第133話 お友達になってくれませんか?
(三人称視点)
「シテンさんに告白って、どどどういう事ですか!?」
「もちろん、異性としての告白という意味です! 私のほうから告白しました!」
「ひゃああああ……」
シアの整った顔立ちが瞬く間に朱に染まる。
意中の人に告白したと聞いて、シアは一人の女性として顛末を聞かずにはいられない。
「それで、どうなったんですか!? シテンさんは何と!?」
「今はシテンさんのお返事を待っている所です!」
「そ、そうなんですね……じゃあまだ交際関係になった訳じゃないんだ……」
「あ、でもキスしたり裸になって抱きついたりはしましたね♥」
「!!?!?!?」
安堵するのも束の間、リリスの爆弾発言に絶句するシア。
シアとて年頃の少女だ。商いを営んでいると、
むしろ下手にそういった情報を聞きかじっている分、同年代の少女にしては妄想力豊かな方だと言えた。
「な、なんで! どうしてそんな事になったんですか!? もしかしてもう最後まで……!?」
「! では私とシテンさんとの馴れ初めを、この機会にじっくり語っちゃいますね!」
そしてリリスによる、長くて刺激的な一人語りが始まった。
「シテンさんとは出会って間もないですが、とっても魅力的な男性で、強くて優しくて、憧れの人で――」
「は、はいぃ……」
「好きで好きでたまらなくて、居ても立っても居られずに……つい、シテンさんの寝所に潜り込んでしまいまして――」
「ふぇっ!??」
「そのまま思いの
「な、なななな……」
リリスから刺激的な発言が飛んでくるたび、シアは頬を赤らめながらリアクションを見せてしまう。
シアの【鑑定】スキルには通常の【鑑定】スキルとは異なり、相手の考えていることを読み取れる能力がある。
意中の人の情話をいきなりぶち込まれて軽くパニック状態になっているシアは、無意識にその能力をリリスに行使していた。
その結果、リリスが垂れ流すシテンとの扇情的な光景(※脚色含む)と、シアの妄想が混じりあって、シアの脳内はだいぶひどいことになっていた。
「告白の返事は、一旦保留になりましたが……それでも私との関係を真剣に考えてくれる事が嬉しくて、キ、キスまでしちゃいまして、そのままシテンさんと夢の中で――」
「わ、わ、わーーーーっっっ!!!!!!」
慕っていたお兄ちゃんがいつの間にか大人の階段を昇っていた(※昇っていない)事実を刷り込まれ、沸騰していたシアの頭はついに限界を迎え爆発した。
見習い聖女は、完全にサキュバスに翻弄されていた。
「――私が急かしすぎたせいで、結局途中で終わってしまいましたが、いつかは続きを……あれ? シアさん?」
「シテンさんが女の人と……シテンさんに恋人が……いえでも本人が幸せなら、私は家族として祝福するべきで……けれど……ふしゅぅぅぅ」
「わっ、顔が真っ赤ですよ!? しっかりして下さい!」
オーバーヒートしてしまったシアを慌てて落ち着かせること数分。
やや落ち着きを取り戻し再起動したシアが、心情を整理するようにポツリと呟いた。
「リリスさんが、シテンさんのことが大好きなのは、よく伝わりました。だから、私は――」
「――シアさん、今度は私からの質問なんですが、シアさんはシテンさんのこと好きですか?」
逆に質問されて固まるシアだったが、言葉の意味を解釈した途端、頬を赤らめて視線を晒してしまった。
それだけで、リリスにとっては十分な解答だった。
「えへへ……やっぱりシアさんもシテンさんの事が好きなんですね。あんな素敵な人がお兄さんだったら、当然です!」
「うぅ……その、しかし……」
シアも今更、シテンに対する想いを誤魔化すつもりはない。
しかしそれを伝えられるかどうかはまた別の話だ。シアは自身の出生にまつわる、大きな問題を未だに抱えている。
「大丈夫ですよ、シアさん」
そんなシアの感情を――不安と葛藤を読み取ったリリスが、安心させるように穏やかな声色で話しかける。
「シアさんが何か悩み事を抱えていることは、私にもなんとなくわかります。好きな人に気持ちを伝えられないなんて、とっても苦しいですよね」
「――――」
「私もよければ、シアさんの力になりたいんです。同じ人を好きになった者同士として、そして友達として」
リリスの中ではこの時既に、シアが良き友人となれることを確信していた。
「どうして、そこまで……? ほとんど初対面の相手に、どうして」
「……えへへ。実は私、こんな風に好きな人について話し合うって事、一度やってみたかったんです。地上に出られない私は、こういったお話をできるお相手も貴重ですからね」
それはリリスが密かに夢見ていた、『女の子っぽいことをしてみたい』という欲望だった。
冒険者達からの差し入れで、地上に出回っている書物を読み始めたリリスは、やがて『普通の女の子』がすることを真似てみたいと思い始めたのだ。
「それでシアさんが会いにきてくれたって知ったら嬉しくなっちゃって、もしかしたらお友達になれるんじゃないかって思っちゃって」
「……リリスさん」
「こんな私ですけど……魔族の私ですけど。それでもよければ……私とお友達になってくれませんか?」
思いがけないリリスの告白。
シアの瞳には、少し不安げな表情を浮かべた、年相応の少女の姿が映っていた。
「…………」
そしてシアは考えた。
これも嘘偽りのない、彼女の一側面であると。
恋愛の話はともかくとして、同じ年頃の女性としてなら、仲良くなれるかもしれない、と。
そしてシアは回答代わりに、おずおずとリリスに手を差し出すのだった。
◆
「じゃあシアさんは、人攫いに遭っていたところを助けてもらったのが、シテンさんとの出会いだったんですね!」
「まあ、
「やっぱりシテンさんは昔から人助けをしていたんですね……! じゃあシアさんは、シテンさんのどんな所が好きになったんですか?」
「えっ、それはちょっと、恥ずかしいです……」
――シアとリリスが仲睦まじく会話する様子を見て、ソフィアは密かに安堵していた。
(魔女の私と付き合ってくれるくらいだから、シアについてはあまり心配はしてなかったけど……それでも魔物のリリスちゃんと打ち解けてくれたみたいで、良かったわ)
「ふふ」
「? どうしたのウリエル?」
「いえ、素敵な光景だな、と思いまして……魔王との戦いの最中では、考えられないことでしたから」
ウリエルの視線は、ガールズトーク(?)を楽しむ二人に向けられている。
「人間も、天使も、魔女も、魔物も……種族の違いに関係なく、互いに手を取り合える世界。かつて私と初代勇者が夢見た光景です。こう言うと現代の冒険者の方に失礼かもしれませんが……かつてと比べれば現代は、とても暖かで平和な時代ですね」
「初代勇者って……
「おや、彼女をご存知でしたか。私もかつては勇者パーティーの一員として、魔王との戦いに身を投じていたのですよ」
ウリエルの気になる発言についてソフィアが尋ねようとした時、この場に新たな人影が現れた。
「……みんな楽しそうだね。何の話をしてたの?」
それは別行動をしていたシテンと、
『――邪魔するゾ。こんな所に隠れ家があるとハ。上手く考えたものだナ』
――シテンと密談をしていたはずの、【
◆◆◆
ヒロイン勢揃いの回。
一回書いてみたかったです。
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