ここまでお読みいただきありがとうございました!!


今回はシテンの覚醒がメインイベントでしたので、前回のミノタウロス戦と比べるとまた違った雰囲気に仕上がったかと思います。

ほんとはもうちょっと短く抑えたかったんですが、やりたい事を詰め込んだらいつの間にか長文になってしまい……。多分今後も本作はこんな感じで進むと思います()


あと数話程、エピローグ的な何かを書いて四章は終了になります。

次章以降の予定についてはまた後日詳しくお知らせいたします!


本章は世界観を深掘りするためとはいえ、色々と説明が多すぎたのは反省点でした。

もし分かりにくい点や疑問点がありましたら遠慮なくコメントください!

重ね重ね、お読みいただきありがとうございました。

よければ↓の⭐︎ボタンから評価や、ブックマークをお願いします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る