第128話 突撃! 大天使のアポ無し訪問


(一人称視点)


「…………」


 今、病室には四人の人物が揃っていた。

 ベッドから飛び起きた僕。

 青い顔をして後ずさるシア。

 警戒の姿勢を緩めないソフィア。

 そして、僕らにニコニコと笑顔を振りまく熾天使、ウリエル。


「……天使様が、いきなりこんな所に現れてどうしたんですか?」


 僕が沈黙を破ると、さすがに彼女も僕らの様子がおかしい事に気付いたのか、笑顔を引っ込めて困惑顔になった。


「えっと、私はただ貴方達に会いにきただけなのですが……わ、私なんだか避けられてます?」


「まあ、正直」


 僕らがここまで警戒する理由は一つ。

 ウリエルが僕らの・・・・・・・・敵かどうか分からない・・・・・・・・・・からだ・・・


 ……迷宮から回収されたウリエルの石像は、迷宮都市内にある聖教会の支部に運びこまれた。

 そこで聖国から派遣された高位の神官、さらには聖女までもが集まって、日がな一日解呪をを行なっていたらしい。


 ウリエルがここに来たという事は、解呪は無事成功したのだろう。

 しかし聖教会の手で助け出されたという事は、ウリエルも聖教会側に属している可能性もあるのだ。もともと聖教会の信仰対象には、天使も含まれているし。

 シアと勇者の一連の事件で、水面下で僕らと聖教会は敵対関係にある。

 彼女が信者の味方をして、僕らから聖剣とシアを奪いに来た可能性も十分考えられるのだ。

 ……尚、ウリエルの身柄を巡って聖教会と冒険者ギルドでいさかいがあったらしいのだが、今は割愛する。


事前連絡アポもなしに聖教会の有名人が窓から飛んできたので、ぶっちゃけ敵襲じゃないかと疑ってます」


「え……えぇー!?」


 誤魔化す意味もないので素直に白状すると、ウリエルは凛々しい表情を崩して素っ頓狂な声を出した。


「ま、窓からいきなり入ったのはごめんなさい! 久々に空を飛んだのでつい調子にのってしまって……! でも決して貴方達を襲いにきた訳ではありませんよ!? 助けてくれたお礼を言いたくて……ど、どうすれば信じてくれますか?」


 両手と翼を慌ただしくはためかせ、狼狽えるウリエル。

 ……あれ? なんかイメージしてた人物像と違うな??

 僕の中ではもっとこう、常に微笑みを浮かべてるような、神秘的なイメージだったんだけれど。


「……それなら手っ取り早い方法があるわよ。シアに心の中を読み取って貰うの。そうすれば敵か味方か、はっきり分かるでしょ」


 そう提言したのは、ウリエルの狼狽振りに毒気を抜かれてしまったソフィアだ。

 シアが他人の心を読めるという情報は、入院している間に彼女にも共有してある。


「心の中を、読む……? そんな事が可能なのですか?」


「まあ、それが確実だよね。シア、悪いけどお願いできるかな」


「は、はいっ、私は大丈夫です。もうスキルが使えるくらいまで回復しましたので」


 まだ体調が万全でないところ大変申し訳ないのだが、迅速かつ正確に状況を把握するにはこれがベストだ。

 あとでソフィア特性の目薬を差してあげよう。


「それで貴方達が納得できるのでしたら……私は構いません」


「分かりました。では……【心理鑑定マインド・ジャッジ】」


 ウリエルの同意を得て、【鑑定】の派生スキル、【心理鑑定マインド・ジャッジ】が発動する。

 このスキルは相手の考えている内容を読み取ることができるが、相手には必ず気付かれてしまうらしい。こっそり思考を読み取ったりするのは流石に無理みたいだ。


「……あれ?」


 眉をひそめてウリエルを凝視していたシアの顔に、困惑の色が浮かび上がった。


「どうしたの? シア」


「その、思考は読み取れて……ウリエルさんが嘘を言っていない事は分かったのですが」


「……?」


「ステータスが無いんです。ウリエルさんの」

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