第125話 エピローグ① ある時代の終わり
(三人称視点)
『久しいですね、ルチア。その後の調子はどうですか?』
この世界の何処でもない場所。
全ての境界があやふやになるその場所で、【聖女】ルチアとその人物は、穏やかな雰囲気で対話していた。
『ご無沙汰しております、
『と、いうと?』
女神様、と呼ばれたその女性はルチアの報告を聞いても、不快感をあらわにすることも特になく、穏やかな口調で続きを促した。
『要観察対象、シテンのユニークスキルの効力が予想以上に強力で、いかなる方法でも再生できず、肉体を繋ぐこともできませんでした。フィデスの協力で、魂だけを脱出させるという裏技を使うことができましたが、あくまで一時的なもの。現在も私は、ギルド地下の収容所に囚われております』
『やはり、そうでしたか……自力での脱出は難しいようですね』
『申し訳ございません』
人形のように無機質な表情で、ルチアは深々と頭を下げた。
『気にすることはありませんよ。元々想定内の事態でしたから。――しかしそうなると、冒険者ギルドのマスターと早々に交渉を終わらせる必要がありますね。貴方にはまだ、やってもらいたい仕事がたくさん残っているので。向こうからの多少の要求は呑むとしましょう』
『寛大なお心遣いに感謝いたします』
『では、定期報告をお願いします。特に迷宮都市の住民が、勇者と聖教会に対してどのような感情を抱いているかを重点的に』
『畏まりました。……元勇者、イカロスが率いる【暁の翼】は、事実上壊滅状態にあります。私も含め全員が身柄を拘束され、ギルド本部の地下にて取り調べを受けています』
『そのようですね』
『ミノタウロスの討伐失敗、多くの冒険者を犠牲にしてしまった事実、イカロスが独断でギルド西支部長アドレークと共謀し、様々な悪事に加担、関与していた問題。そして、ミノタウロス討伐に成功したシテンを追放し、悪評を振りまいた事。これらの不満が一気に噴出し、迷宮都市が私達に抱く印象は、戦後最悪といえるでしょう』
『ええ、そうでしょうね。あのイカロスの所業を知れば、誰だってそうなるでしょう』
『端的に述べますと……聖教会の威厳は今、地に堕ちています』
迷宮都市を除けば、最も世界に影響力を持つであろう国家。
その印象が過去最悪のものになっていると聞かされ、女神は――笑っていた。
『ふふ、ふふふ、ふふふふふふふ。……勇者の手によって、聖教会の威厳が地に堕ちる。
『イカロスは役目を立派に果たしてくれました……しかし、これ以上余計な真似をされないよう
『構いません。【勇者】のスキルと聖剣を失った彼に出来ることなど、たかが知れて――いや、
突如、雰囲気を豹変させた女神の様子に、さすがのルチアも内心困惑してしまった。
『女神様……? いかがなさいましたか?』
『あーもうええ、もうええ。
女神、いや女神の名を騙っていた何者かは、それまでの穏やかで神聖な雰囲気を崩し、特徴的な訛りのある言葉で話し始めた。
『女神様の演技をおやめになる……それはつまり、女神様としての役割も終わったという事、ですか』
『そーゆー事や。まあ実際にはまだ外部にバレたらあかんけど、ここなら二人っきりやし別にええやろ?』
『……畏まりました。以後そのように致します』
『相変わらず堅苦しいなぁ~』
すっかりフランクな態度になってしまったその女性は、不敵な笑みを浮かべて語り出す。
『長かった女神様の時代も、ようやく終わりや。これからはウチらが新しい時代を作る。勇者と聖教会は、そのための
『では、いよいよ我ら七聖女を、本格的に動かすのですか?』
『せやな。とりあえず全員聖国に呼んで――ああ、聖剣の問題があったわ。あれはウチの計画に必要不可欠やからなぁ。とりあえず、持ち主のシテン君には、色々な説明も兼ねて聖国に来てもらおっか。ウリエルの件で話もしたいし』
『では、私は何をすれば良いでしょうか?』
『とりあえず、ルチアはしばらく待機や。近いうちにルチアの身柄
『かしこまりました、女神様――いえ、熾天使ガブリエル様』
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