第158話 最後の熾天使


(一人称視点)


 それは、俄には信じがたい報告だった。


『【魔王の墳墓】は現在水没しつつあル。言わずもがな【墓守パンドラガーディアン】の仕業ダ。既に大きな被害が出ているガ、冒険者ギルドは何も具体的な対抗策を打ち出せていないようダ』


「す、水没……!?」


 迷宮が水没? まるで意味がわからない。

 確かに迷宮には川や湖といった、水場のあるエリアも存在するけれど……


『【迷宮操作ダンジョンマスター】のスキルの力だナ。ミノタウロスの戦いを思い出してみロ。奴は迷宮の地形を・・・・・・操っていた・・・・・だろウ』

「……!」

『原理はアレと同じダ。迷宮の管理権限を強奪ジャックし、地形を意のままに操ル。今回の場合は地形を海水に書き換えられているナ』


 確かに、ミノタウロスは迷宮の地形を自在に操っていた。

 床や壁、天井を動かして冒険者を閉じ込めたり、杭のように変形させて串刺しにしようともしてきた。

 あれと同じ事が、ミノタウロス以上の規模で広がっている……?


「……いきなり会話に入ってきて、とんでもないコト言ってくれるなぁ。アンタは何処の誰なんや?」

『私はユーリィ。そこのシテンらの協力者であり、【尸解仙しかいせん】とも呼ばれているナ』


 そういえば、ガブリエルは師匠の声を聞くのは初めてなのか。昨日は特に喋らなかったし。

 師匠が簡潔に答えると、流石に【尸解仙】のあだ名には聞き覚えがあったのだろう。分かりやすく表情を歪めた。


「……。Sランク冒険者がなんでしゃしゃり出てきたんかは、今は聞かんとくわ。

それより、今の話はほんまなんか? 相手は誰や?」

『真実だとモ。現に私はその【墓守】と交戦中ダ。

――現れた【墓守】は二種。カニ型の魔物カルキノスと、巨大な海蛇リヴァイアサン。ガブリエル、貴様なら後者の方はよく知っているんじゃないカ?』


「「「――!?」」」


【墓守】が同時に二匹!?

どちらも初めて聞く名前だけど、一匹だけでも恐ろしい戦闘力を持つ奴らが複数現れたのなら、本当にやばい状況だぞ!?


「チッ……よりにもよって、アイツか。確かにアイツなら、迷宮を水没させるくらい訳ないやろな」


 そして師匠の報告に特に驚愕したのは、僕だけではない。ガブリエル、そしてウリエルさんも同じ反応を見せた。


「ガブリエル。リヴァイアサンというのは、確か……」

「うん。ウチが大戦で・・・・・・戦った魔物・・・・・や。ウリエルも知っとると思うけど、アイツは大戦時に魔王と共に死んだはずや。

……予想はしとったけど、大戦の時の魔王のしもべが、【墓守】に再利用されとるな。けど【尸解仙】、なんでアンタがそんな事を知っとるんや? 会ったことでもあったか?」

『その質問に答えるつもりはなイ。そして大人しく手を貸セ・・・・。奴らの目的は、恐らく熾天使ミカエルの捜索と破壊ダ。このまま奴らに好き放題されたら、貴様の大事な家族とやらがまた一人減ってしまうゾ』


「――――」


 その言葉を聞いた瞬間。

 ガブリエルは、表情を激変させた。

 驚愕と、歓喜と、憤怒が入り混じったような複雑な感情。

 師匠の告げた内容は、それだけの衝撃を彼女に与えたのだろう。

 いや、僕たちも例外ではないけれど。


「熾天使、ミカエル……?」

「……女神様に生み出された四人の熾天使。その最後の一人にして、リーダー格の男や。あいつも迷宮のどっかに埋もれとるとは思ってたけど、まさかこうも立て続けに見つかるなんてな」


 ガブリエルが見せた激情は、僅か一瞬だけだった。

 貼り付けたような表情に切り替えた彼女は、しかしどこか冷たい声色で師匠に問いかける。


「……で。Sランク冒険者様はウチに何をさせたいんや? どうせ協力せんと、聖剣は渡さんとか言うつもりやろ?」

『理解が早くて助かるナ。無駄に歳をくっているだけはあル』

「性格出てんで? 陰険女」



 あの、僕を挟んで喧嘩するのやめてもらっていいですか……?



『この事態を解決するにはシテンの力が必要ダ。貴様の転送魔法・・・・でこちらにシテンを送ってこイ』

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