第131話 【狂犬】クララ
突如僕たちの前に現れた、まともに衣服を身につけていない痴女。
口ぶりから察するに、僕たちのことを待っていたようだが……
「ど、どちらさまで……?」
「おや? そういえば直にお話するのは初めてでしたか。先日お会いした時は気絶していたようですし、覚えていなくても無理はありませんね」
そして正体不明の少女は、僕の目をまっすぐ見て自己紹介を始めた。
「私の名はクララ。Sランク冒険者で、巷では【狂犬】だなんて呼ばれているそうですが……全く迷惑なあだ名ですよね。私のような理知的なワンコを狂犬だなんて。そう思いませんか?」
いやどう見ても奇人変人の類だろ!
と喉元まで出かかった言葉を危うく飲み込んだ。
というか、Sランク冒険者……? しかもよりによって、色々な意味で有名な【狂犬】が、どうして僕らの前に?
いや、下手に刺激するのはまずい。まずは大人しく相手の話をーー
「な、なんて不埒な格好を……!! 女性が公共の場でみだりに肌を晒してはなりません! 服はどうしたのですか服は!!」
と思ってたらウリエルさんが突っ込んだ。
ああそうか、ウリエルさんは目覚めたばかりだから、Sランク冒険者がどういった人たちなのか知らないんだ!
「さっきも言いましたが、これは正装ですよ。……逆に考えてください。犬が公共の場で服を着ますか? 普通着ませんよね。つまりそういう事です」
「どういう事ですか……??? 私には貴方は犬ではなく人間の少女に見えるのですが」
「? 不思議なことを仰る方ですね。どこからどう見ても完全に犬じゃないですか、私」
半裸の少女クララは両手を顔の前で丸めて、「わんわん」と鳴いてみせた。
ウリエルさんは眼前の狂気の光景に絶句している。正直僕も同感だ。
特徴的な癖毛が犬の耳に見えないこともないが……彼女の姿はやっぱりどう見ても人間のそれだ。
彼女の立ち振る舞いがあまりに堂々としているものだから、一瞬こちらの常識がおかしいんじゃないかと疑ってしまった。
なんて退院明けにこんな意味不明なモノを見せられなきゃいけないのか。
「もしや私の眠っていた数千年の間に、犬は二足歩行に進化していたのですか……!?」
ウリエルさんもちょっと混乱しているらしい。
というか僕もソフィアもこの空気に呑まれて何も言い出せない。
どうするんだこの状況。
「えっと……お久しぶりですクララさん。先日は助けて頂きありがとうございました」
「いえ、礼には及びませんよ。私は忠犬としての役目を果たしただけです。シアさんも無事に退院できて何より。この度は退院おめでとうございます」
シア……!!
混沌極まるこの状況に、助け舟を出してくれたのはシアだ。流石可愛い妹分だ。
そして思い出した。クララさんはミノタウロスと戦った後気絶した僕とシアを助けてくれたんだった。
「Cランク冒険者のシテンです。……シアから話は聞いています。気絶していた僕を助けてくれたのだとか。ありがとうございました」
「お気になさらず。困った時はお互い様ですから。それに本来ミノタウロスの討伐は、私が引き受けていた依頼でしたので。
そういえばそうだった。
元々支部長のアドレークは、Sランク冒険者にミノタウロスの討伐を任せていたのだ。
それを引き受けたのが目の前の【狂犬】で、あまり成果を挙げていないと聞いていたが……
「おっと勘違いしないでください。私は手を抜いていた訳ではないですよ? 何回かミノタウロスとは戦いましたが、いくらすり潰しても無限に再生する始末でし、正直私では倒しきれなかったんですよ」
「えっ、あのミノタウロスと戦ったんですか?」
「ええ、なので見かけ次第深層に追っ払って、あとはアドレークさんが尻尾を出すまで機を伺っていたのですが……おっと、話が逸れましたね。今日はシテンさん。あなたに用があったのですよ」
そういうとクララさんはごそごそと、布切れのポケット? を漁り出した。
……布がずれて見えてはいけない部分が見えそうで、慌てて目を逸らした。
「はい、どうぞ」
そして手渡されたのは、朽ちないようガラスの中に閉じ込められた、一輪の花。
「……これは?」
「手形のようなものです。これを持って迷宮のある場所に行けば、そこで依頼主が待っています。私はその依頼主に、入院中のお二人の保護と、これを手渡すように頼まれていたのですよ」
「……僕にこれを? クララさんに依頼をした人物って、一体」
世界最強の個人、迷宮都市の最高戦力であるSランク冒険者に、依頼を出せる人物なんて相当限られる。
「私の知人でもあり、同僚でもあり、今回のミノタウロス討伐に加勢したもう一人のSランク冒険者。【
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