第103話 救援


「ミュルドさん……!?」


「へっへへー、助っ人に来たよシテン君。とりあえず生きてて何より。もう少しあのまま寝てたらヤバかったかもね?」


 現れたのは、先日僕と一緒に石化事件を調査した冒険者パーティー【大鷲の砦】の一員。

 影魔法使いのミュルドさんだ。

 ということは、この真っ暗な空間はミュルドさんの影魔法で作ったものか。


「ミュルドさんが居るって事は」


「ああ、俺も居る」


 そして僕の予想通り、大鷲の砦のリーダー、ジェイコスさんが目の前に現れた。

 よく見ると、その背後にも見覚えのない人が何人か居る。


「あの人たちは、もしかして」


「ああ、俺達【大鷲の砦】のメンバーだ。前回の調査の時は連れてこられなかったが、今回はフルメンバーで来た」



「ど、どうして……」


「決まっている。シテン、お前を助けるためだ。といってもこれはあの受付嬢、ツバキの依頼でもあるが」


「ツバキさんが!?」


 確かに、迷宮に入る前にツバキさんと少し話をしたけど……


「彼女は言っていたよ。『シテンさんが見たことも無いくらい、鬼気迫る表情で一人で迷宮に向かってしまった。心配だから様子を見に行ってあげてほしい』と。俺たちの所に来たのは、お互いに面識があったからだろうな。たまたま拠点に居た俺たちは、そのままお前を追いかけて迷宮に潜ったという訳だ」


「私たちは勇者様一行には参加してなかったんだよねー。ぶっちゃけあの勇者様はあんまり好きじゃないし」


 ……ツバキさんにそんな心配をさせてしまう程、僕は思いつめていたのか。

どうやら僕は冷静さを失っていたみたいだ。


「……すみません、助けに来てくれてありがとうございます。ジェイコスさん達が来てくれなかったら、多分死んでたと思います」


「いやーほんとビックリしたよ、慌てて駆け付けたら、シテン君があのミノタウロスとタイマンで戦ってるんだから。押し潰される直前で、影魔法でギリギリ影の中に引っ張り込めたんだよー?」


「本当にありがとうございます」


 僕はペコペコとお礼をするしかなかった。

 身体に巻いてある包帯もミュルドさん達が巻いてくれたのだろうか。

 いやそれよりも、シアがここに居るのはどういう事だろう。


「……シアと、そこの【暁の翼】の連中がここに居るのはなぜですか?」


「俺たちが迷宮に潜った後、シテンに会う途中で地上に向かう彼女らを見つけたんだ。……生首だけになった聖女を見て、一目でお前の仕業だと分かったからな」


 ああ、ジェイコスさんは一度【臨死解体ニアデッド】でバラバラにしちゃった事があるから……

 けれど、この広い迷宮でたまたま出くわしたというのは考えにくい。恐らくルチアの【心眼】でジェイコスさんを先に発見したんだろうな。


「で、シアちゃんと聖女様から事情を聞いて、シテン君が19階層でミノタウロスと戦ってるって聞いて、慌てて飛んできたって訳」


「……その道中で、私がヴィルダとチタ、そしてウリエル様の石像を回収するように依頼しました。あのまま置き去りにされていたら、いつ魔物に襲われるか分かりませんので」


 ミュルドさんとルチアが、それぞれ状況説明を補足する。

 ……まあ、あのまま戦闘できない二人で地上に向かうより、ミュルドさん達と一緒に行動する方が安全か。


 そして部屋の隅の方に、ウリエルの石像が鎮座していた。

 実は勇者と一悶着あった時、あれだけはマジックバッグに入れておこうと考えたんだけど、何故か入らなかったんだよね。

 多分、石化しているけど生物として扱われているんだと思う。マジックバッグに生物は入らないから。


「……大体の状況は掴めました。ここ、ミュルドさんの影魔法で作った部屋ですよね。ここから地上まで出られますか?」


「丁度その準備をしてたところだよー。今私達は迷宮中の影から影を伝って、地上に向かってる。あと半刻もあれば1階に着くかな?」


「なるほど」


「……ぶっちゃけ、どうだった? ミノタウロスに勝てそう?」


 ……僕はミノタウロスとの戦いを思い返す。

 【輪廻転生リインカーネーション】という転生スキルを何とかしなければ、僕に勝ち目がないのはよく分かった。

 そして今も、残念ながら有効な手段は思い浮かばない。


「残念ながら、今の僕では勝てる相手ではなかったですね」


「うーん、やっぱ厳しいかー。Aランク冒険者どころか、勇者様まで返り討ちにしたバケモノだもんねー。生きてるだけで奇跡なのかも?」


「……やはりミノタウロスを滅するには、ウリエル様のご加護が必要です。ミノタウロスの目的はシテンとウリエル様。この二人が地上に出てしまえば、ミノタウロスは追ってこれなくなります」


「ニャハハ、アタシらを倒した化け物に、まぐれで勝ったシテンが勝てる訳なかったのニャ!」


「ていうかイカロスはどこよ! あんたまさかイカロスを置き去りにしてきたの!?」


「うん」


 ミノタウロスとの戦闘で構っている余裕なんかなかったから、適当に置いてきてしまった。

 まだ生きてるかな……


「先に言っとくけど、もうミノタウロスの所に戻る余裕はないからねー。この影の部屋も時間無制限じゃないし、戻ったら絶対バレるし」


「はぁ!!?? 勇者を見殺しにするなんて正気なの!? あんた達狂ってるわよ!!」


「同行した冒険者を見殺しにしたお前らに言われたくないな。勇者の心配より自分達の身を心配したらどうだ? どう考えてもお前らは許されない事をしでかしたんだからな」


 首だけのヴィルダ、チタがぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる。

 ……ちょっと静かにさせた方がいいかな?

 そう考えた時、傍らで僕を支えてくれていたシアが話しかけてきた。


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