第114話 vsミノタウロス ⑨臨界点
(三人称視点)
「【
シテンに迫りつつあった岩壁が、塵すら残さず消滅する。
必死の状況から抜け出したシテン。だがその代償は大きい。
(僕の全細胞が燃えている。まるで命を薪にしてるみたいだ)
シテンの全身に、割れたガラスのようなヒビが走っていた。
制御困難な【
(痛みは感じない、いや感覚が麻痺してるのか。――僕もシアも限界が近い。その前にミノタウロスとの決着をつける!)
崩れ行く身体でシテンは駆ける。
視界はシアと重なり、ミノタウロスの荒れ狂う魂が視覚化される。
この激浪の如き魂の輪郭を正確に捉え、解体しなければミノタウロスは倒せない。
しかし、シテンは今の攻防の中で、光明を見出していた。
(奴はさっき、スキルを使った。もし完全に理性を失っているなら、
「「「ROoooaaaAAAAA!!!!」」」
三つの牛頭が咆哮し、六本の腕がシテンを叩き潰さんと迫りくる。
嵐のような連撃を、シテンは躱し、解体し、時には受け流して対処していく。
(奴はこの戦いの最中、急速に進化し続けている――けど、それが仇になった。魂の暴走状態から、理性を取り戻せるように進化した。してしまった)
「「【
シテンの推測を裏付けるように、ミノタウロスの左右の頭がスキルを発動する。
時間差で迫る岩壁と岩槍を、シテンは【
自身を囲むように大気中を伝達させ、岩壁や岩槍はそれに触れた個所から、跡形もなく消え去った。
(理性を取り戻したなら、その魂の輪郭には必ず規則性が生まれる。シアの目を通じて、魂を直にみたからこそ確信できる)
シテンの魂に対する理解度は、この戦いを通じて急速に深まっていた。
ミノタウロスを解体する度に、魂の在り方を理解する。
そして己の魂が、何処に、どのように存在しているのかも理解していく。
(そうか、スキルというのは、魂の力なのか)
「「「オ”……OOOooooo!!!!」」」
ミノタウロスが岩盤を変形させ、巨大な斧を生成する。
六本腕でそれを振り回すが、シテンには当たらない。
かつてない程研ぎ澄まされたシテンの感覚は、ミノタウロスの筋肉の動き、魂の動きを察知する。それを処理する事で、当たれば即死の凶撃を、幾度となく潜り抜けていく。
(僕の魂がバラバラになる程の出力で、解体スキルを使って初めて分かった。この
シテンとミノタウロス。両者のボルテージが上がっていく。
攻撃は苛烈さを増し、それに対応すべく感覚は更に研ぎ澄まされ、頭の中で火花が散る。
(臨界点がくる)
シテンはそれを確信している。シアも、そしてミノタウロスも本能で理解しているだろう。それすらシテンは確信している。
(限界まで膨張した泡が割れるように、この拮抗はいずれ崩れる。その瞬間こそが、この勝負の命運を分ける。……問題は、最初に限界を迎えるのは誰か、という事)
シテンの失血が激しくなり、足元に血だまりが広がる。
シアの視界が霞み、ミノタウロスの魂の輪郭がぼやける。
ミノタウロスが理性を取り戻し、荒ぶる魂が鎮みつつある。
(限界を迎えるのは、誰だ)
その瞬間。
シテンの視界の端に異物が映る。
それは百匹近くはあるだろう、ケルベルスの大群。
「――――」
大方、先ほどの蛇が差し向けた刺客だろうとシテンは予想する。
ケルベロスの群れは皆、当然のようにシテン目掛けて殺到してくる。
「お呼びじゃないよ、犬っころ――失せろ」
シテンは足元の瓦礫を蹴り上げ、解体スキルを発動。
瓦礫が炸裂し、解体スキルが付与された破片が散弾のように飛散する。
その破片はケルベロスの肉体を容易く貫通し、まるでスポンジのように穴だらけにしてしまった。
「「「GYANN!!??」」」
Aランクモンスターと言えど、全身を穴だらけにされて生きていられる道理は無い。
今の一撃で、四匹ものケルベロスが即死した。
更に、
「O……Oレ達の戦いの邪魔ヲ、すルなあァァァ!!!」
「「「GAAAA!?」」」
ミノタウロスまでもが、周辺の地形を操作してケルベロスの群れを叩き潰してしまった。
「【
「【
不可視の刃が踊り、迷宮が鳴動する。
Aランクモンスターであるケルベロスが、二人の手によって虫けらのように潰されていく。
既に両雄は、Aランクなどという括りでは計れない領域に在る。
ケルベロス
だが……シアは、違う。
「……!!」
くらり、とシテンの視界が歪む。
いや、シテンのものではない。視界を共有している、シアの視界が歪んでいるのだ。
(シア……! しまった、限界か!!)
臨界点を超え、拮抗は崩れ去る。
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