第132話 【尸解仙】からの招待状


「なんだか最近、妙な人との縁が増えた気がする……」


 クララさんから招待状を受け取った後、僕は迷宮に潜り単独行動を取っていた。

 招待状の主……Sランク冒険者【尸解仙しかいせん】からの言伝として、『シテン一人で来ること』と付け加えられていたからだ。

 シア、ソフィア、ウリエルの三人には先に、リリスの元へと向かってもらっている。

 リリスの隠れ家は第3階層。ミノタウロスが迷宮を荒らさなくなった今、魔物の生息域も正常に戻りつつある。強力な魔物に出くわすことはそうそうないだろうし、ウリエルさんが居れば大抵の敵は問題ないだろう。

 体感だけど、ウリエルさんはAランク冒険者よりもずっと強い気がする。

 魂の気配? が分かるようになってから、それに合わせて相手の力量も、気配でなんとなく分かるようになってきたのだ。


「一日にSランクの人と二人も会うなんて。一体何の用件だろ」


 独り言を呟きながら、待ち合わせ場所の第9階層へと足を踏み入れる。

 道中魔物らしき気配を何度か感じたが、襲ってくることは無く遠巻きにこちらを観察しているようだ。……まるで僕のことを恐れているような。


 ……Sランク冒険者【尸解仙しかいせん】。

 十二人いる冒険者の内、序列としては第二位。死者を操る死霊術士ネクロマンサー。直接会ったことはないけれど、【狂犬】と並んで、色々な意味で世界的有名人。

 先のミノタウロスの戦いでは、敵の増援であるケルベロスの群れを一手に引き受け、ジェイコスさんやソフィアの撤退を支援したのだとか。

 Sランク冒険者という立場を抜きにしても、そんな命の恩人からの呼び出しとなれば、無下にするわけにもいかない。


「……着いた。この辺りだよね?」


 クララさんから聞いた情報が正しければ、待ち合わせの場所はここの筈だ。

 といっても、辺りには何もない、ただの行き止まりにしか見えないけど……


『――意外と早く来たナ。『解体師』のシテン』


「!?」


 突然、どこからともなく声が聞こえてきた。

 少し癖のある発音。掠れたような女性の声。


『そう驚くナ。私はこの迷宮の隅々に目を光らせていル。お前達が迷宮に足を踏み入れた時から、動向はずっと観察していタ』


 すると、行き止まりだった筈の壁が動き出し、奥へと続く通路が現れる。

 中は真っ暗闇で、この先に何があるのか全く見通すことができない。


『クク、そう怖がることはなイ。私はお前とただ取引がしたいだけサ』


「取引……?」


『詳しい事は中で説明しよウ。準備が出来たら奥に進むと良イ』


「……」


 ……どの道ここまで来ておいて、引き返すという選択肢はない。

 僕はゆっくりと、暗闇の道に足を踏み入れた。



(三人称視点)


「Sランク冒険者からの呼び出しって、一体何の話かしら……」


 迷宮3層、シテンが作ったリリスの隠れ家にて。

 シテンより一足先に到着したソフィア、シア、ウリエルの三人は、リリスとの再会を果たし、各々の交流を深めていた。


「その、Sらんく……という方々は、それほどまでに凄い人なのですか?」


「そりゃもう。数多の冒険者達の頂点。人類側の個人戦力としては、間違いなく世界最強の十二人よ。冒険者ギルドからも特別扱いされていて、迷宮都市でも凄い権力と力を持ってる。他国で例えるなら、貴族様みたいなものかしら」


「なるほど……。その【尸解仙しかいせん】という方にも、私がお世話になったのは事実。折を見てお礼を言わなければなりませんね。……ふふ、ソフィアのお話はわかりやすくて、いつも為になります」


「そ、そう……? そんな風に言われたのは初めてだから、なんだか気恥ずかしいわね」


 シテンとシアの入院中、行く宛のないウリエルを家に泊めていたのがソフィアだ。

 その間二人は様々な話をし絆を深め、よってウリエルは数千年のジェネレーションギャップを急速に埋めつつあった。


 そして一方で。


「私、前からシアさんとは一度話してみたかったんです。シテンさんが妹のように可愛がってると聞いて、どんな人なのかずっと気になっていまして」


「そ、そうなんですか?」


「初対面の時は慌てていたのでゆっくりお話しできませんでしたが、この場所なら安全です! 今日はゆっくりとお話・・しましょう!」


 ソフィアとウリエルが世間話に花を咲かせている頃、シアとリリスという意外な組み合わせの二人が親睦を深めていた。


「早速なんですがシアさん。シテンさんの事はどう思っていますか?」


「えっ」


「シテンさんの事は好きですか? ちなみに私は大好きです! 告白もしました!」


「……えっ、えええぇーっ!!???」


 ……話の内容はウリエル達とは別ベクトルで、殆どリリス主導で話が進んでいたが。


「シテンさんの妹という人なら、きっとシテンさんの事が大好きだと考えていたんです。もしそうなら、同じ人を好きな者同士で、私たちきっと仲良くなれると思うんです♥」

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