第163話 vsリヴァイアサン ①水底からの脅威


「しょっぱい……これが、海水」


 眼前に広がる水を舐めてみた。ただの水じゃなく、塩っぽい味がほのかにする。

 海というのは、こんな塩水が果てしなく広がっているのだという。

 迷宮都市の近くには海がないから、いまいち想像ができない。こんな形で海水を見るとは思わなかったが、できれば本物もいつかは見てみたいものだ。


「私も海水を見るのは初めてですね。迷宮に突然海ができるとは、世の中は不思議だらけです。あ、あんまり飲み込むと毒らしいですよ?」


「じゃあ、尚更これ・・を割らないようにしないと。……クララさん、準備はいいですか?」


「いつでもどうぞ。水中の遭難者は私に任せてください」



 そして僕は、ゆっくりと水中に足を進める。

 しかし僕の身体が濡れることはない。僕の首から下を包むように、透明なが存在しているからだ。

 水中において、呼吸手段を確保する手段の一つだ。たまたま居合わせた魔術師の人に掛けてもらった魔術である。


「いいか、その泡は五分程度しか保たない! それに強い衝撃を受けても割れてしまう、あの怪物の攻撃を受けないように注意するんだ!」


「ご忠告、ありがとうございます。念の為保険も持ってきているので、呼吸については大丈夫だと思います」


 そして首を引っ込めて、全身を空気泡の中に包み込む。

 身体に上手くフィットしてくれて、行動を阻害しないようになっている。

 泡に包まれた僕の背中に、クララさんが手を触れた。


「それじゃ行きますよ――ご武運を」



 次の瞬間。僕は一本の矢と化したように、一気に水中に突っ込んだ。

 クララさんが押し出してくれたお陰で、水中にも関わらず驚異的な推進力を獲得した僕は、瞬く間に水底へと突っ込む。



 ……悠々と海中を泳ぐその巨体は、すぐに見つかった。

 蒼銀に輝く鱗、視界に収まりきらないほどの巨体。

 魂を震わせる程の、圧倒的な悪意と力。


▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

【リヴァイアサン】 レベル:70

性別:オス 種族:魔物、魔族、悪魔、墓守(リヴァイアサン)


【スキル】

迷宮改変ダンジョンマスター……自在に迷宮の地形を操作する権能。

輪廻転生リインカーネーション……肉体の一部、または全てを、記憶とスキルを引き継いで新生させる。このスキルは死後にも自動的に発動する。このスキルは【魔王の墳墓】内でのみ使用可能。


【備考】

なし

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 間違いない。コイツが。


「お前が、リヴァイアサンか」

『待っていたぞ、探索者シテン』



「同時発動――【遠隔臨死解体カットアウト・ニアデッド】」


 【墓守パンドラガーディアン】相手に、隙など一分も与えない。

 巨大な敵影を捉えた僕は、即座に派生スキルを同時発動する。

 斬りたいものだけを斬る【臨死解体ニアデッド】。これならば、自分の攻撃で泡を割ってしまうこともない。


『ッ!? 早い!!』


 水中で弧を描くように、飛ぶ斬撃がリヴァイアサンに向かっていく。

 あれほどの図体だ、当てない方が難しい。

 防御力を無視して、【臨死解体ニアデッド】はリヴァイアサンの細長い胴体を輪切りにしてしまう。


 しかし。



『……これはまた、随分なご挨拶だな。いきなり胴体を真っ二つとは、礼儀がなっていないんじゃないか?』


 嘲笑するような、低い声が海中に響く。

 当然のように、リヴァイアサンの身体は元通りに復活する。

 ミノタウロスと同じ、常識離れの不死身のギミック。


「今更お前達と話す事なんて何もないよ。お前達は明確に、人類の敵だ」


『連れないやつだ。しかし、あの蛇に聞いていたよりも随分と強くなっている。ミノタウロスを倒して更に腕を上げたか』



 ミノタウロスは言っていた。【輪廻転生リインカーネーション】のスキルは、傷を再生するのではなく新生させるのだと。

 前世から今世へ。肉や内臓が潰れても、その部位を全く新しい存在として作り直す。

 破壊された部位とは全く別物扱いになるので、【解体】スキルの再生阻害効果をすり抜けてしまうのだ。この初見殺しの能力で、僕は一度敗北を喫した。


 そして目の前でリヴァイアサンが再生したのも、同じ原理だろう。

 ……けれど、そう何度も同じ手を喰らってやるわけにはいかない。


「首の後ろ、逆さの鱗」


『!?』


そこがお前の弱点だ・・・・・・・・・。魔王の魂はそこにあるな」



 さっきの一撃は、わざと再生させたのだ。

 今の僕には、他人の魂の形が見えている。もちろん、リヴァイアサンの分も。

 そして【輪廻転生リインカーネーション】を発動した瞬間、魂が在る場所が一際強く輝いたのが見えたのだ。


「その不死性。魔王からの借り物だろう。発動の瞬間はどうしたって魔王の魂が励起れいきする。そこをバラせば、お前達は肉体を保てなくなる」


『貴様ッ――』



 早くもリヴァイアサンの声色から、余裕が消え失せた。

 ……ミノタウロスの時とは違う。僕は明確に、【墓守】の脅威になりえている。




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【シテン】 レベル:80

性別:オス| 種族:人間

      |  /

【スキル】 \/

〇解体……ユニ\ークスキル。対象を望むままの形に解体することが出来る。

       /\

【備考】

なし

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲




 僕が強くなったのか、あるいは【解体】スキルの深淵を掴みつつあるのか。

 今はどちらでも構わない。目の前に立ちはだかる障害を、解体できるだけの力が手に入れば。



「来いよ【墓守パンドラガーディアン】。バラバラにしてやる」



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