第111話 合流


(三人称視点)


「本当にシテンが迷宮に戻ってきてるの!?」


「間違いありません! 夢の中でシテンさんに出会いましたから! 私が他の人の夢に入り込むには、相手が迷宮に居ないといけないんです!」


 そう確認しながら迷宮を駆けるのは、シテンの作った隠れ家に居た筈の、ソフィアとリリスだった。


 彼女たちは今、迷宮の下層へと向かっている。

 リリスからシテンの危篤を聞き、更に迷宮に居ると聞いて慌てて後を追っているのだ。


「夢というのは眠っている間だけじゃなくて、生死の境を彷徨っている時にも見ることがあるんです。さっき会ったシテンさんは、まさにその状態でした」


「じゃあシテンは、何かの理由で迷宮に潜って、そこで命の危機に!?」


「私が現実世界に追い返したので、ひとまず大丈夫なはずです。たまたま私がシテンさんと経路パスを繋いでいましたので、すぐに異変に気付けたのは幸いでした」


 リリスは既に一度、シテンの夢の中に入っている。

 その時、次回から夢の中に入りやすくなるよう、リリスとシテンの間に縁、パスを繋いでおいたのだ。

 これを使いリリスは、毎晩シテンの夢の中に訪れるつもりだった。


「でも……根本的な問題は、まだ解決していないのかもしれません。ソフィアさん、さっきから何か感じませんか?」


 そう言われてソフィアが耳を澄ますと、微かに地鳴りのような音が聞こえてくることに気付いた。


「この先、迷宮の下層で何かが起こっているんです。さっきからすごく邪悪な感情も感じます。……きっとシテンさんは、そこに居ます」


 そう言いながら出くわした魔物を、リリスは氷魔術で蹴散らす。

 勇者達が露払いをしたとはいえ、それなりに時間が経っている。魔物の遭遇率も既に元通りになっていた。

 そしてリリスも、石化事件の一件以来何もしていなかった訳ではない。ソフィアから教わった氷魔術の腕を磨き、今では一端の魔術師を名乗れる程に成長していた。


「シテン、何があったのか知らないけど……私達に一言もなく先走るなんて、らしくないわね。よっぽど慌ててたのか、緊急事態だったのかしら」


「ともかく急ぎましょう! シテンさんがトラブルに巻き込まれているのなら、私も協力したいです!」


「私も同じ気持ちよ。シテンには大きな借りがあるもの。彼が命の危機に瀕しているって時に、のんびり隠れていられる訳ないでしょ!」



 迷宮第14階層。

 下層に迫るソフィアとリリスに、突如として恐ろしい寒気が襲い掛かった。


「うっ……」


「これは!?」


 その正体は、かつてケルベロス・クリオプレケスとの戦いでも感じた、圧倒的な死の気配だった。

 だが今回のものは、その時とは比べ物にならない。

 Aランクモンスターすら凌駕する、かつてない濃密な死の気配。


「な、何でしょう……? 体が震えてきちゃいました」


「この先に、本当にシテンが……? いったいどんな化け物と戦ってるっていうの?」


 顔を青くして思わず立ちすくんでしまう二人。

 そんな彼女らの前に、複数の人影が現れた。


「ソフィア? それにリリス! なぜお前らがここに居る!」


「ジェイコス!」


 現れたのは【大鷲の砦】のパーティーメンバー達と、そのリーダーであるジェイコスだ。

 なぜか生首になったチタ、ヴィルダ、ルチアに、ウリエルの石像まで一緒に居る。



「ここは危険だ、すぐそこにミノタウロスが来ている、すぐに地上に戻るんだ!」


「ミノタウロス……? まさか、今シテンはミノタウロスと戦っているの!?」


「うぇ? なんでソフィアちゃんがシテン君の事知ってるの?」



 ぐったりとした様子で、ジェイコスに担がれているミュルドが疑問の声を上げた。


「説明は後! シテンは居るの? 居ないの!?」



「え、えっと………………シテン君は、新しい聖女ちゃんと一緒に、ミノタウロスと戦ってます」



 それを聞いて、ソフィアが驚愕で目を見開く。

 ミノタウロスの悪行はソフィアもよく知っている。Aランク冒険者をことごとく返り討ちにし、勇者ですら撤退に追い込んだ怪物。


「なんでそんな化け物とシテンが戦う事になってるのよ! どうしてあんた達はシテンと別れて行動してるの? まさか、見殺しに――」


「落ち着けソフィア。感情的になる気持ちは分かるが、冷静さを欠けば大局を見失うぞ。……ミュルド。事情は俺から説明する。お前は休んでいろ」


「う、うん……」


 どこか気まずそうな声で頷くミュルド。

 その表情をみたソフィアは遅れて気づく。ジェイコスも、他のメンバー達までもが同じような表情をしていることに。

 彼らのそんな様子を見て、ソフィアは冷静さを取り戻した。


「……分かったわ。状況を聞かせて頂戴。なるべく手短にね」


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