第101話 ■■■■


(一人称視点)


 ミノタウロスは消滅した。

 塵の一つすら残さず、完全に解体した。


「ハアッ、ハアッ……!」


 荒い息を抑えられず、僕はその場で膝をついてしまう。

 くそっ、分かってたけど、やっぱり【完全解体パーフェクトイレイサー】は消耗が激しい……!


「うっ……」


 ふと右手を見ると、【空気伝達エアロバイパス】の反動で腕がズタズタになっていた。

 解体スキルに巻き込まれた・・・・・・んだ。ところどころ肉が欠けてしまっている。


 ……これが【完全解体】の欠点。

 触れた瞬間に相手を消滅させる程の、超攻撃力に特化したこの派生スキルは、自分の身体すらバラバラにしてしまうのだ。

 スキルの制御を引き換えに火力を求めたのが、この派生スキルなのだ。コントロールが難しく反動も大きいため、今まで殆ど使ってこなかった。


「けど……倒した。勝ったんだ」


 回復ポーションを口に含みながら、勝利を噛みしめる。

 ポーションの残りも僅かだ。もう少し戦闘が長引いていれば、先にこちらが体力切れでやられていたはずだ。


 正直、完全解体でも倒せなかったら、もうどうしようもなかった。

 紙一重の勝利。かつてない程の強敵だった。


「結局、ミノタウロスの不死身のギミックは分からずじまいだったけど……やっぱり肉片や血から再生してたのかな? 完全に塵にすれば再生できなかったとか?」


 しばらく様子を見ても復活の気配がないので、僕は防御用に展開していた完全解体を解除した。


























 ――――背後で獣の呼吸が聞こえた。



「嗚呼――素晴らしい一撃だった。遠距離からの細胞すら残さない解体。【進化細胞エボリューションセル】の超再生能力を、真正面から打ち破るとは……完全に想定外だった。誇るがいい、シテン」


「――――な、」


「お前の考察は間違っていない。俺は細胞の一片から、即座に全身を再生できる。――だが、それは俺を不死たらしめる要素の一つ・・でしかない」



 牛頭人身の怪物。

 ミノタウロスが、傷一つなくそこに立っていた。


「な、んで……」


「……冥土の土産に教えてやろう。魔王様から賜った、俺のもう一つのスキルを」



 そう言われて僕は咄嗟に、ミノタウロスのステータスを見てしまった。





▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

【ミノタウロス】 レベル:50

性別:オス 種族:魔物、魔族、悪魔、墓守(ミノタウロス)


【スキル】

迷宮改変ダンジョンマスター……自在に迷宮の地形を操作する権能。

輪廻転生リインカーネーション……肉体の一部、または全てを、記憶とスキルを引き継いで新生させる。このスキルは死後にも自動的に発動する。このスキルは【魔王の墳墓】内でのみ使用可能。


【備考】

なし

▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲






「【輪廻転生リインカーネーション】……!?」


「俺は貴様に解体される度に、その部位を新たな存在として新生・・させていた。貴様の解体スキルは、あくまで肉体に傷を付けるもの。再生させるのではなく転生として、ゼロから全く別の存在に新生すれば、貴様の再生阻害も無意味と化す」



 て、転生……?

 死後、魂は別の存在に生まれ変わるっていう、アレか?

 ミノタウロスは自分の肉体を、別の存在に生まれ変わらせる事ができるのか?



「魔王様が斃れた後も、魂は不滅であるのと同様に……魔王様の魂を身に宿した俺もまた、不滅。この魂ある限り、この身が塵すら残さず滅ぼされても、俺は何度でも蘇るのだ」


「……ッ」


 ミノタウロスの言う事が本当なら、僕は詰んでしまっている。

 塵すら残さず解体しても、即座に輪廻転生して無から蘇るというのだから。

 そんなインチキじみた芸当に、対策など持ち合わせていない。


「それでもっ!!」


 それでも、僕が諦める訳にはいかない。

 僕が死ねば、ミノタウロスはシアを追いかけるだろう。

 シアが地上に逃げ切るまでの間、何としてでも時間を稼がなければならない。


「【解体】ッ!」


 既に限界を迎えている体に鞭打って、僕は解体スキルを発動する。

 至近距離に居たミノタウロスは回避する事ができず、直接接触による最大威力の解体が発動し――








「言っただろう、無意味だと」




――何も、起こらなかった。



「は……? なんでっ」


「俺の肉体は細胞から再生するたび、より強靭な肉体へと進化していく。俺の防御力は今、お前の解体スキルの攻撃力を上回った」



 直接接触での解体スキルが、真正面から受け止められた……

 こんな経験は初めてだった。ドラゴンでさえ容易く切り刻む攻撃力なのに!


「化け物……」


 生半可な攻撃を通さない魔王の加護。

 細胞一片から再生し、その度に進化する進化細胞。

 そして迷宮にいる限り、無から即座に転生してしまう、輪廻転生。


 この三重のギミックが、ミノタウロスを不死身の怪物に仕立て上げている……!!



「お前との戦いは愉しかったぞ、シテン。――さらばだ」


 【迷宮改変ダンジョンマスター】スキルの発動。

 完全解体も使えないほど消耗した今の僕では、それを阻止する事はできなかった。



 全方位から迫る岩壁が、僕の身体を押し潰した。


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