第151話 喪われた名前
「ガブリエル!! 貴方は自分が何を言っているのか、理解しているのですか!?」
聖教会と勇者そのものをなくし、新たな時代を作り上げると宣言したガブリエル。
それを聞いたウリエルさんは、
「私たちは、人間を救うために女神様に作られた存在です! 貴方の行いは、私達の存在意義に反している!! 同じ天使として、貴方の行いは到底許容できません!!」
「……。まあ、ウリエルは昔っから真面目やったからなぁ。正直こうなることは予想できとったわ。
けど、今回ばかりはウチも引き下がる気はないよ。聖教会も勇者も潰す。そしてウチら天使が人間に構わずに、平穏に暮らせる時代を作る。例えその過程で、どれだけの人間共が擦り潰されたとしても」
二人の熾天使の衝突は、どちらも一向に引き下がる気配を見せなかった。
「理解できません……! こんな事が知れたら、女神様が黙っていませんよ!?」
「――なぁ、ウリエル。アンタ本当に気づいてないんか?」
そして、ガブリエルは更なる衝撃的真実を、ウリエルさんに容赦無く告げた。
「ウチが聖教会を裏から操って、女神様の名を騙って勇者を生み出して、こんなに羽が真っ黒になるまで好き放題にして。
ここまでやってウチが何の裁きも受けてないの、おかしいやろ?」
「ガブリエル、な、なにを」
「鈍いアンタでも、流石に薄々察しとるやろ?
――女神様が、もうこの世におらん事に」
◆
かつてこの世界に魔王が現れ、魔物の軍勢を率いて地上を侵攻し始めた時。
突如天界から女神が現れ、天使を率いて魔王と戦ったという。
そして戦う術を持たなかった人類に勇者の力を与え、種族の垣根を超えて協力しあい、魔王を退けたのだ。
――天使達の多くは戦火に散り、生き残った天使や女神様は傷を癒すために、地上から姿を消したとも伝えられている。
子供から老人まで誰でも知っている、神話時代のおとぎ話。
その女神様が、既に死んでいる――?
「――う、そ」
「嘘やない。ウチが女神様の動向を、調べへん訳ないやろ?
――魔王との決戦の後、女神様は
数千年掛けて調べ上げた結果が、コレや」
「そんな、筈はありません……女神様は、私たちを創造した偉大な存在です。そのお方が、魔王に敗れるなど」
「多分アンタは、最終局面の前に石化してもうたから、その場面を見てなかったんやろなあ。
けど、結果は結果や。女神様は魔王との戦いに敗れた。そして魔王と数多くの魔物、天使と共に、あの迷宮【魔王の墳墓】に沈んだんや。アンタと一緒にな」
「やめて、ガブリエル。私は」
「やめへんよ。アンタはまず、この世界の現状と真実を知らなあかん。
それに証拠はまだある。初代勇者パーティーの一員として、共に魔王と戦ったアンタなら知っとるやろ? あの魔王の恐るべき権能を」
「あ、ああぁ」
「
――僕の脳裏に、とある光景が蘇る。
師匠に連れられ、迷宮99階に向かった時。
そこで僕は、
意識もなく、自我もなく、只々自動的に僕を殺戮した存在。
あれのステータスには、
「――おかしいと思わへんかったか? この世界の存在が、誰も女神様の名前を覚えとらん事に」
◆
そして、聖国から遠く離れた場所。
魔王の墳墓、その深部にて。
「ガブリエルの奴メ。旧友と再会したからか、随分とお喋りだナ」
マジックアイテム越しにシテンとガブリエルの対談を聞いていた【尸解仙】ユーリィは、静かに呟いた。
ガブリエルの語った内容は全て真実だ。そしてそれを、ユーリィはとうの昔に把握していた。
「シテンにまた質問攻めにされそうだナ。……私の
しかし、ユーリィの独り言はそこで止まる。
彼女が迷宮中に貼りめぐされた
「もう動き出したカ。想定より早い復帰だな――【
◆
そして、第二の災厄が姿を現す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます