第135話 同類
「ほウ」
ユーリィさんが出した条件に対し、僕が付け加えた条件は『僕を弟子にする事』。
彼女には一度助けてもらった事実があるし、ある程度は信用できる。そしてSランク冒険者ともなれば、その実力に疑いようはない。
その彼女に強くなる方法を乞う事ができれば、僕はもっと強くなれるだろう。
この千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかない。
「僕はミノタウロスとの戦いで実感したんです。……僕とその家族、友人の周りには敵が多すぎる。今のままじゃいずれ限界がくる、と。だからまたギリギリの戦いをしなくて済むような……誰かを守れるような力が欲しいんです」
「………」
ユーリィさんは考え込むように、手を顎に当てて黙りこくっている。
無論、僕もこの無茶な要求がそのまま通るとは思っていない。
最初に無茶な要求を出しておいて、そこから少しずつ要求レベルを下げていく。そうすれば本命の要求が通りやすくなるという、どこかで聞いた取引の技術だ。
最低でも、強くなれる方法のヒントでももらえればいい。
「分かっタ。それでいこウ」
と思っていたのだが。
「え? いいんですか?」
「考えたが、お前を弟子にして手元に置いておくという選択肢は、存外悪くはないと思ってナ。……知っているカ? 現代において、ユニークスキルを持つ者はたった五人しか居ないそうダ」
「五人……」
そうだったのか。
元々数が少ないとは知っていたけれど、僕の同類はそんなに少ないのか。
「共和国の【酒女】、帝国の【天眼】、聖国の【勇者】、迷宮都市の【解体】。私の知る限りではこれで全てダ。その一人であるお前を確保しておくのは、いずれ私にとっても大きな利益を生み出してくれるだろうと考えた結果ダ。何せ“ハズレ”の多いユニークスキルの中で、お前はミノタウロスの討伐という明確な結果を出しているからナ」
「……なるほど、つまり五人目、最後の一人を含めれば」
「知っていたか。そう、最後のユニークスキル持ちは、
お前を私の手元に置いておけば、私を含めて現存するユニークスキルの
その噂は前々から知っていた。
Sランク冒険者【尸解仙】ユーリィは、ユニークスキルの持ち主である、と。
だからこそ、僕は彼女に弟子入りを志願したのだ。ユニークスキルを持つ同類として、新たな見識を得られるのではないかと期待したからだ。
「この提案を受けることは、私なりの数少ない同類への親切心でもあるのサ……だが弟子になるとなれば、私はお前に今後いくつかの要求を出すこともあるだろう。強制とまでは言わないが、お前はそれで良いのか?」
「……覚悟の上です。けど内容によりますよ? 例えば身内に迷惑が掛かるような頼み事だったら、断固拒否させて貰います」
「クク、それで良イ。精々仲良くやっていこうじゃないカ」
彼女のことを完全に信用した訳ではない……とはいえ、最短、確実に力を手に入れるならば、ある程度のリスクは許容しなければいけないだろう。
どんな要求をされるのかはわからないが、僕一人だけで収まる範疇の要求なら、授業料として支払うつもりだ。
「……とはいえ、流石にそのままの条件で弟子入りを飲んでやる訳には行かなイ。多忙極める私の時間を、お前のために割いてやる訳だからナ。故に私からも一つ、条件を付け加えさせてもらウ」
「な、なんでしょうか……」
まさか弟子入りを承諾してくれるとは思っていなかったので、内心まだ驚きで整理ができていない。
けれどせっかく掴んだチャンスをふいにする訳には行かない。余程の条件でない限り、受け入れようと思う。
そして、ユーリィさんが出した弟子入りの条件とは。
「お前、聖国から呼び出しが掛かっているだろウ? 聖女シアと一緒にちょっと行ってこイ」
◆
「――という訳で、流石に僕だけで勝手に判断できないので来てもらいました」
そしてリリスの隠れ家に戻った僕は、ユーリィさんを連れてきた理由を皆に説明した。
けど流石に展開が急すぎたのか、みんな理解が追いついていなさそうだった。
「……えっと、シテンが弟子入りするのは分かったけど……それと聖国へ向かうのに、何の因果関係があるのかしら」
戸惑うみんなを代表して訪ねてきたのはソフィアだ。ごもっともな意見である。
『私が今から説明しよウ。そのためにわざわざ出向いたのだからナ』
出向いたとは言っているが、ここに居るのは僕と対話したユーリィさんの分身ではない。
僕の首にかけられた首飾り(何かの骨で作られた、恐らくマジックアイテム)を使って、遠距離通話をしているのだ。
どうやら分身であっても、本人は顔を
『シテンには予め説明しているが、聖国――“エデン”は聖教会の中心。一見敵の巣窟に突っ込むような愚挙に見えるが、実は意外とそうでもなイ』
嘲るような笑い声が漏れてくる。彼女も聖教会に対しては、良い印象を抱いていない様に見えた。
『なぜなら、私とそこのウリエルが同行するからダ。私もあの国に用事があるからナ。この二人を相手に無茶を通すような戦力は、今の聖教会には残っていなイ』
「……私の事も調査済でしたか。確かに近々エデンには向かうつもりでしたし……彼らと共に往く事は、やぶさかではありませんが」
ウリエルさんも僕らが入院している間に、一通りお礼の挨拶は終えたと言っていた。最後にリリスにお礼を告げた後、聖国へ向かうつもりだったらしい。
『故に、お前たちが考える程聖国は危険な場所ではなイ。その上で聖国へ向かう幾つかの必要性とメリットを伝えよウ。――まずはリリス。お前の要件からダ』
「……はい???」
突然名前を呼ばれて素っ頓狂な声を漏らすリリス。
迷宮の外に出られないリリスは、今回の話も蚊帳の外だと思っていたのだろう。
しかし今回は事情が違う。最初に聞いた時、僕もにわかには信じられなかったけれど……彼女の問題は一刻も早く解決する必要がある。
『お前は自分の出自を把握していない様だから、この際私からハッキリと告げてやろウ。――貴様の正体は、【
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