第170話 vsリヴァイアサン ⑧解体スキルの弱点


(三人称視点)


『ミカエルが完全復活する前に仕留めなければならんからな。本気で叩き潰す。油断も手加減も無しだ』


 ……ここに来る最中、シテンはマジックアイテム越しにユーリィから、リヴァイアサンの正体と目的を聞かされていた。

 今まで戦っていたリヴァイアサンは囮で、本命は分裂したもう一体のリヴァイアサンの方だと。

 時間稼ぎは失敗し、ミカエルの破壊は間に合わなかったようだが。

 しかしリヴァイアサンは自らの片割れを喰らい、本来の力を取り戻すに至ってしまった。


(レベル135……さっきまでと桁違いの圧力! 気を抜いたらこっちが殺される!!)


『【迷宮改変ダンジョンマスター――大渦潮メイルシュトローム】』



 そしてリヴァイアサンを取り囲むように、複数の渦が出現する。

 海水と化した迷宮ごと巻き込み、抗いようのない強烈な水流を生み出す。


「くっ……【完全解体パーフェクトイレイサー】!」


 シテンはスキルを発動し、周囲の水流を強引に解体する。

 まるで撥水はっすい性の物体のように、シテンの周辺だけが不自然に海水を弾いていた。



『先ほどから自由に行動できているのは、その派生スキルが海水を弾いているからか。

――しかしそのスキル。弱点があると見た』


 先ほどとは打って変わって、リヴァイアサンは冷静さを保ちつつシテンを観察していた。

 無敵に思えた【解体】スキル。その穴を見つけ出し、攻略しようとしているのだ。


『わざわざ発動しなおしたということは、常に発動している訳ではない。つまりそれなりに消耗の激しいスキルなのだろう。全方位かつ常時解体をするとなれば、その消費も納得だ』


「!」


『そして水流は弾けても、空気を生み出せる訳ではない。お前が口に咥えているその石ころこそが生命線。それがなくなればお前は呼吸ができなくなり、その派生スキルも意味をなさなくなる』



 ……リヴァイアサンの指摘は的をいていた。

 リヴァイアサンと同じく、シテンにも時間制限が存在する。

 口に咥えた空気魔石エアストーンは消耗品だ。一定時間が経過すれば、飴玉のように溶けて無くなる。

 そうなればシテンは酸素を確保できなくなり詰みだ。ストックの空気魔石は幾つかあるが、それを装填する余裕をリヴァイアサンが与えるかどうか。

 そして【完全解体パーフェクトイレイサー】も消耗の激しい派生スキルだ。自傷するというデメリットこそは克服したが、大きく体力を消耗する点は変わりない。このまま水中戦を続ければ、先にスタミナ切れを起こすのは自分の方だと、シテンも内心では理解していた。


(一撃だ。【解体】スキルを一撃急所に当てれば勝てる)


「【穿孔解体ブレイクランス】――」


『――そして、もう一つ』


 シテンの手から、必殺の槍が放たれる。

 しかしリヴァイアサンはその軌道を読んでいた・・・・・かのように、身を捻って回避してみせた。


「っ!」


『貴様の攻撃は威力こそ高いが、直線的過ぎる・・・・・・。理由は一つ、攻撃のたびに貴様は標的を目視して放っているからだ』


 ……リヴァイアサンの身体に巻き付くように、水流の渦が発生している。

 それは機動力を爆発的に増加させる推進装置ブースターだ。水流の流れを自在に操れる彼は、それを高速移動の手段にする術を編み出したのだ。


『【解体】スキルは典型的な能動発動型アクティブスキルなのだろう。標的を目視し、攻撃範囲を指定し、スキルを発動する。その三つのステップを踏まなければ、貴様は狙った相手を解体できない』


 スキルの区分わけには、能動発動型アクティブスキル自動発動型パッシブスキルが存在する。

 意識的に発動しなければならないのが前者。意識せずとも自動的に発動するのが後者だ。

 そしてシテンの【穿孔解体ブレイクランス】は前者で、【完全解体パーフェクトイレイサー】は後者だ。

 一部例外は存在するが、スキルの発動までに必要な工程プロセスが多い以上、どうしても能動発動型アクティブスキルの方が一手遅れてしまう。


『先ほどからその槍は全て、貴様の腕から放たれている。……一点に威力を集中させるために、何らかの目印が必要と見た。ならばその目印に注目すれば、攻撃の方向を見極めるのは容易い』


(クソッ、なんだこいつ、急に冷静さを取り戻した……本来の力を取り戻して、余裕が戻ってきたからか!?)



