第172話 リリスとお勉強、スキルについて
八千文字近くになってしまったので分割投稿。
明日十二時過ぎに次話を投稿します!
◆◆◆
(三人称視点)
「スキルが使えない水中戦を強要するリヴァイアサンが、恐ろしい相手というのは分かりましたが……」
場面変わって、聖国。
「そもそもなぜ、スキルを発動するときは言葉に出して宣言しないとダメなんですか? 静かにこっそり発動できた方が便利だと思います!」
「……リリスと同意見ですね。現代では、ほぼ全ての人間がスキルと呼ばれる力を保有している。そのような力、大戦時には存在しませんでした。……一体何をしたのですか、ガブリエル」
ウリエルが鋭い眼差しをガブリエルに向ける。ガブリエルのこれまでの所業を鑑みれば、何か恐ろしいコトをしでかしたのではないかと、どうしてもウリエルは勘繰ってしまうのだ。
「おっかない目つきやなぁ……まあ今更隠してもしょうがないし、それくらいは話してもええよ」
そしてウリエルの予感は半分的中していた。
人類がスキルの力に目覚めるという異変に、ガブリエルは関与している事を暗に認めたのだ。
「簡単に言うと、スキルってのは天使の力……
「奇跡……ですか?」
「スキルとも魔術とも違う、この世の理を曲げる力やな。現代じゃ
「……個体毎に奇跡の種類は様々ですが、例えば私は土を操る奇跡が使えます。ガブリエルは水を操る奇跡ですね」
「そーゆー事や。……で。その奇跡を人間が扱えるように
「えぇ!? そうだったんですか!?」
リリスだけでなく、ガブリエル以外の全員が驚愕していた。
人類が当たり前のように目覚め、行使しているスキルの力は、今は姿を消した天使達の力なのだと聞かされたのだ。当然の反応だった。
「大戦以降、多くの天使が命を落とした。天使は人間と違って
……ウチは天使の力が失われる事を危険視したんや。女神様もおらん今、奇跡の力が失われれば、万が一の時にとても対応できへん」
だからガブリエルは考えた。奇跡の力を、何とかして保つ方法はないかと。
天使を増やす事はできない。ならば、無秩序に増える人間を利用すればいい、と。
「ウチは奇跡の力を切り分けて、人間でもギリギリ扱えるように出力を調整した。そしてこの世界の【輪廻の輪】に干渉して、輪廻転生で生まれ変わる人間に、自動的にスキルの力を与えるようにした」
「なっ……」
「最初は上手くいかへんかった。いくら切り分けても奇跡は奇跡。人間にとっては異物や。スキルの力を扱いきれずに暴走したり、馴染む前に命を落とす個体もおった」
最初期は殆どの人間にスキルが定着しなかった。
しかし諦めず、ガブリエルは奇跡の力を切り分け続けた。その過程で変質し、元とは完全に別種の力に変質したものもあった。
そうして試行錯誤を続けて、数千年。
「人間の偉い所は様々な環境に適応、進化できることやな。時を経るにつれ、スキルの力に適応する人間が増え始めたんや」
環境適応能力。
生物が持つ本能が、長い年月を掛けてスキルという異物に適応し始めたのだ。
そして今では、ほぼ全ての人類が適応するに至った。
「今じゃスキルに適応できない人種は
一瞬ガブリエルの視線が、シアに向けられる。
【聖女】が特別たる所以は、このスキルの根源が大きく影響している。しかしガブリエルは、今はそれについて語る気は無いようだった。
「貴女は、何ということを……! その身勝手な実験でどれだけの人間が犠牲になったのですか!? ……いいえ、天使の力を分けたという事は、まさか天使までも――」
「甘いなぁ。相変わらず甘過ぎやわウリエル。こんくらいせんと魔王には勝たれへんで?
女神様が存命だった時でも、魔王を仕留め損なったんや。今度もし復活するような事があったら誰が戦うんや?
