第156話 二度の脅威


(一人称視点)


「取引の条件、ねぇ」


 そして日が昇り、僕たちは再びガブリエルの自室へと招待されていた。

 理由はもちろん、昨日の取引の続きだ。

 ガブリエルは僕たちに今後危害を加えない代わりに、僕の持つ聖剣を欲しがっている。


「……僕たちに危害を加えない。それに加えて二つ、条件がある」

「欲張りやなぁ。まあ言うだけ言うてみ?」


 全てではないとはいえ、彼女が聖剣を欲する理由も、彼女の思想も理解できたつもりだ。

 だけど共感はできないし、はいそうですかと素直に取引に応じる訳にはいかない。僕たちは僕たちなりの理由があって、ここに居るのだ。


「一つ。ここにいる彼女……リリスが【墓守パンドラガーディアン】にならないよう、協力してもらう事」

「……ふぅん?」


 そしてガブリエルの瞳が初めて・・・、リリスに向けられた。

 ……昨日から薄々感じてはいたのだ。ガブリエルが、魔族であるリリスを明らかに避けている事に。

 やはり、天使であるガブリエルは魔族を快く思っていないのだろう。

 敵対していたのだから、むしろその反応が普通だ。ウリエルさんが例外なのだろう。


「あ、あの……私リリスって言います。人を襲ったりもしませんので、悪い魔物じゃないです……!」


「……。まあ、ウリエル救出に一役買ったみたいやし? 身分を隠して入国した事自体は、特別に許したるけど。【墓守パンドラガーディアン】になるのを防ぐっていうのは、具体的にはどういうことや?」

「それは……」


 僕はリリスの正体と、必要な対策をガブリエルに説明した。


 リリスが【墓守パンドラガーディアン】の器として生み出された事。

 奴らはまだリリスに魔王の魂を注ぎ込み、【墓守パンドラガーディアン】として完成させようとしている事。

 それを防ぐためには、聖教会がようする七人の聖女の一人、【自由の聖女】フィデスの力で、器としての機能を封じる必要がある事。


「……なるほどなぁ。言われてみれば確かに、変な魂の形・・・・・しとるわ。確かに【墓守パンドラガーディアン】の特徴っぽいといえばそうかもしれんなぁ」


 ガブリエルはこちらの説明に、一応は納得したようだった。

 彼女も【墓守パンドラガーディアン】のことは把握しているらしい。

 それに、今の口ぶりでは僕と同じように、彼女も他人の魂が見えるのだろうか。

 人智を超えた存在である熾天使ならば、あり得る話かもしれない。


「ええよ。呑んだるわその条件。【墓守パンドラガーディアン】はウチにとっても明確な敵やし、それを一体封じられるなら拒否する理由もないわ」


 そして一つ目の追加条件はあっさりと受け入れられた。

 まあ正直、これは予想の範疇だった。あんな危険生物の企みを阻止できるなら、聖教会とて協力は惜しまないだろう、と。

 聖教会の魔族に対する敵愾心てきがいしんは伊達ではない。


「ただ、あの子はまだまだ子供やからなぁ……果たして素直に協力してくれるか微妙やな……一応、フィデスにはウチからゆうとくけど」

「そこはそちらでなんとかしてください。協力してもらえないなら取引は無しです」

「はいはいわかったわかった。で、二つ目の条件は?」


 そしていよいよ本題。二つ目の追加条件を尋ねられる。


「……二つ。【初代勇者の聖骸】を、こちらに譲渡する事」


 ガブリエルが、怪訝な表情を浮かべた。

 これは師匠、ユーリィの要求だ。

 それを使って何をするのかは、僕も聞かされてはいない。だからここからは、師匠が代わりに交渉を行う手筈だけれど……




『シテン、聞こえているカ』

「師匠?」


 しかし僕の持つマジックアイテムから流れたのは、とてもこれから交渉をするとは思えない声色の、師匠の声だった。


『取引は一旦後回しダ。今私は手が離せない状況にいル』

「……何かあったんですか」


『【墓守パンドラガーディアン】が出タ。しかも一匹じゃなイ・・・・・・。奴ら、お前が居ない今の内に暴れ回るつもりのようダ』

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