第139話 狂犬は常識犬


「うわ出た」


 僕らの前に立ち塞がっていたのは、案の定というべきか、Sランク冒険者の【狂犬】、クララさんだった。

 相変わらず着てるのか着てないのかよく分からない格好で、通せん坊をするように両手足を広げている。


『……。ここでお前を寄越すカ。念のため聞くが、用件は何ダ?』


「無論、迷宮都市外への移動阻止です。ギルドの番犬として、ここは通しませんよ?」


 彼女の言動は普段から意味が分からないけど、今回はその行動理由も意味不明だ。


「クララさん、僕らは聖国に行きたいんですけど、なぜ僕らの邪魔をするんですか?」


「昨日振りですねシテンさん。無事にユーリィと会えたようで何よりです。……そして私はシテンさん達の邪魔をしているのではありません。正確には、そこのおバカユーリィの邪魔をしているのです」


『貴様にバカと言われるとは思いもしなかったヨ』


「……?」


 僕らではなく、ユーリィさんを足止め?







「そこのユーリィは、なんと出国申請をギルドに提出していないのです。このままネクリアを出ればユーリィは不法出国者になってしまうので、こうして私が足止めに来たわけです。わんわん」





「何やってんの師匠????」


『いいだろ別ニ。あんな時間が掛かるだけの手続き、時間の無駄ダ』


 ていうか出国申請??

 そんな手続きあったっけ……? 僕らギルドに何も言わないまま出国しようとしてるけど。


「その様子、やはりご存じなかったですか。私達Sランク冒険者は、ギルドの許可なく迷宮都市の外に出ることを許されていないのです。何せ私達は単独で国を滅ぼせる戦力の持ち主ですからね。他国に無用な緊張感を与えないように? という理由で、簡単には国外には出られないのです」


「えっ……そんな規則があったんですか?」


「これが適用されるのはSランクだけですからね。一般の方が知らないのも無理はありません。あ、申請を忘れたおバカユーリィ以外は、通っても大丈夫ですよ」



 うん、これ100%師匠が悪いのでは?

 必要な手続きを忘れたから【狂犬】に引き留められる。残念ながら当然の結果だ。


『クララ。お前が仕事熱心なのは分かっタ。だがここに居るのは私の分身だゾ? 本体は今も迷宮の中ダ。それでも出国申請は必要なのカ?』


「ダメだから私が呼ばれたんじゃないですかね? 私もギルドのお仕事じゃなきゃユーリィの邪魔なんてしませんよ」


『無駄な力は使いたくないんだがな……友人のワガママだと思って、見逃してはくれないカ?』


「公私のけじめはしっかりするタイプなんですよ? 私。いくらお友達でもダメなものはダメです。社会人として常識ですよ?」


『お前が常識的な対応すると無性にイラつくナ』


 師匠の説得も効果なし。

 まぁ今回の件は師匠が全面的に悪いししょうがない。


「どうするんですか師匠。今から申請出しますか?」


『馬鹿を言うナ。今から出すんじゃ遅すぎるし、私の場合は十中八九、そもそも許可が下りないだろウ。決して申請を忘れていたわけではなイ』


「つまり?」


『強行突破ダ。あの駄犬を撒いて、さっさと迎えの馬車に乗り込むゾ』


 そしてクララさんを取り囲むように、何もない所から骸の兵士が現れた。

 ……え? まじですか?


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