第169話 vsリヴァイアサン ⑦怪物たち


(三人称視点)


「……」


 カルキノスを適当に蹴散らしながら、クララは水底へ向かうシテンをじっと見つめていた。

 リヴァイアサンとの戦いの様子は、救助を行いながらも目にしていた。

 数多の冒険者を屠った怪物を、ほぼ一方的に捩じ伏せ解体していくその様を。


「……ふむ。ユーリィが目をかけただけあって、実力は確かですね。何より成長速度が驚異的です。昨日私と戦った時よりもずっと強くなってません?」


『この程度の苦難は乗り越えてもらわねければ、私が困るからナ』


「おや、居たんですかユーリィ」


 声のした方向、カルキノスの群れに躊躇なく手を突っ込むと、クララの手には頭部だけになったユーリィが掴まれていた。

 といっても、肉と骨を継ぎ合わせて作った肉人形、分体でしかないが。


「分体とはいえここまでボロボロにされるとは。私には傷一つ付けられてませんが、結構強いんですね? このカニ」


『誰でも普通は無傷じゃ済まない、お前の肉体性能フィジカルが規格外なだけダ』



 ……先ほどからカルキノスが攻撃を続けているが、クララの素肌には傷一つ付けられていない。

 とはいえクララも、攻撃しても致命打を与えられない。お互い攻め手に欠ける現状、時間稼ぎくらいしかやる事がなかった。



「そう聞くと私に傷を付けたシテンさんの凄さが際立ちますねー。攻撃力に関しては間違いなくトップクラスですよ。Sランクとも余裕で渡り合えます」


『攻撃力だけでは意味がなイ。それ以外の要素を磨き上げるための戦いダ』



 既に二人の視界からはシテンは見えなくなっている。

 彼はたった一人、あの強大な【墓守パンドラガーディアン】に勝負を挑みに向かったのだ。ミノタウロスの時と同じように。


「勝てますかねぇ、彼」


『見込みはあル。だが勝てないならばそれまでダ』


「ユーリィはちょっとシテンさんに厳しすぎませんか? ……とはいえ、この戦いを乗り切ればシテンさんは大きく成長するでしょうね。後ろ姿を見た時、なんとなくそんな気配を感じました」


『まぁ、Sランクにはなれるだろう。【墓守パンドラガーディアン】を二体も倒したのなら、その実力は本物ダ。ギルドマスターも認めざるを得まイ』


「そうなれば私に新しく後輩ができる訳ですね、実に楽しみです。先輩とか呼ばせてみましょうか」


『【界境かいぎょう】の小娘にそれやって嫌われたのを忘れてるだろお前』


 くぅん、と情けない鳴き声を、どうやってか水中で発したクララは、ふと思い出したかのようにユーリィに尋ねた。


「そういえば、さっきデカいのを下から持ってくるって言ってましたけど。対【墓守】の秘密兵器か何かですか?」


半分はそうだナ・・・・・・・。私のお気に入りだヨ』


「?」


『目には目を、歯には歯ヲ。ならば、怪物には怪物ヲ。

――【墓守】が誕生するずっと前から存在した、この迷宮本来の守護者・・・・・・ダ』







 【魔王の墳墓】、“元”62階。

 辺り一体を海水に呑まれ、既に原型を留めないほど破壊されたその階層に。

 怪物リヴァイアサン、そして熾天使ミカエルの石像が対峙していた。


『――来たか。我が半身』


『ハァッ、ハァッ……』


 そして、上層から泳いでやってきたもう一匹・・・・のリヴァイアサンが、息も絶え絶えに合流を果たす。

 二匹の見た目は瓜二つ。ユーリィの予想通り、二匹で一体の【墓守】。それがリヴァイアサンであった。


『だいぶ消耗しているな。このザマでは認めざるを得まい。レベル70程度・・の半身では奴には勝てないだろう』


『あの小僧はすぐにでもやってくるぞ! そちらの首尾はどうだ、ミカエルは殺せたのか!?』


『それなんだが――』




『――笑止・・



 そして、誰もいないはずの海の底。リヴァイアサンではない第三者の声が響く。

 その声は明らかに眼前の、輝く石像から放たれていた。


『この俺を殺すだと? 悪魔風情が笑わせてくれる』


『――馬鹿な!! 既に目覚めているというのか、ミカエル!?』


『俺を誰だと思っている。俺こそは熾天使の頂点にして女神様の右腕、熾天使ミカエルなり。貴様らの生臭い匂いが届いた時、とっくに俺は目覚めていたぞ』


 ピシリ、とミカエルの石像に、一人でに亀裂が入る。

 その隙間から太陽の如き、黄金の瞳が覗いていた。

 最強の熾天使ミカエルは、魔王の石化の呪いを自力で解除しかけているのだ。


『……この有様だ。我々は熾天使の実力を甘く見ていたらしい。既に何度か攻撃したが、あの輝く結界に阻まれている。奴を破壊するのにも時間が掛かるだろう』


『なんという事だ……ミカエルまでもが目覚めてしまえば、本格的に我々の野望が潰えてしまうぞ!!』


『であろうな。故に、我に考えがある』



 二体の【墓守】を動かしたにも拘らず、圧倒的不利な状況。

 それを覆すべく、片割れのリヴァイアサンは既に策を練っていた。


『何を――!?』


 そして次の瞬間。

 暗い海底にメキベキゴキと、何か固い物を砕く音が響いた。



 シテンは遂に、リヴァイアサンの元へと追いついた。


「なんだ、これ……」


そこで見たのは、シテンの予想だにしない光景であった。

殆ど光の差さない深海にて、まるで太陽ように輝く謎の石像。

そして……頭部だけ・・・・になってしまった、リヴァイアサンの残骸。


『フン……やはり全盛期には程遠い。蘇った以上、文句を言っても仕方ないのは理解しているがな』


 ――そして口元を血肉で汚した、もう一匹のリヴァイアサン。

 その凄惨な光景と、先ほどまでとは違う圧倒的な気配を感じ取り、シテンは何が起きたのかを察してしまった。




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【リヴァイアサン】 レベル:135

性別:オス 種族:魔物、魔族、悪魔、墓守(リヴァイアサン)


【スキル】

迷宮改変ダンジョンマスター……自在に迷宮の地形を操作する権能。

輪廻転生リインカーネーション……肉体の一部、または全てを、記憶とスキルを引き継いで新生させる。このスキルは死後にも自動的に発動する。このスキルは【魔王の墳墓】内でのみ使用可能。


【備考】

なし

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「喰ったのか……! 自分の片割れを!!」


『決着を付けるぞ人間。ここで海の藻屑となれ』

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