第146話 教皇との謁見


 雲の上まで届く程の、天高くそびえる白い塔【バベル】。

 それを中心に取り囲むように、首都バビロンは栄えている。

 聖教会の総本山。女神がこの世界に初めて降り立ち、勇者と魔王の伝説が始まった場所だ。


「建物や人々から、なんだか清潔感? みたいなのが漂ってます!

やっぱり聖教会の人達は身だしなみに気をつけているのでしょうか? 私は迷宮都市のちょっと散らかった雰囲気も好きでしたが」

「確かに、ネクリアと比べると落ち着いた雰囲気だね。僕も聖国に来るのは初めてだ」


 リリスは初めて見る聖国の景色に、興奮を隠しきれていないようだった。

 今、彼女は目立たないように、マジックアイテムの力で姿を隠してもらっている。

 周囲の人から魔族であると認識されないようにする効果があるらしい。師匠が持つアイテムの一つを、借りているのだ。


『さて、今日は観光に来た訳ではないだろウ? さっさと我々の要件を済ますとしようカ』

「えー、ちょっとくらい観光したいんだけど。私もこの国に来るのは初めてだし」

「ソフィアと同意見ですね。私は観光……というより、現在の聖教会の姿を直にみ見ておきたいという理由ですが。……会談が終わって時間が余ったら、一緒に回りましょうか」

「ウリエルさんと一緒ですと、凄く目立っちゃいそうですね……」


 ……そんな和んだ会話をしていると。

 僕たち一行に近づく、一団がいる事に気づいた。


「あれは……」

「……純白の鎧。聖教会が抱える戦力の一つ、【聖騎士】達ね」


 女神と勇者に仕えるために発足したとされる騎士団だ。

 その中から身分の一番高そうな、老境の男性が話しかけてきた。


「冒険者シテンと、その一行だな。――我々聖騎士一同、到着を心よりお待ちしていた。私は騎士団長を務める、ラトムという」

「……シテンです」


 どうやら出迎えにきてくれたようだ。

 ……しかしこの人の声。どこかで聞き覚えがあるような……?


「早速だが、聖教会の本拠地、【バベル】までご同行願いたい。

教皇ハウネス様がお待ちだ」



 【バベル】の中は空洞になっており、そこに聖教会の本拠地になっている。塔そのものが、と言うべきだろうか。

 塔のふもとまで進むと、既に連絡が入っていたのだろう。すんなりと僕たちを中に通してくれた。


「――――」


 塔の外観はこれといって飾りのない、ただの円柱形に見えたが、内部は複雑な構造になっているようだった。

 用途に応じて様々な階層、部屋に分けられており、僕たちはその一室。

 恐らくかなり上の階層の、大きな広間に通された。


「……ここ、調度品とかすごく高そうですよ。もしかして凄く偉い人の部屋だったり……?」

「今の聖教会で一番偉い人って……もしかして教皇?」


 奥には豪華な装飾が施された、大きな椅子が一つ。

 そこに座るのは、髭を生やした初老の男性。白い法衣を身に纏っている。

 もしかしてあれが聖教会のトップ、教皇……?


「ハウネス様。冒険者シテンとその一行をお連れしました」

「――ご苦労。よくぞお越しになりました。冒険者シテン、聖女シア。そして熾天使ウリエル様。

私がこの聖教会の教皇を務めております、ハウネスと申します――」




「――あーあー、ええよハウネス。そんな堅っ苦しい挨拶いらんいらん。あんたの出番はお出迎えまでや。お勤めごくろーさん」


 教皇ハウネスの挨拶を遮って、そんな特徴的な訛りの女性の声が、突如広間に響き渡った。


「上……!?」

『……出てきたカ』


 声の方向、上に視線を遣ると……そこには一人の天使・・がいた。

 透き通るような青い髪。怪しく光る橙色の瞳。

 そして片翼・・の翼と、頭上に浮く光輪。


「初めまして、冒険者シテン。――ウチはガブリエル。そこのウリエルと同じ、女神様に仕えた四人の熾天使してんしの一人や。そして自分で言うのもなんやけど、聖教会の実質的な支配者や。

――末長ーく、よろしゅうな?」

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