第140話 【狂犬】vs【尸解仙】

(前回までのあらすじ)

ミノタウロスを退けたシテンは、更なる強さを求めてSランク冒険者【尸解仙】ユーリィの元に弟子入りする。しかし聖剣とシアを巡る問題は解決しておらず、決着を付けるため聖国へ向かう事に。そこへSランク冒険者の【狂犬】が立ち塞がり……


◆◆◆


「おや、美味しそうなスケルトン達ですね。じつは最近お気に入りの骨が壊れてしまいまして。丁度、噛み応えのある骨を探していたのですよ」


 四方を骸の兵に囲まれたクララさんは、しかし全く動揺した気配を見せない。

 あの兵士は師匠のスケルトンソルジャーだ。師匠の力で強化されたその戦闘力は、Aランク冒険者と同等。それが集団ともなれば、ケルベロスだって難なく倒せるだろう。


『コチラの勝利条件は“私が国境を超えること”ダ。聖国に入れば、いくらあの駄犬でも追ってはこれまイ。……だがそれだけだと、私にとってはイージー過ぎるナ』




 師匠が変なこと言いだした。猛烈に嫌な予感がする。



『よしシテン、お前も混ざレ。Sランクの力を実感しておくのは良い修行になるだろうウ? 二人であの駄犬を叩きのめすゾ』


「……はっ!? いやいや無理ですって!! Sランク同士の戦いに巻き込まれたら命が幾つあっても足りませんよ!!」


「おっと、私のこと舐めてますか? 今の言葉でやる気出ちゃいましたよ?」



 向こうもやる気満々じゃん!! どうなってるんだここ街中だぞ!?



