第150話 新たな時代


「え……?」


 愕然とした声を漏らしたのは、シアだった。

 今、ガブリエルは……人間がラファエルを殺した、と言ったのか?


「――ウチが傷を癒すため、数百年の眠りについた後。ラファエルは戦争で疲弊した人類の復興に、尽力してたんや。……けれどウチが長い眠りから目覚めた時。そこにラファエルはおらんかった」


 そしてガブリエルは語り出す。この世界に隠された、重大な真実を。


「ラファエルは、あの子は使命をほっぽり出して勝手にいなくなる子やない。ウチは必死に行方を探した。世界中を飛び回って、聖教会も掌握して、ありとあらゆる場所を調べ尽くした。

……数百年掛けて、ようやく見つけた時。ラファエルはもう、その姿やった」


 淡々と語るガブリエルは、何の表情も浮かべていなかった。

 怒りも、悲しみも浮かべる事なく。……いや、あるいはもう、とっくにその感情すら――


「……人間共のおもちゃにされとった。石像はバラバラに砕かれ、そのパーツが世界中に散らばっとった。

土の中、海の底、ゴミ溜め、魔物の巣。ありとあらゆる場所から、時間を掛けてラファエルの一部を探し出した。

……その中には、愚かな人間共も含まれとった。

例えば悪趣味な美術品として、貴族や王族が飾っていたり。ご加護があると称してラファエルの身体を、聖骸としてまつりあげている村もあった」

「そんなっ……!?」

「アイツらはその石片が何であるかを薄々知っていたにも関わらず、自分らの欲を満たすためにラファエルを弄んだんや。……ウチが眠っている間に、ラファエルの身に何があったのか。詳しいことはまだわかっとらん。けど、自分勝手な理由でラファエルをバラバラに引き裂いたんは、紛れもなく人間や」


 ……ラファエルの石像は、その大部分が砕かれ、欠損している。

 数百年、あるいは数千年という途方もない時間と労力を費やしても、彼女の姿を完全に復元することはできなかったのだろう。


「なあ、ウリエル。ウチらはこんな仕打ちを受けてまで、人間を救わなあかんのか?」

「ガブリエル……?」

「確かにウチらは、人間を助けるために女神様に生み出された存在や。でもウチらにだって、自分の意思や感情がある。

……こんな惨い目に遭ってまで、ウチらは人間を助けなきゃあかんのか?

可愛い妹分を石像にされ、粉々に砕かれ、美術品やお守りとして自分勝手に使われて、しまいにはゴミとしてほかされる。あれだけ人類に尽力したラファエルでさえ、戦争が終わったらこの有様や。

そんな人類に、ウチらは寄り添わなあかんのか?」


 ――そして、ガブリエルは翼を広げる。

 僕たちに見せつけるように。その意思を、この世界に刻みつけるかのように。

 ……純白の片翼。そのもう片方から、漆黒の翼が現れる・・・・・・・・

 ウリエルさんの両白翼とは違う、白と黒の翼。


ウチはもう・・・・・人間なんて救わない・・・・・・・・・

人間共の都合なんか、どーでもいい。家族同胞さえ平穏にこの世界で過ごせるなら、それでいい。

そのためなら教会だって、都合の良い手駒にする。聖女も勇者も、全部ウチの手駒や」

「ガブリエルっ……!」

「そのための勇者イカロス。そのための零落れいらくや。……もうこの世界に、聖教会なんてもんは要らん。そして勇者も要らん。どっちも勝手にウチらと女神様に頼って、あやかってるだけの力やろ? そんなもんが存在する事自体、寒気するわ。

だから消す。そして取り上げる。本来ウチらの管理する力だったものを、あるべき元の場所へ返す。

天使の力は天使が使う。ウチらが人間を介護するこれまでの時代は、もう終わりや」

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