第130話 天使様と往く迷宮探索
「サキュバス……リリスのことですね。彼女なら迷宮の中にいますよ。魔物である彼女は、迷宮から
多分、ウリエルさんは迷宮の仕組みを詳しく知らないのだろう。魔物は迷宮の外に出られないというルールを知っていれば、今みたいな質問はしてこないはずだ。
「迷宮……私が眠っていた、あの未知の空間のことですね。ここに向かう途中にも、入り口のような巨大な門が見えました。……では私は早速、迷宮に向かおうと思うのですが……」
ウリエルさんはそこで言葉を詰まらせ、やや申し訳なさそうにモジモジと続きを切り出した。
「その……差し出がましい事だとは承知の上なのですが。よろしければ、私の迷宮探索に同行して頂けないでしょうか……? なにぶん土地勘もなく、宛てもなく彼女、リリスを探すのは困難かと思われまして……」
◆
いきなり飛び込んできたウリエルさんから、迷宮探索のお誘いを受けた二日後。
めでたく退院となった僕とシアは、病室の私物を纏めていた。
「……でも、本当に受けてよかったんですか? 退院してすぐに迷宮探索なんて……」
患者衣から普段着に着替えたシアが訪ねてくる。心配してくれる彼女の気持ちもわからなくはない。
「むしろ逆かな。入院中に鈍った冒険者としての勘を、一刻も早く取り戻したいっていうのもあるし、どのみちリリスには会いに行くつもりだったんだ。ウリエルさんが敵じゃないことも分かったし、彼女が僕らの側にいれば、教会も流石に下手な真似はできないはずだ。今回の依頼は、僕たちにとってもメリットが大きい」
そしてシアの身の安全を保証するためにも、聖教会との問題は早々に片をつける必要がある。
そのためにウリエルさんと交流しておくことは、後々プラスの方向に働くはずだ。
彼女も現代の聖教会の動きには、疑問を持っているようだし。
「……ん、来たかな?」
ちょうど支度を終えた頃、病室に近づく気配を僕の感覚が捉えた。
……他人から光る
この感覚にも早く慣れておきたいし、やっぱり早めに迷宮に潜っておくべきだろう。
「ーーシテン、シア、起きてる? 迎えに来たわよ?」
ドア越しに聞こえた声の主は、やはりソフィアのものだった。
退院と同時に迎えにきてもらい、そのまま一緒にリリスに会いに行く予定だったのだ。
……ん? じゃあ外から迫ってくるこの気配は……?
「私たちは準備オッケーです。……ウリエルさんは、ソフィアさんの家に泊まっていたんですよね? ウリエルさんも一緒に来ているんですか?」
「……んー、それが、そのー」
「?」
ソフィアにしては珍しく歯切りの悪い返事に、シアが疑問符を浮かべていると。
「ーーお邪魔します。シテンさん、シアさん。退院おめでとうございます。後遺症なども特にないという事で、大事なくてなによりです」
僕たちの背後ーーつまり窓の外から、『フワァ〜』と宙に浮かび上がったウリエルさんが祝いの言葉を投げかけてくれた。
「きゃあっ!? ウ、ウリエルさん!? どうしてまた窓の外から来たんですか!? そこは入り口じゃないですよ!」
「そ、それは私も流石に知っています! ただ、その……お恥ずかしい話なのですが」
いかなる仕組みだろうか、背中二枚の翼をはためかせ浮かび上がるウリエルさんは、そのまま残りの四翼で顔を隠し、頬を赤らめるという器用な真似をしてみせた。
「私の翼が、少し大きすぎて……入り口でつっかえて、建物に入れなかったんです。あ、別に私が太っているとかではありませんよ!? 枚数は多いですが、これは天使にとっては標準的なサイズですので! 本当ですよ!!」
◆
とまあ、ウリエルさんの横幅について一悶着あったりしたのだが。
僕ら三人にウリエルさんを加えて、リリスに会いに行くべく迷宮『魔王の墳墓』へ向かおうとしたのだけれど。
治療院を出てすぐ、僕らの前に立ち塞がる影が一つ。
「ーーちょっとお待ちをそこの方。この忠実な番犬の話を一つ、お耳に入れてはくれませんか?」
熾天使の次に現れたのは、全裸に布切れ一枚だけという、とんでもない格好の痴女だった。
「ち、痴女だー!!?」
「む、失礼な。これは私のれっきとした正装ですよ」
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