「ッ」
「天使の殆どは死に絶えた。奇跡の力も失われた。そしてウチはもう人類なんざどーでもいい。
……これはウチなりの
それに大半の天使は納得してくれたで? 自分の死後にも人類の役に立てるなら、ってな。流石に生きた天使から無理やり力を剥ぎ取ったりはせーへんよ」
……ウリエルも薄々、理解はしていたのだ。
スキルの力なくして、魔物達には到底対抗できないのだと。
理屈では分かっていても、彼女の感情がそれを受け入れ難いものにしていたのだ。
それに。
(ガブリエルは優しさと言いましたが……きっとそれだけではない。わざわざスキルの力を人類に分け与えたのは、何か他の理由がある)
ガブリエルの裏に隠された真意を読み取り、彼女への認識を再度改める。
輪廻転生というこの世界の理を弄ってすら、彼女は自分の野望を果たすために動いているのだと。
「……スキルの由来はわかったけど。それと水中でスキルが使えない話と、どういう関係があるんですか?」
ウリエルとガブリエルの間に広がった険悪な雰囲気を和らげようと、リリスが慌てて話題を逸らすように問いかけた。
事実、ここまでの話はスキル誕生の昔話であり、水中でスキルが使えない理由にはなっていない。
「まー落ち着き。今のは事前に伝えとかなあかん情報で、本題はこっからや。
そもそもスキルっていうのは、どうやって発動してるんやと思う?」
「えーと、私が誰かを『
「ちゃうちゃう。それスキルやなくてサキュバスの種族特性や。……せやなぁ、シアならよーく知っとるんちゃうか?」
否定されて肩を落とすリリスだったが、そもそもスキルを持たない彼女が、スキルを発動する原理を理解している筈もなかった。
代わりに指名されたシアが、やや控えめな声色で答える。
「私たちがいるこの塔……【
「そうそう。シアちゃん大正解ー」
聖国エデン、その首都バビロンに
あらゆる人類との意思疎通を可能にした、
【
この世界の人間は十三歳ごろになるとスキルの力に目覚め、同時に【
そうすると、多種多様な言語が自動的に翻訳され、耳にするだけでどういった意味なのか理解できるようになるのだ。
ここまではこの世界における常識。シテンもシアもソフィアも、元々知っていた事だ。
「けどなぁ、よう考えてみ? 表沙汰にはしてへんけど、これまで扱いきれずに大量の犠牲者を出した、奇跡の力の欠片やで?
ただのんびり歳を取るだけでモノにできるなんて、都合良すぎやと思わへん?」
「……それは」
「スキルの発現っちゅうのは、あくまでもスタート地点や。ただスキルの力と【
スキルに目覚めた者が、誰しも最初から強大な力を発揮できる訳ではない。
肉体を
「目覚めたての赤ん坊が奇跡の力に手ぇ出したら、暴走するに決まってるやろ?せやからそれを防ぐために、【
――ま、裏を返せば、この世の
「なっ……ガブリエル、貴女という人は!」
「話の途中やから落ち着きー。……で。バベルで補助をするためには、使用者の望むイメージを正確に送ってもらわなあかん。いくらバベルでもスキルの発動者が何したいんか、それが伝わらんと、補助のしようもないんや」
使用者がスキル発動の意思を示し、それをバベルに送信する。
それを受け取ったバベルは、スキルが暴走しないように制御した上で、使用者にスキルの力を送り届ける。
使用者がそれを受け取る事で、初めて使用者が望む形で、正常にスキルを発動することができるのだ。
「……あれ? では皆さんがスキルの名前を毎回宣言しているのは」
「バベルは
ちなみに言語翻訳機能はその過程でできた副産物やなー、とガブリエルが付け加えた。
あらゆる言語でのスキル認証に対応するために、翻訳機能は
「……あ! もしかして水中でスキルが使えないというのは、そのバベルとのやりとりができなくなるからでしょうか!?」
「飲み込みが早いなぁ、その通りや。あくまでスキル発動の意思、言霊は基本的に肉声に宿る。
……これが結構デリケートでな? ちゃんと発声できへん水中とか、口を塞がれたりとか、錯乱状態やったりすると、正常に言霊が伝わらへんねん」
……この世界には存在しないが、地球における電波のイメージが近いかもしれない。
スキルの使用者がラジオ等電波を使う機械で、バベルが電波塔だ。
水中や電波の悪い場所では正常に情報が送れず、機械は正常に動かない。
同様に、スキルの力も正常にやりとりができず、発動することができなくなる。
あらゆる
それこそがバベルの正体。そしてこの世界に根付いた、スキルという力の根源である。
「【
……故にその法則を逆手に取り、水中戦を強要してくるリヴァイアサンは、人類にとって存在そのものが脅威なのだ。
普通の人間に、勝ち目などあるはずがない。そしてそれを見越した上で、ガブリエルはシテンを送り出したのだ。
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