第166話 vsリヴァイアサン ④深海にて光り輝くモノ


(三人称視点)


(まさか、ここまで……! ここまで力を付けているとはッ!!)


 身体に大穴をあけられ、激痛に襲われながらもリヴァイアサンは思考する。

 しかしどう考えても目の前の少年に対し、勝算は思い浮かばなかった。


(【激流砲】は今の我が放てる最大威力の攻撃。それを真正面から貫く程の攻撃力! これがユニークスキル、【解体】の力なのか!?)


 傷口が再生する気配はない。

 仮に再生できたとしても、果たして正常に復元できるかどうか。

 そして、シテンはそんな隙など到底与えてはくれないだろう。



 故に、リヴァイアサンの次なる一手は。



「……!?」


 逃走。

 シテンから目を逸らし、水面に向かって一目散に逃げ出したのだ。


(逃げた!? いや、想定の範囲内ではあるけど……)


 流石に水中では、リヴァイアサンの方が移動速度が速い。

 満身創痍とは思えない機動力で水面に向かうリヴァイアサン。

 シテンは一瞬、反応が遅れてしまう。逃走が予想外だったのではない。その方向が予想外だったからだ。


(なぜ水面へ? 逃走するとしても、上じゃなくて下にだと思っていたけれど)


(まだ死ぬ訳にはいかない。シテンを倒せな・・・・・・・くてもいい・・・・・。まずはここから脱――)




「とーぅ」


 そして、逃げるリヴァイアサンの頭部に凄まじい衝撃が襲いかかった。


『ガァッ!?』


 今の攻撃で頭部を砕かれたリヴァイアサンだが、即座に再生する。

 彼の頭上には、逃走を妨害した犯人がゆらゆらと漂っていた。


「クララさん!」


「なんかこっち来たので反射的に殴っちゃいました。こうして見ると美味しそうなお魚さんですね?」


 Sランク冒険者【狂犬】クララ。

 水中に囚われたままの冒険者の救助をおこなっていた彼女が、接近するリヴァイアサンの頭部にチョップを喰らわせたのだ。


(あれは、Sランクの……! 今の攻撃はなんだ!? 【魔王の加護】をぶち抜いて我にダメージを!?)


「むー、やはり再生してしまいますか。ミノタウロスと同じで、ボコボコにはできますが決め手に欠けますね。やっぱりこのお魚さんはシテンさんにお任せします」


 ……クララの首元から、魚のエラ・・のような器官が見えている。

 パクパクと動くそれが、魚のように水中での活動を可能としているのが、リヴァイアサンにも窺い知れた。


(意味不明だ! 本当に人間なのか!? いやしかし不味い! シテンだけでなく、【狂犬】まで参戦したとなれば……)



「――ただまあ、あの巨体でちょこまか逃げられるのは面倒ですし。私も少しお手伝いしましょうかね?」



 そして、【狂犬】は再度手刀を構える。

 今度はリヴァイアサンではなく、空間そのものに狙いを定めて。


『貴様、何を――』


「なんちゃって海割り。あちょー」


 音速を越える手刀が、海中で振り下ろされる。



 次の瞬間。リヴァイアサンごと真っ二つに海が引き裂かれた。


『グェアァ!?』


「あ、相変わらずメチャクチャだ……」


「とりあえずこの水中フィールドを消せば、機動力も半減するでしょう。あとはシテンさんにお任せして、私は救助活動に戻りますねー」


 そう言ってクララは再び水面に戻っていく。

 彼女では【墓守パンドラガーディアン】を殺しきれない以上、役割を分担するのは正しい。

 そしてリヴァイアサンにとっては絶望的な展開だ。

 自分に有利な水中フィールドをメチャクチャにされ、水面に逃げる事もできない。

 更に時間をかけ過ぎれば、クララが参戦してきてしまう。そうなれば本当にどうしようもない。


(……何か引っ掛かる)


 そして、優勢な状況にも拘らず。シテンの胸中には、違和感が広がり続けていた。


(水面に向かえば人間達の反撃を受ける。それくらいリヴァイアサンにも予測はできたはずだ。にも拘らず下方向ではなく、上方向に逃げ出した。何故だ?)


 真っ二つになったリヴァイアサンが再生を終える。しかしその頃には、シテンの射程範囲に収まってしまっていた。

 あとは逆鱗、魔王の魂を解体すれば、決着はつく。二度と再生できずに、塩の柱と化すだろう。


(……何かから遠ざけたかった? 僕を下に向かわせない為に? だから下ではなく、水面に向かって僕を誘き寄せた?)


(クッ……予定より早いが、致し方ない! これ以上は耐えきれない!!)



「【迷宮改変ダンジョンマスター】――解除!」



 そして次の瞬間。

 迷宮を侵食していた海水が、一瞬にして消滅した。




 ――そして、迷宮62階。

 階層全体が海水に飲まれたその領域で、ほくそ笑む怪物が居た。


『いいや十分だ。お前の時間稼ぎ・・・・は十分に役立ってくれたよ――』


 壁も床も天井も、全てが海水へと変換させられた空間。

 その中でただ一つ、改変の影響を受けていない物体――ダンジョンの構造物ではないそれ・・が、熱と光を放ちながら水中に浮かび上がっていた。


『見つけたぞ、熾天使ミカエルの石像を』

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