「ねえ師匠、今からでも穏便な手段に変えませんか?? なんで都市内で揉める必要があるんですか??」


『心配するな、昨日のように死んでもまた蘇らせてやル。……ああ、但し直撃は喰らうなよ? 塵も残さず粉々になれば流石に蘇生は不可能だからナ』


「安心できる要素が皆無なんですが」


『フン、我儘な弟子ダ。なら、条件を加えよウ――“【狂犬】に一発当てろ”、そうしたら大人しく引っ込んでても良イ』


「いや、そういう問題じゃ――」


 制止の言葉を零すも、間に合わない。


『いくぞ馬鹿犬。私の邪魔をすればどうなるか、今度こそ骨身に刻んでやル』


「馬鹿とは何ですか馬鹿とは。私ほど利口で忠実な犬は居ませんよ?」


 迷宮都市のど真ん中で、Sランク同士の小競り合いが始まってしまった。

 ……弟子入り二日目にして、既に僕は逃げ出したくなってきた。



 平和な街並みのど真ん中に、突如骸の山が湧いてでる。

 瞬く間に山のようになったそれらは、まるで巨大な一つの生物のように、うねりを上げてクララさんの体を飲み込んでいく。


『所詮は名も無き屍。奴を倒せるとは思っていないが、足止めくらいにはなるだろウ』


 ……操る死体の数が尋常じゃない。

 あのアンデッド一体一体がAランクモンスターに匹敵する強さ。あれに囚われたら僕でも無事では済まないだろう。

 動作モーションも、スキル名の宣言もなく、何の下準備もない街中でここまで呼び出せるなんて。


 慌てて逃げ出す通行人達、そしてそばで事の成り行きを見ていた(多分、ついていけてなかった)シア達女性陣の内、ウリエルさんが真っ先に正気を取り戻した。


「あ、貴方は何を考えているのですか!? これ程の力を街中で解き放てばどうなるか――」


『黙ってロ。これは必要な事ダ・・・・・。一見派手だが制御はしてあル。無用な被害を出すつもりは無イ』


 確かに、蠢く骸の山は通行人を避けて、クララさんだけを潰しているように見えた。

 周囲の建造物にもダメージはない。


『お前こそいつまでそこにいる気だ? ウリエル。この小競り合いにお前の出る幕はなイ。大人しく聖女とリリスを連れて、迎えの馬車に潜り込んでロ』


「……すいません、ウリエルさん。もう言っても聞かないっぽいので、シア達をお願いできますか? 万が一巻き込まれでもしたら大変なので。僕らは後から合流します」


 師匠とは出会ってまだ日が浅いが、それでも修行の過程で分かったことがある。

 彼女はやると言ったらやる。だからクララさんともこの場でやり合うつもりだし、僕を巻き込むつもりなのも嘘じゃない。

 ……万が一、何かあって師匠が同行できなくなったら、こっちも困るしね。こうなったらとことん付き合うしかない。


「…………」


 ウリエルさんは僕と師匠を交互に見やって、悩むそぶりを見せたが……


「……わかりました。ここはシテンさんの言葉を信じます。シアさん達を連れて迎えの馬車で待っていますから、無事に帰ってきてくださいね?」


 最終的には頷いて、シア達を連れて街の外の方へ向かっていった。


『……ようやく覚悟を決めたカ。まあここまでお膳立てしておいて逃げるようでは、Sランク入りなど夢のまた夢だからナ』


「余計なお世話ですよ……ホント。後でギルドに自重聴取されたら、全部師匠のせいにしときますからね」


 Sランクへの認識を改める必要がありそうだ……僕の想像以上に、彼らの感覚は狂ってる。


『――ホラ、来るゾ』


「!?」


 直後、骨の山が弾け飛び、黒い影がこちらに飛びかかってくる。

 それが僕の首元に届く寸前、地面から伸びた新たな骨が行手を阻んだ。


「あぶなっ」


「おっと、防がれてしまいましたか」


 黒い影の正体はもちろん、クララさん。

 師匠の攻撃で身につけていたボロ布は剥がれ、裸体を惜しげもなく晒している。

 しかしその素肌に傷は一切見当たらない。どんな防御力してるんだこの人。


『おい、ボサっとするなヨ。お前が首から掛けているマジックアイテム、それが壊されたら私は遠隔干渉できなくなる、つまり我々の負けダ。死ぬ気で守れヨ』


「わかってますよ、もう……!」


「……さっきから気になっていたのですが」


 飛び退いて距離をとる僕を、クララさんは追ってこない。

 代わりに小首を傾げ、興味深そうに僕の顔を見つめていた。


「ユーリィ、あなたそこのシテンさんを弟子にしたんです? どういう風の吹き回しでしょうか」


『――何、たまには後進の育成でもしてやろうと思いついただけダ』


「え……私以外に友達のいない、万年コミュ障の貴方が……? 何か変なものでも拾い食いしたのでは?」


『貴様にだけは言われたくないワ』


 そんな軽口を叩きながらも師匠は骨の山を量産し、それをクララさんは埃でも払うように吹き飛ばす。


 ……まるで嵐の中に突っ込んだ気分だ。一歩間違えばズタズタに引き裂かれてしまう。


「まあ、貴方の悪巧みは今に始まった事ではないので、詮索するのはやめておきましょう……ですが」


「ッ!」


 その言葉を聞いた瞬間。総毛立つような緊張感が僕の身を襲った。

 彼女が、クララさんが僕の事を見ていた・・・・

 いや、さっきまでも僕のことを視界には入れていた。しかし今分かった。あくまで風景の一つとしてであって、これまでは僕という存在を、きちんと見てはいなかったのだろう。

 だが今は違う。狩るべき獲物として、敵対者として。僕の事を完全に捉えている。


あの・・ユーリィがわざわざ弟子にする人間……どんな人間なのか、どんな強さなのか。俄然、興味が湧いてきました」


 ――クララさんの姿が変貌する。

 犬歯が伸び、鋭利な牙が口からはみ出す。手足の爪が伸び、地面に食い込む。


「ちょっと私と遊びましょう。貴方が兎で、私が猟犬――楽しい楽しい追いかけっこです」


 師匠だけでなく、完全に僕も標的ターゲットにされてしまった。

 あいにく拒否権はなさそうである。


◆◆◆

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