『――そして、二度目は撃たせない。【迷宮改変ダンジョンマスター】:限定解除・・・・



 そしてリヴァイアサンは海水と化した迷宮の、一部だけを元の地形に戻した。

 土砂が海水に混じり、渦に乗って濁流となる。

 シテンの視界が、閉じられる。


「こいつっ」


『目視で狙うというならば、視界を塞げばいいだけの事。それとも当てすっぽうで撃ってみるか? ミカエルに当たっても知らんぞ?』


 地形変化の一部だけの解除。先ほどの分体には真似できなかった所業だ。

 本来の力を取り戻したリヴァイアサンは冷静さを取り戻すと同時に、【迷宮改変ダンジョンマスター】の使い方も一気に拡張させていたのだ。


 視界を奪われ、行動の自由を奪われ、時間すらも奪われつつあるシテン。

 しかし、その眼はまだ絶望に染まってはいない。


(視界がなくとも、今の僕にはこれ・・がある)


 濁流に覆われた視界には、まるで嵐の中でも輝く星のように、魂の輝きがはっきりと映っていた。

 五感に頼らず、魂を感知するこの感覚――第六感。

 死の淵を乗り越えたシテンが身につけた、新しい能力。


(視界を塞ぐということは、リヴァイアサンからも僕は見えなくなっているという事! ならこの目潰しは僕にとって都合がいい!)


穿うがて――【穿孔解体ブレイクランス】」


 そして高速で動き回るリヴァイアサンの光点目掛けて、再び必殺の槍を放つ。

 もちろんミカエルには当たらないよう配慮した位置取りで。彼にはミカエルの光点もしっかり見えている。


『!!』


 正確かつ無慈悲に、シテンの魔槍はリヴァイアサンの身体を抉り取る。

 シテンの考察通り、視界を塞がれたのはリヴァイアサンも同じ。一瞬回避反応が遅れたリヴァイアサンは、水流による高速移動が間に合わず、肉体を抉り取られた。



 だが――それこそが、リヴァイアサンの狙い通りだった。



『今だ。撃て』



 そして。リヴァイアサンとは別の方角・・・・から遠距離攻撃が放たれる。

 それは【完全解体パーフェクトイレイサー】の無敵の守りを貫いて・・・、遂にシテンへと直撃した。


「ぐっ……!?」


(今の攻撃は!? 一体どこから――)


 やがてシテンは気づいてしまう。

 今の攻撃が海水を凝縮して放たれたブレス、【激流砲】である事に。

 そして濁流はおろか、澄んだ海中でも殆ど見えないほどの、極々僅かな光点が一つ。

 それが、シテンに狙いを定めていた事に。




▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

【リヴァイアサン】 レベル:5

性別:オス 種族:魔物、魔族、悪魔、墓守(リヴァイアサン)


【スキル】

迷宮改変ダンジョンマスター……自在に迷宮の地形を操作する権能。

輪廻転生リインカーネーション……肉体の一部、または全てを、記憶とスキルを引き継いで新生させる。このスキルは死後にも自動的に発動する。このスキルは【魔王の墳墓】内でのみ使用可能。


【備考】

なし

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲





 ……ブレスの発射地点には、頭部だけレベル5になったもう一体のリヴァイアサンが、シテンを睨みつけていた。


(こいつ……頭部だけなのにまだ生きてたのか!?)


『砕いたぞ――その無敵の防御。そしてその命綱・・も!』


 リヴァイアサンは確かに目撃していた。

 血を溢すシテンの口元から、空気魔石エアストーンが衝撃で吐き出された瞬間を。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る