第165話 vsリヴァイアサン ③【穿孔解体】

久々に連続更新です……!

◆◆◆


(三人称視点)


「師匠。僕のステータスなんかおかしくなってるんです」


 ――シテンとユーリィが迷宮の奥底で、地獄の修行をしていた頃。


「ああ、見事にひび割れてるナ。このままだとお前内側から身体が爆ぜて死ぬゾ」


「ハッ!??」


 ミノタウロス戦からシテンの身に起きていた異変を相談した所、サクッととんでもない答えが返ってきた。


「ステータスとは魂の輪郭。お前の魂に溶け込んだ【解体】スキルが急激に膨張した結果、魂と肉体を圧迫して亀裂を入れているんダ」


「膨張って……僕は一体どうすれば」


「スキルの急成長に肉体が追いついていないんダ。スキルを受け入れられる程の器……つまりは肉体を成長させなければ、冗談抜きで死ぬぞお前」


 つまりはレベルアップだナ、とユーリィは簡単に結論付けた。


「シテン。お前は私と同じ、ユニークスキルの使い手ダ。……だがユニークスキルはその出自・・故、非常に扱いが難しイ」


「……?」


「スキルへの理解度を深めロ。お前のスキルはどんな事ができるのか、どんな仕組みで機能しているのか、極限まで観察して理解しロ」


 ユーリィの修行は乱暴だが、言っている内容は概ね正しい。

 この頃にはシテンも、彼女の忠告には素直に耳を貸すようになっていた。


「お前の解体スキルは、お前だけのものダ。理解するのも使いこなせるのもお前しかいなイ。その暴れ馬を扱いきれないようじゃ、Sランクになるどころかお前が内側からバラバラにされるゾ」



(――あれから、僕は解体スキルをより深く理解した)


 そして現在。シテンの眼前には、リヴァイアサンの【激流砲】が迫っている。

 ユーリィとのやり取りを思い出しながら、シテンは自身の内側に意識を集中させる。


(これまで僕は、解体スキルを斬撃の一種・・・・・として扱ってきた)


 狂精霊との戦い。吸血鬼との戦い。ケルベロスと、クリオプレケスとの戦い。

 そして派生スキルである【遠隔解体カットアウト】と【臨死解体ニアデッド】。

 これまでの数々の戦いにおいて、様々な方法で敵を解体してきたシテン。

 しかしその殆どは、の攻撃として切断する方法であった。


(僕の中では“解体=刃物で獲物をバラバラにする”という図式が、無意識に出来上がっていたんだろう。冒険者になる前、僕が狩人をやっていたのも影響しているかもしれない。

――でも違う。このスキルの本質はそうじゃないんだ)


 そして、【狂犬】クララとの戦い。

 彼女には、あらゆる攻撃が通用しなかった。どれだけ鋭い斬撃を放っても、彼女の肉体に傷一つ付けられなかった。

 それを突破したのは、一点集中・・・・の攻撃である。




ではなく。攻撃範囲を狭め、その分威力を一点に集中させる。解体スキルはどんな形でも、僕の思うがままの形状に解体できる)



 理屈としては単純。しかしこれまでのシテンはイメージに囚われすぎていて、思いつかない発想であった。

 そのような技術が不要な程、解体スキルの威力が優れていたのも原因だが。



(イメージは槍。どんな相手でも貫いて、癒えない傷を与える。鋭くねじれた槍)



 シテンの身体から不可視のオーラが放出される。

 解体スキルを発動する厳密な条件は、“対象がこの不可視のオーラに接触している事”だ。

 そのタイミングでシテンがスキルを発動すれば、オーラに接触している範囲が解体される。

 そしてそのオーラを、シテンは粘土のように変形させる。

 シテンの思い描くイメージ。解体スキルの新たな領域レベル、点の攻撃へと。



(喰らえ――)


「――【穿孔解体ブレイクランス】」


 そうして新たに生まれた派生スキル、【完全解体パーフェクトイレイサー:穿孔】改め、【穿孔解体ブレイクランス】は。


 迫る【激流砲】を真正面から貫き、リヴァイアサンの胴体に風穴をあけたのである。




『――ガアアアアッッッッ!!???』


 リヴァイアサンが海中で激しく身をよじらせる。

 必殺の一撃であった【激流砲】。しかしシテンは海の藻屑とはならず、逆にリヴァイアサンが身体に穴をあけられた始末であった。

 水流も鱗も骨肉も、ありとあらゆる防御が機能しなかった。

 しかも。


『な、なぜだ。なぜ傷が回復しないいィィ!??』


 赤黒い臓物を溢すはらわたは、一向に再生する気配を見せなかった。

 先ほどの【遠隔臨死解体カットアウト・ニアデッド】を受けた際には、胴体が千切れても再生していたにも拘らず。



「……お前達は魂の一部が崩れると、正常に再生する事ができない。ミノタウロスとの戦いで学んだ事だ」


 かつて、シアの助けを借りてミノタウロスの魂を切り刻んだ時。

 再生したミノタウロスの腕が、枯れ枝のように細くなり再生した事があった。

 シテンが今行ったのは、そのさらなる応用。


「今の攻撃は攻撃力と再生阻害に特化した一撃だ。お前達みたいな不死身の化け物を完全に屠るためのね」




 ――肉体だけではない。

 リヴァイアサンの魂の輪郭ステータスには、見るも無惨な風穴があけられていた。



「次は、逆鱗をぶち抜く」

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