第126話 エピローグ② 一難去って飛び入り天使
(一人称視点)
「シテンさん、聖教会から『
「無視で」
聖教会の総本山、つまり敵の巣窟にわざわざ突っ込む馬鹿が何処に居るというのか。
「普通に考えて、僕とシアが受け入れる訳ないのにね。一体何を考えてるのかな」
僕が治療院で目覚めて、数日が経過した。
身体の調子は順調に回復しており、あと二、三日もすれば退院できるそうだ。
その間僕とシアはずっと同じ病室に居たが、聖教会は今みたいな手紙を出すくらいで、これといって大きな動きは見せていない。
たまに噂の聖女を一目見ようと、ファン? の人が病室に押しかけようとする騒動があったが、それくらいだ。
「聖教会は今回の事件で大幅にイメージダウンしましたからね……立て直しのためにも、私を新たな聖女として、もっと大々的にアピールしたいのかもしれません」
「それもあるだろうけど……僕も一緒に、ってところを見ると、聖剣も目的に入ってるだろうね。よっぽど聖剣が欲しいのか」
ベッドの下に置いてある、マジックバッグに目をやった。中には、真っ二つになった聖剣が収納されている。
持ち主であろうと許可された場所以外で開けることはできないので、この場で中身を見ることはできないけど。
この聖剣が、僕とシアを守る抑止力になってくれているのは間違いないだろう。
そしてマジックバッグに入れている限り、強制的に奪うこともできない。
マジックバッグは空間魔術によって、冒険者ギルドの手で厳しく管理されている。
それを無理矢理破ろうとすれば、聖教会は今度こそギルドの逆鱗に触れるだろう。
迷宮都市において、空間魔術やそれに類する能力は厳しく制限されているのだ。これを破った者には、恐ろしい末路が待っている。
Sランク冒険者が出張ってくる事があれば、下手すると聖国は滅亡するだろう。事例もある。
「ま、今は聖国の動向を考えても仕方ないでしょ。今はとにかく、二人にしっかりと体を治してもらわないと」
見舞い品の果物の皮をナイフで剥きながら、ソフィアがそう口にした。
先日ソフィアと僕を狙った襲撃が、アドレークの仕業であることが発覚したため、アドレークが失脚した現在は自由に出歩けているようだ。
ちなみにソフィアだけでなく、ジェイコスさんやツバキさん、孤児院の皆まで見舞いに来てくれたので、部屋の片隅には沢山の見舞い品がまだ残っている。
「……ソフィアの言う通りだね。今は回復に専念するよ」
「わ、私もあまり目を使わないようにします」
……体調の回復か。
二人には言っていないけれど、実はあの戦い以来、僕の身に明らかな異変が二つ、起きている。
「シア、剥くのは一玉だけでいいの? リンゴ好きでしょ?」
「す、好きな食べ物ではありますが、私は一玉だけで十分です。あまり食べ過ぎるのも良くないと思うので…………特にシテンさんの前で」
「……ん、ごめんねシア。今のは私の気配りが足りなかったわ。でもそうなると、この大量の見舞い品、食べきれないんじゃない?」
一つ目は、変なものが見えるようになった事。
談笑している二人の全身から、薄っすら光る白い
どうやら僕だけに見えているようで、見舞いに来てくれた人達や看護師さんからも同じものが出ていた。
はじめは全く正体が分からなかったが、今は少し心当たりがある。
シアの視界を介して、ミノタウロスの魂を見た時……規模は全く違うが、似たような
もしかしてこれは、他人の魂が見えているのではないか? という仮説だ。
これについては、後日検証してみようと思う。
「さすがにシテンさんと二人では食べきれませんね……ソフィアさん、幾つか持って帰ってくれませんか?」
「そうね、このまま腐らせるのも勿体ないし……見舞いにこれなかった、リリスちゃんに持っていってあげましょう」
そして二つ目の異変。
僕のステータスがぶっ壊れた。
▼▼▼\▼▼▼▼▼▼ /
【シテン\】 レベル|:58
性別:オス| 種族:/人間
| /
【スキル】 \/
〇解体……ユニ\ークスキル。対象を望むままの形に解体することが出来る。
/\
【備考】 / |
なし / \
▲▲▲▲▲/▲▲▲▲▲ \
なんか……ステータスが
なにこれこわい、いきなり爆発したりしないよね?
