第175話 vsリヴァイアサン ⑪双魚相対


(三人称視点)


 そして、最後の攻防が始まる。


「どうする!? 水中に引き摺り込むのはもう無理だ!! とはいえ地上戦など……」


「――やむを得まい」



 この窮地においても、片割れのリヴァイアサンはまだ冷静さを保っていた。

 それを失えば、今度こそ勝機を失うと彼は理解していたからだ。


「後の事は考えるな。ミカエルの破壊は諦める。ここで差し違えてでも、シテンを殺す」


「……!」


「奴はもはや熾天使と同格。或いは今後、それ以上の脅威になりえるやもしれん。

今ここで、その可能性を潰す。……意味はわかるな・・・・・・・?」


「……チッ。ガブリエルに借りも返していないというのに。だが、やむを得ないか」


「……!?」


 その直後。

 リヴァイアサン達はまるでトカゲの尻尾切りのように、ブチリと互いの頭部を食いちぎったのだ。


(何をするつもりだ?)


 互いを食らう蛇。

 ……肉体の再生が始まる。しかしそれは、先ほどまでとはまるで違う姿であった。


「……我の生前・・の力はあまりにも強大過ぎた。【進化細胞エボリューションセル】で造られた仮の肉体では、とても抑えきれない程にな」


「巨大化している……まさか、合体して一匹になったのか!?」


「いかにも。これこそが我本来の姿。だが一度肉体と魂を結合すれば、二度と元には戻れぬ。そしてこの器も長くは保たぬ。……我らが悲願の為にも、差し違えてでも貴様を殺す」



 双魚が合わさり、一匹の巨大な龍となる。

 生前本来の姿を取り戻したリヴァイアサンは、明らかに先ほどよりも強大な気配を放っていた。

 恐らくレベルも上昇しているだろう。しかしシテンの表情に、怯えの色はみられなかった。


(魂の分離と結合……そんな技術もあるのか。そういえばミノタウロスも魂を変形させて、わざと暴走したりしていたな。【墓守パンドラガーディアン】達は魂についてかなりの知識を持ち合わせているみたいだ……とても興味がある。でも)


「悪いけど、僕は勝つよ。帰りを待ってる家族がいるんだ」


「やってみろ!」



 リヴァイアサンは自らの周囲に、魔術で生み出した水を纏う。

 同時に【迷宮改変ダンジョンマスター】を解除。その分のエネルギーを本体に回す。


「【大津波タイダルウェーブ】!!」


「【遠隔解体カットアウト】」



 急速に元の地形へと再生する迷宮と、大量の海水が合わさった質量攻撃。

 しかしシテンは海水ごと切断し、同時に真言術でスキルを発動。


(『穿孔解体ブレイクランス』)


 シテンの手元から何の予備動作もなく、必殺の槍が放たれる。

 だがリヴァイアサンは微かな空気のうなり声・・・・を聞き逃さなかった。

 周囲の水ごと身をくねらせて回避する。しかし放たれていた二射目の『穿孔解体ブレイクランス』が、リヴァイアサンの胴体を抉りとった。



「くっ……この状態でも防御は不可能か!」


(威力が低いな、無言発動は早くて便利だけど、その分精密性と威力に難がある)



「【穿孔ブレイク――」


 モーション付きでのスキル発動に切り替えようとしたその時、リヴァイアサンの身体に異変が起こった。


「ん!?」


 視界に収まりきらないほどの巨体。その下半分をまたもや食いちぎったのだ。

 代わりに頭部だけが肥大した、歪な姿となったリヴァイアサンが姿を現す。

 シテンが行ったのではない。リヴァイアサン自らの意思で変身、いや変貌したのだ。


(巨大な躯では的になる、ならば肉体を最小限に切り捨て機動力を上げる!)


「トカゲの尻尾切りかよ!?」


 敢えて歪な再生を行い、肉体を犠牲にスリムな身体を手に入れたリヴァイアサンは、今度は機動力でシテンの攻撃を回避しようと目論む。


 その選択自体は正しかった。【解体】スキルは能動発動アクティブ型である以上どうしても、狙いを定めて発動する、というワンアクションが必要となる。

 高速で動き回れば的を絞りきれない。必殺の攻撃も当たらなければ意味はない。


「ちょこまかと……だったら」


 【解体】スキルの攻略法としては正解だった。

 だが勝利を掴むための選択としては不正解である。



「【完全解体パーフェクトイレイサー】」


「ッ!?」


 シテンは周囲を覆うようにスキルを発動し、近づいた万物を即座に解体する構えをとった。

 すると水流攻撃や鱗攻撃は、【完全解体パーフェクトイレイサー】の守りを破れず分解されてしまう。リヴァイアサンの攻撃がシテンに届かなくなってしまったのだ。



(肉体を削った分時間制限は短くなっている。このまま籠城されれば負けるのはこちらだ)


「撃ってきなよ」


「――――」


「【激流砲】。お前の最大攻撃なんだろう」


 見え透いたシテンの挑発。

 だが可能性があるとすればそれしかない。

 リヴァイアサンの手札の中で最大威力を持つ技【激流砲】。シテンの守りを貫けるのは、これしか方法がない。

 何もしなければ負ける。逃走は許されない。

 リヴァイアサンの行動は、シテンによって限定されてしまっていた。



「……。いいだろう」


 故に、正面から打ち砕く。

 己の全てをこの一撃に注ぎ、目論見諸共粉砕する。

 それがリヴァイアサンのとった、最後の選択肢であった。


 距離を取り、口を開け、周囲の水分を一点に集中させる。

 【迷宮改変ダンジョンマスター】も再び使用し、迷宮のあらゆる構造物を海水に変換してかき集める。

 迷宮数十階層分。何十万トンという水量が、空間さえ歪めて一箇所に集められ――



「させるわけないだろ」


 ――無動作で放たれた『穿孔解体ブレイクランス』がリヴァイアサンの頭部を破壊した。





「――ああ、読んでいたとも」


「!」


 そしてそれを予期していたリヴァイアサンは、先ほど切り捨てた胴体から頭部を再生させていた。

 先ほどの肉体と魂の結合はブラフ。シテンに敢えて説明することで、胴体の方はもう動かないと思い込ませるのが目的だった。

 シテンが妨害にでるこの瞬間。【完全解体パーフェクトイレイサー】の防御は僅かに薄くなる。先ほどと同じように、リヴァイアサンはこれをずっと狙っていた。


 魂があれば、肉体は何度でも再生する。頭部と胴体が再生し、再び双魚へと戻る。

 シテンの不意を打つための二重のフェイク。

 そしてそれぞれの頭が【激流砲】の溜めチャージを完了させる。



「「終わりだ――【双激流砲】!!」」


 二つの激流砲が重なり、破滅的な威力と化した【双激流砲】がシテンに放たれる。

 防御の薄くなった今のシテンでは、受けきれる威力ではない。


 よって、シテンの選択肢は。



「受けて立つ」


◆◆◆

宣言有でのスキルは【】、宣言無でのスキルは『』で表記を分けています。


次話も明日更新!

そしていよいよ決着です‘。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る