「リリスちゃんって、私達を助けてくれたサキュバスの女の子ですよね? あの時はドタバタしててちゃんとお礼が言えなかったので、今度は私が直接お礼に行きたいです」
「それじゃあ、退院したら一緒に行きましょうか。私も前からシアに、リリスちゃんを紹介したかったのよ。……はい、できた」
心配を掛けないように、まだ異変の事は誰にも言っていない。
それに僕の異変よりも、もっと大きな問題も残っている。
この戦いで、僕とシアは立場が大きく変わってしまった。
僕は蔑まれる日々から一転、英雄としてもてはやされ、シアは八人目の聖女として世界中に名を広めた。
最早、以前と同じような生活には戻れないだろう。特にシアは。
なんとか今後の身の振り方を考えなきゃ、なんだけど……
「……ん?」
考え込んでいる僕に、気づけば口元にカットされた果物が押し付けられていた。
「ソフィア、これは?」
「何って、リンゴだけど」
「いやそうじゃなく、僕自分で食べれるよ?」
「……今、なんか難しい事考えてたでしょ。考えるのはいいけど、甘いものでも食べてリフレッシュすれば? はい、あーん」
「『はい、あーん』の答えになってない……!」
なぜか口元にリンゴを押し付け、ソフィアは僕に食べさせようとする。
シアの前でいきなり何を始めるのかと、正直恥ずかしかったが食欲には抗えず、根負けした僕は大人しく口を開いた。
控えめに開いた口に、綺麗にカットされたリンゴが優しく滑り込んだ。
「えっ、あーっ!? 何してるんですかソフィアさん!?」
リンゴに気を取られていたシアが、すぐ傍で行われた羞恥プレイに遅れて気づき絶叫する。
「こうでもしないと、
「だ、大丈夫です!! それより私も、シテンさんにあーんしてあげたいです!」
どうやら僕が独断行動でシアの救出に向かったのを、ちょっと根に持っているらしい。
シアが僕の口元にリンゴを持ってきても、ニヤニヤと笑みを浮かべるだけで止めようとしなかった。
「シテンさん、あ、あーん」
「僕が悪かったから助けてくれソフィア!」
「あらあら、シアがせっかくあーんしてくれてるのに、女の子の好意を無下にするつもり? 男ならちゃんと受け入れてあげなくちゃ」
「……シテンさん、私のリンゴはお気に召しませんか……? やっぱりソフィアさんの方が好きですか?」
「分かった食べる! だからそんな悲しそうな顔しないでっ!?」
一緒の病室で過ごし始めて、シアの距離がやけに近くなった気がする。
自意識過剰かな……? と内心思いつつも、僕は次々と口に放り込まれるリンゴを咀嚼するのであった。
◆
そしてリンゴを食べ終わり、小腹を満たした僕らが談笑していると。
突如、こちらに接近してくる気配を感じ取った。
「!?」
「シテンさん? どうしました?」
これは……白いモヤ、いやオーラ?
他の人から発せられるものとは比べ物にならない、眩しく光り輝くほどのオーラが、こちらに近づいてくる。
そして僕が反応する間もなく、その気配の持ち主はこの病室に入ってきた。
開けっ放しになっていた窓の外から。
「キャッ!? 何!?」
突然の闖入者に、驚愕をあらわにする僕ら。
しかし次の瞬間、別の意味で僕たちは驚愕することになった。
その人物は街中にもかかわらず、装飾のない武骨な鎧を纏い、その流線形のラインは女性特有の柔らかさを表している。
女神が降臨したと見紛うほどの美貌と、雲のように柔らかな栗色の長髪。
そして、背から伸びた三対六翼の翼と、その頭上で輝く輪っか。
「……」
驚くのも無理はない。
その神々しい見た目を目にすれば、誰だってその正体に辿り着く。
「――やっと会えましたね。偉大なる勇者、そして聖女」
四大天使が一人――熾天使ウリエルが、僕たちの目の前に現れた。
「突然の来訪に謝罪を。――そしてご挨拶を。我が名はウリエル。女神様に仕えし熾天使が一人。土の
「シテン、シア。私はあなた達二人に会いにきたのです」
◆
第三章終わり!!!!!
これにて第三章は完結です! お読みいただいた読者様方に心からの感謝を!
一度途中でエタりかけましたが、応援のDMを頂いたりして何とかここまで辿り着きました。きっと自分だけではここまで辿り着けなかったと思います。改めて感謝を。
さて今後の予定なのですが。
四章については、既にプロットは組んでます。なので執筆でき次第投稿していきたいと思っています。
しかし四章も相変わらずやりたい事が多い……!
やることリストはあるのに順番が決まってないので、調整とかでちょっと更新が不定期になるかもしれません……何卒ご容赦を!
軽く次章の予告をしますと、シテン達が聖国へ向かいます!
いよいよ女神、勇者の総本山、聖国が舞台です! ウリエルもガブリエルもめっちゃ喋ります!
あともう半分は迷宮都市が舞台ですね! Sランク冒険者目指してシテンが頑張ります。Sランク冒険者も本格登場です!
初めて迷宮都市の外を舞台にすることもあって、この機に世界観の掘り下げもしておきたいですね! バベルとかシアの過去とかエリクサーとか、まだ全然触れてない設定多すぎますし!!
とはいえ作者のやりたい事を詰め込み過ぎるとグダるのは学習しましたので、どこからどこまでを描写するのかを判断するために少しお時間いただきたいと思います……! なるべく毎日投稿したいけど!
あと、密かに新作も準備してます。現代ファンタジー物です。
もう半年くらい頭の中だけで進んでるので、いい加減アウトプットしたい……!
連載が始まったらあとがきとかで宣伝すると思います。書き貯めしてから投稿したいので気長にお待ちください。
それでは、作者からのお知らせは以上となります!
お読みいただきありがとうございました!
にゃんぼ
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